「ヘディングは本当に悪なのか」専門家に聞いてみた

写真拡大

12日、アメリカサッカー協会が「10歳以下の子供に対してヘディングを禁止する」というニュースが世界をかけずり回った。

今回のアメリカサッカー協会の発表は、国内で競技中の「脳震盪」が問題視されており裁判が起こされたことに由来する。

ヘディングのおこり

19世紀にシェフィールド・ウェンズデイの選手がヘディングを開発してから約150年の月日が流れた。重くて水を含むと鉄球のようだったというボールを頭で扱うことは、「勇気ある」プレーだったという。

素材の進化もあり現代のサッカーボールは、軽くより飛ぶようになった。しかし、ヘディングが痛くて衝撃を感じることに違いはない。

海外の潮流は?

2014年3月にサッカーの「ヘディングは体に毒である」という記事をQolyでも取り扱った。

アン・マッキー博士によるとパトリック・グランジュという子供の頃からヘディングの練習を盛んにしていた選手の脳に大きな損傷があることが説明された。グランジュの脳に本来ボクシングなどの競技者に見られる脳疾患が見つかり、ヘディングの危険性について説かれていた。

同年8月にマイケル・グレイ博士は子供達のヘディングの危険性を発言している。

「子どもたちはサッカーボールをヘディングするべきではない。一体何歳になればヘディングをした際にもしっかりとボールを跳ね返す丈夫な首に成長するかについては、我々も分からない。私の同僚の中には、それが14歳だと主張する人もいる。しかし、それは個人差があると私は考えている。さらに言えば、頭にボールがぶつかった際、脳は揺れ、回転を始める。脳は前後にはずむ。そしてそれは頭蓋骨の内側に接触し脳の衝撃となり、また新たなダメージをもたらすのだ」

プレミアリーグでは昨シーズンより、頭部負傷した選手は一度ピッチからでないといけなくなった。こう考えると、海外では「ヘディング=身体に悪い」という図式ができているように感じる。

それは本当なのだろうか?実際にヘディングはどのぐらいの衝撃度なのか調べてみた。

ヘディングの衝撃度

ヘディングについて研究した論文「側面方向からのサッカーのヘディングによる頭部衝撃の解析(生体計測)」「サッカーのヘディングによる頭部衝撃の解析」などによると、

ヘディングをすると場所・初速に関係なく脳中心部にいくにつれ強い応力がかかる。 側頭にボールを受けた場合、正面よりも強い応力がかかる。 頭部にかかる加速度は頭蓋骨に近い位置の方が高い。ただし、衝突後は加速変化はすぐに低下する。 脳中心部のHIC(頭部傷害値)は衝突時に加速度が大きく影響を受けない代わりに衝突後も加速度変化が残る。

という研究結果が報告されている。

どちらにしてもHICは脳全体では約70であった。同値は、1000を超えない限りは死亡確率は0であると言われている。

つまり、「1度のヘディングでは安全」なのだ…が、1試合中にヘディング動作は繰り返し行われる。つまり、ダメージが回復しきらないうちに次の衝撃が連続してやってくるというわけだ。そのために、実際の試合、シーズンを通じたヘディングの影響は現在未知数になっていて、まだ諸説ある段階なのだ。

子供達がヘディングをするということ

そこで、実際に論文の著作者である成蹊大の和田有司助教に話を伺ったところ

「ヘディングの子供への影響が懸念されていることは承知しておりまして、子供への影響についても検討中です。 しかし、子供の計算モデルの構築など多くが準備中であり、考慮しないといけない点も多岐にわたるので現在の段階では、有害、無害のコメントを出すのは困難です」

とのコメントを頂いた。あくまで大人と子供とでは衝撃度が違い、有害か無害かの判断は現時点では難しいという。

実際に先行研究によるとヘディングは記憶障害、集中力の低下について報告されているケースが多い。一方で、それが本当にヘディングの影響からなのかは定まっていないという。

加えて、子供はいわゆる頭が大きく身体が未発達であることからバランスが悪い。へディングで椎骨動脈閉塞を起こしたケースもあるというが、これは大人では見られないことである。

サッカーにおいてヘディングはキックと共に重要な基本動作の1つである。しかし、ただでさえ90年代までに比べるとオリヴァー・ビアホフやハレド・ボルヘッティのような“ヘディングの専門家”タイプは減りつつある。

育成で重要な時期である子供達のヘディング動作が制限されれば、当然大人になってもヘディングの技術には限界があるだろう。未来のフットボールでは、ヘディンガーは“絶滅危惧種”になるのだろうか?それもまた寂しい話ではあるが…。