【恋する歌舞伎】第4回:届かなかった願いの糸!世界を救った「普通の」女の子の物語

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日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

全五段で構成される超大作『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』は、通しで上演することは珍しく、それぞれの段が独立している。そこで「恋する歌舞伎」では前回に続き、男女の悲恋物語に主軸を置いている名場面に注目。今回は四段目「三笠山御殿の場」を紹介!◆【1】彼氏だと思っていたのに、他にも女性が!糸のように絡み合う三角関係


ここはのどかな村。酒屋の娘でちょっとおませな女の子・お三輪は、隣に越してきた美男子・求女(もとめ)君と付き合いたてほやほや。どこかミステリアスで、優しい彼にお三輪はぞっこん。ところが求女の家には毎晩、美しい女性が通っているという噂を耳にしてしまう!

もしかして付き合っていると思ってるのは自分だけ…? 複雑な乙女心。と、そこへタイミングよく求女の家から噂の美女が出てきたことで三角関係が発覚、もれなく修羅場に。両者譲らず、ついには夜が明けそうになる。慌てて帰ろうとする美女だが、実は求女もこの子の素性を知らない。今日こそ正体を突き止めようと、求女は彼女の振り袖に赤い苧環(おだまき※)の糸を縫いつけて追いかける。お三輪も逃してなるものかと、求女に白い糸をつけ後を追う。ところがお三輪の糸だけ途中で切れ、二人とはぐれてしまうのだった。

※つむいだ麻糸を四角い木枠に巻き付けた糸巻きのこと

◆【2】実は求女は藤原淡海、美女は橘姫という高貴な人物。背景には蘇我入鹿!


追ってたどり着いた先が入鹿の御殿であることから、謎の美女は大悪人蘇我入鹿の妹・橘姫であることが判明。かくいう求女も世を忍ぶ仮の姿で、実は入鹿を討つために奔走している藤原淡海なのだ。敵方に素性を知られた淡海は不憫と思いつつ姫を殺そうとするが、姫は既に覚悟が出来ており「貴方の手にかかって死ねるなら」と抵抗しない。その姿をみた淡海は、妹という立場を見込んで「入鹿に奪われたある大事な剣を取り返して来て欲しい」と頼む。悩んだ末に承諾する橘姫。成功した暁には夫婦になるという約束を取り交わし、手に手を取り合い御殿の中へ進むのだった。

そんなことは露知らず、やっとのことで御殿にたどり着いたお三輪。ここが今や政治の中枢であることなど知る由もなく、ただ求女を取り戻すことだけを考え、御殿に入ろうとするが…。

◆【3】いじめ倒されても負けない。愛する人に会うためなら


御殿の入口には、いかにも意地悪そうな官女たちが待ち構えていた。「高貴な人の結婚式があると聞いたので見学したい」と嘘をついて入ろうとするも、官女たちはお見通し。無知な娘をからかってやろうと、お酌の仕方を教えるふりをして罵倒したり、田舎の歌を歌わせたりと、散々な目に合わせる。求女に会うため…と必死に耐えるお三輪だが、結局は「そんな約束をしていない」と置き去りにされてしまう。恥をかかされた挙句、奥からは求女と橘姫の結婚を祝う声まで聞こえてくる。

嫉妬が最高地点に達し、御殿に乗り込もうとするお三輪。すると見ず知らずの男に、突如、刀で刺されるというとんでもない展開に! 男(実は淡海の父・鎌足の使者)がいうには、蘇我入鹿を倒すには、疑着の相(※)が出ている女の生血が必要で、お三輪が今、まさにその状態だったために刺したのだという。

※極度の嫉妬心と怒りに狂った状態

◆【4】届かなかった七夕のおまじない。最期にもれ出たお三輪の本音とは


意識が朦朧とする中、求女が実は淡海という立派な人だということ、自分の死は世の中のためになることを聞かされる。そんな方と一時でも愛し合い、役に立てたことは名誉だと喜ぶお三輪。

このあと淡海らの働きで見事に入鹿討伐に成功し、五段に及ぶ長編ドラマは幕を閉じる。物語全体を通すとハッピーエンドのようにみえるが、お三輪の目線に立つとどうだろう。
彼女は死ぬ間際、白い苧環を抱きしめている。これは「苧環の糸のように長く2人が結ばれますように」というおまじないに因んで、七夕の日にお三輪が求女に渡したものだった。
そして「最後にお顔がみたい。未来は添うてください…恋しい」と声を振り絞る。お三輪が望んだことは、大きな偉業を成して後世に名を残すことよりも、ただ好きな人とずっと一緒にいたい。その一念だけだったのかもしれない。
(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)