格下相手という状況を念頭に置けば、選手個々のパフォーマンスも物足りない。特にCBは、気を引き締める必要があるだろう。
 
 シンガポール戦では吉田と森重、カンボジア戦では吉田と槙野がコンビを組んだが、ともに盤石だったとは言い難い。アジア2次予選で韓国とともに無失点を続けていられるのは、相手の力量不足に助けられているからだ。
 
 ふとしたタイミングで致命的なミスを犯す悪癖は、もう直しようがないのかとすら思えてくる。なんでもないロングボールを後ろに逸らしてCKを与えてしまう、くさびに安易に食いついて一瞬で入れ替わられてしまう、さらにはショートパスをかっさらわれてシュートまで運ばれてしまう……。フィードや持ち運びなど、攻撃面でのアピールに功を焦ったのかもしれない。しかし本職の守備を疎かにするのはいただけない。
 
 期待されたフレッシュマンのなかでも、“空振り”に終わった選手がいた。とりわけパフォーマンスが低調だったのが遠藤だ。これまでは右SBで光明を見出したかに思われたが、A代表のボランチは荷が重かったのだろうか。周囲との距離感に問題を抱え、攻守ともに効果的なプレーができなかった。単純なパスミスも散見し、連係と技術の両面で課題が噴出した形だ。
 
 本人は先発したカンボジア戦を「代えられても仕方ないなと思います」と振り返るが、世代交代が叫ばれるなかでU-22代表のキャプテンが下を向くわけにはいかない。まずはクラブで自信を取り戻し、再びポジション争いに割って入りたい。
 
 同じくU-22の南野も、それほどアピールできなかった。前回のイラン戦に続き、カンボジア戦も80分を過ぎてからの登場だったが、「今回はボールも触っているし、(出場時間が)短かったというよりは、そのなかでもっとなにができたかなという気持ちのほうが強い」(南野)と反省する。FWに求められるのは、なによりゴール。その点で、プレーそのものは低調ながら2試合ともに結果を出した本田とは対照的だった。
 
 さらに厳しく言えば、トップ下のふたりも合格点に達しないだろう。清武も香川も展開のなかで埋もれる場面が目立ち、ドイツで見せるような輝きは放てなかった。思うようにボールが受けられず連係面に問題を抱えるのは明らかで、彼らだけに責任を負わせられないのは明らかだが、もし今後も活用法が見つからないのであれば、トップ下を排除した4-4-2は現実的なオプションとして検討すべきだろう。
 以上をすべて勘定に入れると、マイナス面がやや上回るというのが11月シリーズの総括だ。特に悔やまれるのが、カンボジア戦の前半を散々な出来で終えた点。この試合でハリルホジッチ監督は過去最高にチャレンジングなメンバーを起用したが、これが裏目に出てしまった。
 
 すなわち、ようやく芽生え始めた競争意識がこの失敗により鎮火する恐れがある。もし指揮官が再び石橋を叩いて渡るような采配を振るえば、チーム力の底上げは停滞してしまう。これこそが最大の懸念事項だ。
 
 ただでさえアジア2次予選は強国との対戦がなく、消化試合の様相を呈している。誤解を恐れずに言えば、たとえ“本気”のメンバーで勝ったところで、チームにとってはそれほどプラスにはならないのだ。それは「レベルは違いますし、同じように準備はできない」という冒頭の言葉で、指揮官自らが証明している。
 
「いろんな選手にチャンスがあるので、今のチームはすごくポジティブな競争ができている」
 カンボジア戦の前に長谷部がそう語った手応えを、たった一度の失敗で絶やすのはあまりにも惜しい。
 
 2連勝で2015年を締めくくった日本代表は、2016年にどんな姿を見せるのだろうか。そこに新たな選手の名前が刻まれることを、大いに期待したい。
 
取材・文:増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)