◆特集 スポーツの秋、食の秋(6)

スポルティーバがお送りする「スポーツと食」の特集。今回は、フュギュアスケーターの荒川静香選手、高橋大輔選手など、多くのトップアスリートを長年「食」の面から支えてきたスポーツ栄養士の石川三知(いしかわ・みち)さんに、食欲の秋、そして寒い冬に向けて、スポーツ選手に心がけてほしい「食」のポイントを教えてもらうとともに、彼女がこれまで「食」を通じて共に歩んできたトップアスリートたちとのエピソードも語ってもらった。

■秋から冬にかけて選手が注意すべきポイント

 フィギュアスケートやスピードスケートのような冬の競技はシーズンイン、競泳や陸上など夏の競技は試合のシーズンが終わり、ここから次のシーズンに向けての身体づくりが始まる時期ですから、競技ごとに食事指導もそれぞれ違うと思っている方が多いと思うんですが、実は最も共通点が多いのが、この秋から冬の季節で、ポイントは、『病気への抵抗力を上げる身体づくり』です。

 冬の競技の選手は各地を転戦する生活が始まります。気温が低くて空気が乾燥している場所での競技なので、ただでさえ風邪をひきやすい環境です。とくにフィギュアスケート選手は衣装だけではなく、氷上練習中も薄着なのです。そんななかで体調を崩さず、試合にベストの状態で臨めるような食事とコンディショニングが何よりも大切です。

 一方、夏の競技の選手はこのオフのトレーニングで身体もメンタルもどこまでタフに鍛えられるかが来シーズンを左右する。でも、厳しいトレーニングでカラダを苛めれば、当然、疲労も溜まり、免疫力も下がります。だからこそ、「風邪をひかない」「インフルエンザに罹らない」「練習を休まない」ための食事とコンディショニングが大切です。こうした、一見、地味で当たり前に思うことこそがいちばん重要で、ベースになるんです。

 では、どうやって抵抗力を上げるのか? まずは病気の菌やウイルスが体に入ってこないようにすること。これは食事以前の話ですが、きちんと手洗いやうがいを習慣づけるとか、毎日、部屋の換気をする。大学の体育会系スポーツだと、けっこう寮の部屋が汚かったりするんですね(笑)。そういう時は「せめて、顔に触れるお布団の襟元と枕だけでもタオルを掛けて使って、毎日洗いなさい......」といったアドバイスから始めなきゃいけないこともあります。

■寒くなるこの季節、水分とオレンジ色の野菜・果物が重要なワケ

「抵抗力」「免疫力」のアップについて、まず必要なのは「風邪の菌やウイルスの入り口」である、鼻や喉などの粘膜の強化です。そこで大事なのが、しっかりと水分を摂って、粘膜に潤いを保つこと。子どもの頃に泥遊びしていて、手がガサガサだとすぐに汚れるけど、手に水分があって、しっとりしていると泥が手につきにくい......ということと似ていて、粘膜に十分な潤いがあれば、菌やウイルスが付着してもブロックしてくれます。

 そこで重要なのが、水分の補給。実は、この時期は空気が乾燥していて体表から蒸発してしまうため、水分が不足気味。ところが、暑い夏と違ってあまり水を飲みません。ただ、選手たちが感覚的に水を飲みたいと思っていないのに、無理やり「水分をしっかり摂って」と言ってもなかなか難しいところがあります。ですから、お味噌汁やスープを入れるお椀やボウルをいつもより大きくする。そんな工夫で、さりげなく毎日の水分の摂取量を増やせるようにしています。

 もうひとつ、粘膜の強化という意味で重要なのが「ビタミンA」です。とくにカボチャやニンジン、みかん、柿など、オレンジ色の野菜や果物に多く含まれる「カロテン」を積極的に取ると粘膜が強くなります。ビタミンAには過剰摂取による障害もあるのですが、野菜や果物に含まれるカロテンは必要な時だけ体内でビタミンAに変わってくれるので、その心配もありません。強い粘膜を保って、菌やウイルスが身体に入り込まないようにするため、オレンジ色のカボチャやニンジンなどを多めに食べるように選手たちに伝えています。

■身体の「冷え」を防ぐ!

 鼻や喉の粘膜を強化しても、菌やウイルスが体内に侵入してしまった時のためには、どうしたらいいでしょう? 寒い季節に気をつけたいのは身体の「冷え」を防ぎ、体温を高く保つことです。体が冷えると代謝も落ちますし、免疫力、抵抗力が下がります。では、どうやって体温を高く維持するか? いちばん簡単なのは暖かいスープや鍋物など、単純に暖かいものを食べることで体の中から温めること。さらに「あんかけ料理」などとろみのあるものだと、胃の中での滞留時間も増えますから、お腹の中にカイロを入れたように、ジンワリと内側からカラダを温めてくれるので、冷えの予防に最適です。

 また、「冷えを防ぐ」という意味ではタンパク質を上手にとることも有効です。タンパク質を食べると体温が上がりやすい。なぜかというと、消化するためにより多くのエネルギーを使うからです。また、秋から冬のこの季節は寒いので、関節や筋肉の可動域が小さくなりがちですから、良質なたんぱく質をしっかりと摂って、適切なトレーニングと組み合わせて筋肉量を維持する。それが、冷えの予防にもつながります。体内に入り込んだ菌やウイルスと戦う白血球もタンパク質から作られるので、その意味でも大事です。

 時々、体脂肪が少なく痩せていると体が冷えやすいと勘違いしている人がいるのですが、冷えを防ぐにはインナーマッスルだけではなく、大きな筋肉(殿筋・ハムストリング・大腿四頭筋)もしっかりと付けることが効果的です。

 たとえば、フィギュアスケートの高橋大輔選手は一時期、体脂肪率が「測定不能」なほど低かったのですが、彼の場合は筋肉量がしっかりあったので、比較的冷えには強かったですね。

■選手の免疫力をアップしてくれる食べ物とは?

 免疫力を高めるという意味ではビタミンCも大切です。みかんや柿などの果物もいいですし、大根やじゃがいもなど、ビタミンCを多く含んだ根菜類は葉物などに比べてカラダが冷えないのでお勧めです。さきほど、体内に入り込んだ菌やウイルスと戦う白血球を作るのがタンパク質だという話をしましたが、ビタミンCはその白血球の動きを活性化してくれる栄養素です。

 それから、秋の味覚のキノコ類もいいですね。キノコは低カロリーですが、免疫力を高めるグルカンを多く含み、ビタミンB群や食物繊維も豊富です。ちなみに、ビタミンB群は食べたタンパク質や、炭水化物を代謝してくれる栄養素。食物繊維の豊富なキノコ類と、腸内の善玉菌を増やしてくれる発酵食品を積極的に食べることで、腸の状態の健康に保つことで免疫力を高めてくれます!

(つづく)

【プロフィール】
●石川三知(いしかわみち)Office LAC -U 代表。
〜指導歴〜
団体・チーム:全日本男子バレーボールチーム、新体操日本代表フェアリージャパン、陸上男子短距離日本代表チーム、トライアスロンナショナルチーム、デンソーボート部(女子)、専修大学アメリカンフットボール部、中央大学水泳部、東海大学陸上部短距離ブロック
個人:高橋大輔選手、荒川静香選手(ともにフィギュアスケート)、岡崎朋美選手(スピードスケート)、萩原智子選手(競泳)、末続慎吾選手(陸上)ほか
現在は、競泳(渡部香生子選手・瀬戸大也選手)、陸上(都留文科大学・日本陸連ダイヤモンドアスリート)、ラグビー(東海大仰星高校)など多くのトップアスリートの栄養指導を担当している。

川喜田研●構成 text by Kawakita Ken