児童に体罰を加えたバレーボール監督が追放処分。体罰が傷害罪に問われないのはなぜか?

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11月10日の報道で、熊本県内の小学生のバレーボールクラブの男性監督が、女子児童に体罰を加えたとして熊本県の連盟から永久追放処分とされたことがわかりました。複数の児童と保護者への聞き取り調査を行ったところ、「平手打ちされた」「ボールを顔にぶつけられた」「馬乗りになって叩かれ続けた」といった行為があったと言います。

この件に限らず、教育者による子供への体罰がしばしば報道されます。子供を学校に通わせている保護者としては、他人事ではありません。一方で、大人であれば明らかに暴行や傷害と思われるような行為でも、刑事事件に発展するケースは少ない印象があります。法律的には体罰はどのように位置づけられていて、実際にはどのように処理されているのでしょうか?

体罰と懲戒の境界とは


学校における体罰は、法律で明確に禁止されています。学校教育法第11条によると、教員は教育上必要がある場合に生徒児童に対して懲戒を加えることができますが、体罰を加えることは許されません。体罰を加えた者に対しては、暴行罪や傷害罪などの刑事責任や、損害賠償などの民事責任が問われることになります。

それでは、どのような行為が「体罰」に当たるのでしょうか? 体罰の判断基準としては、文部科学省の平成19年2月5日付通知に「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方」が示されています。これによると、殴る・蹴るなどの行為や、長時間正座や直立をさせることなどは体罰に当たりますが、放課後に教室に残留させ、あるいは教室内に起立させることなどは体罰に当たらないとされています。

もっとも、これらの枠組みで一律に決まるのではなく、「当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様などの諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある」とされています。実際の裁判例でも、行為に至った目的や経緯、行為態様等を具体的に検討して体罰に当たるか否かが判断されています。

体罰と見なされた例


例えば、中学校の教員が指示に反論した生徒の頬を平手で2回殴り、髪の毛を鷲掴みにして引っ張った行為は体罰に当たるとされましたが、中学校の教員らが生徒の頭髪を黒く染めた行為については、教育的指導の範囲内であるため体罰には当たらないとされています。

また、高校の野球部監督が、部員同士で暴行事件を起こしたことに対する制裁として、当該部員を投げ飛ばしたうえに顔面・腹部を数回踏みつけるなどした事案については、刑事裁判で暴行罪が成立すると判断されました。もっとも、現段階では体罰の基準は必ずしも明確とは言えないので、今後の裁判例の積み重ねによってできる限り明確化していくことが求められます。

体罰が表面化しにくい理由


体罰に対する考え方は、時代とともに変わってきています。かつては、教育の一環としてある程度の体罰は見過ごされてきました。その背景には、1980年代に校内暴力が多発していたことや、教師という職業が全面的に信頼されていたなどの事情があったと思われます。

その後、社会情勢や価値観の変化によって、体罰が広く問題視されるようになってきました。とはいえ、現在でも学校での体罰は表面化しないケースが多いように思います。その原因としては、体罰を肯定する旧来の価値観が根強く残っていることに加え、学校との信頼関係が崩れるのを避けるため、あるいは進級・進学等で不利益に扱われることを恐れて通報を躊躇する場合などが考えられます。また、ケガの程度が軽い場合などは示談が取り交わされ、表面化せずに解決することも多いでしょう。

体罰をなくすためにできること


体罰は、抵抗しない相手に対する一方的な暴力であり、教育の範疇を超えた違法な行為です。生徒児童に恐怖心や反抗心を与えるだけで、決して教育的効果が得られるものではありません。体罰によって死亡した事案や、体罰を苦にして自殺した事案も後を絶ちません。

このような体罰をなくしていくためには、疑わしい行為があった場合にすぐ関係機関等に相談・通報することが重要になります。今回のバレーボールクラブのケースも、児童の保護者の通報によって調査が行われ、体罰の事実が明らかとなって処分が下される結果となりました。

そして、加害者の責任を追及するためには、体罰があったことを裏づける証拠も重要になります。医師の診断書や傷跡の写真、会話録音、目撃者の証言などが考えられますが、当時の経緯を詳しく記録しておくこともよいでしょう。なお、各地の弁護士会では、子供の人権に関する無料相談窓口が用意されており、学校での体罰に関する相談も受けつけていますので、積極的にご利用してほしいと思います。

●戸門大祐(弁護士、戸門法律事務所)