新たな理想像を追い求める本田…“王様”のベールを脱ぎ捨てた背番号4の変化を追う

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 日本代表の中で今、誰よりも逆境の中にいる選手だと言っても過言ではない。所属クラブのミラン(イタリア)では、先発から外れる試合が続く。途中交代で出場したとしても、時間は10分足らず。10月初めに注目を集めたクラブやフロント、ファンに対する苦言。それ以降はイタリアで不遇をかこってしまっている。

 しかし、今回の東南アジア遠征2試合でも、結局誰より結果を出したのは本田圭佑だった。チームとして良い手応えを得られたシンガポール戦、停滞感が漂ったカンボジア戦、その両方でゴールという文句なしの結果を示したという事実は、しっかりと評価されるべきである。

 先発出場したシンガポール戦では、チーム2点目となる得点だけでなく、周囲を生かすプレーでも随所に見せ場を作った。スルーパスやクロスから味方の好機をお膳立て。さらにチームがカウンターを浴びる場面では自陣に向けて踵を返し、全力で走って敵の選手を追走する。かつての本田はトップ下に鎮座し、極端な表現をすれば“王様”のようなプレーをしていた時期もあった。ただ、今は泥臭く、無骨な一面がピッチで多く顔を出す。

 そしてその変化は、細かいプレーと言動をつぶさにチェックしていくと、さらに顕著に理解できるのである。

 カンボジア戦、後半途中にピッチに入った本田が最初に見せた動きが印象的だった。

 中盤で柏木陽介(浦和レッズ)がボールを持つと、すぐに相手最終ライン裏のスペースに走り込み、パスを呼び込んだ。決して足が速い選手ではない本田が、オフ・ザ・ボールの動きでスペースランニングするプレーは、昨シーズンのミランで本格的に右ウイングとしてプレーした頃から意識しているもの。DFに追いつかれ、体がもつれながらもシュートまで持っていく姿は、決して彼本来の動きではなく、得意とするプレーでもない。それでもクラブや代表で今のポジションで起用されているからには不可欠。かつての理想思考だけではない――。そんな本田の現実思考が垣間見える瞬間でもあった。

 終了間際に挙げたヘディングでのゴールで、ワールドカップ予選5戦連発を達成。木村和司氏の記録を超えたことになる。試合後の本田は、その事実を聞いて「意外ですね。これまでもアジア予選(の試合)はあったわけですから」と話した。木村氏が代表としてプレーしていた時代は、まだ日本がアジアで優位な立場ではなかった。一方、1990年代以降は一気に日本の実力が向上し、W杯にも5大会連続で出場中。その間のW杯予選に出場してきた代表選手たちが木村氏の記録を超えていてもおかしくはなかっただろうが、今回の本田までその存在は出てこなかった。本田は率直に、その事実を不思議に思ったのだろう。

 アジア、そして世界の中での日本。その観点でも、ここ最近の本田の発言には変化が見られる。

 2014年のブラジルW杯までは、とにかく強気な言葉が多かった。2012年10月にブラジルに大敗した時は、「逆に負けたからこそ意味がある」と言い切っていた。また翌2013年11月のベルギー戦を前にしたコメントもインパクトがあった。

「当然ながら勝算がある。ベルギーも評価だけ高くて(当時FIFAランキング5位)、でも(サッカーの世界で勝利してきた)歴史のある国ではない。そのあたりは(直近で戦った)オランダとは背負っているものは違う。対して日本は世界では背負うものも何もないチャレンジャー。自分たちをなめている奴らを一人ひとりぶっ潰していくだけですから」

 つまり、当時は自分たちより上に位置する相手にとにかく打ち勝っていくかという考えが本田の頭の中を占めていた。ただ、周知のとおり、2014年6月にブラジルで味わった痛恨の敗北、そして今年1月に行われたAFCアジアカップ2015での敗退によって日本代表、そして本田のスタンスは少しずつ変わっていく。