10月末に閉幕したワールドカップの熱がまだ残る中、11月13日に開幕した13年目を迎えるラグビーの国内最高峰トップリーグ。翌14日に愛知・パロマ瑞穂ラグビー場で行なわれた開幕節のヤマハ発動機ジュビロとトヨタ自動車ヴェルブリッツの試合は、特に、ワールドカップで日本代表として活躍したヤマハ発動機のフルバック(FB)五郎丸歩が国内初出場するとあって、ラグビーファンだけでなく世間の耳目を集める一戦となった。

 集まった報道陣の数は、もちろん瑞穂ラグビー場のラグビー取材では過去最多(瑞穂で行なわれた日本代表戦よりも多かった!)。テレビ、新聞、ラジオ、雑誌を含めて試合自体に170人、来場したファンにコメントを聞く周辺取材も入れると200人。試合を撮影していたカメラを数えると約50台、TVカメラは10台を超えていた。何より東京のテレビ局の有名女性アナウンサー数名が取材に来ていたことには驚いた。

 ファンも、五郎丸が出場する試合は14時キックオフの第2試合にも関わらず、朝10時の段階では約400人が列を作った(1番早く並んだファンは朝6時40分!)。そのため開門は10分ほど早められた。

 ただ、1試合目には豊田自動織機、2試合目もトヨタ自動車とヤマハ発動機という東海地方を本拠地とするチームが4チーム中3チーム登場するとあって、それぞれのファンも多く、さほど五郎丸だけを目的に来たというファンが目立つことはなかった。警備も通常の40人のところ100人、高校生のお手伝いも通常30人のところ140人と増員したため、会場はそれほど混乱してはいなかった。

 事前に約12000枚のチケットが完売と聞いていたが、前日の開幕戦同様に、時折雨が降る悪天候だったため、各企業に割り当てた分のチケット所持者の中には来ない人も多かったようだ。東海の3チームに対して7000枚を割り当て、そのうち約3000人はショートしてしまい、観客人数は8676人に留まったという(この数字は2試合合計で、1試合目で帰ったファンも少なからずいる)。

 瑞穂ラグビー場におけるラグビーの試合の最多動員記録となり、確かに通常の試合よりも人数が多かったのは事実だ。だが、この日に試合が行なわれた3会場の中では最も少ない観客で予想していたよりも、熱気を感じることはできなかった。ワールドカップを見て「ラグビーをスタジアムで見てみたい!」「五郎丸選手に会いたい!」と感じた新しいファンに対して、門戸を大きく広げることができなかったことは残念でならない。しかし、起こったことを悔やむよりも、今後の対応をどうするかが大事。協会と各チームがより連携を密にし、一般向けのチケットを増やし、当日券の販売などを早急に検討してほしいと思う。

 それでもヤマハ発動機のブースのグッズの売り上げは、通常の7倍以上だったという。ファンクラブ会員以外でも買っていく人が多く、ユニフォーム(20枚)、ボンチョ(50枚)、チームマフラー(70枚)、キーホルダー(60個)、ミニボール(50個)などは早々に完売してしまった。

 試合の方は予定通り、五郎丸が15番を背負って先発。前半4分にヤマハがトライを挙げ、早々にゴールのチャンスが訪れ、あの「五郎丸ポーズ」をとった。一斉にフラッシュが焚かれて、「おじさんがドレミファソラシドと言っていましたね(※)」(五郎丸)。ただ右サイドライン近くからと角度が難しいこともあり、決めることはできなかった。「プレッシャーはありませんでしたが、外す時は外します」(同)
※テレビ番組で、五郎丸がキックの助走時に心の中で「ドレミファソラシド」と唱えているという秘話が明かされた

 しかし8分、すぐにヤマハが再びトライを挙げて、また五郎丸にゴールのチャンスが訪れた。今度は角度が良かったこともあり、いとも簡単に決めた。なお、このゴールで五郎丸は、元サントリーのセンター(CTB)ニコラス ライアン(現三菱重工相模原)以来のトップリーグ通算2人目となる1000得点を達成した。「1000得点というのはチームが僕にチャンスをくれたから。それを8年かけて積み上げてきたものなので、個人のタイトルというよりはヤマハ発動機ラグビー部のタイトルと受け止めています」と、快挙達成にも、まったく喜んだそぶりを見せず、五郎丸らしくクールにチームに感謝した。実は昨シーズンの最終戦で、五郎丸は簡単なキックを外していた。あれは開幕戦を盛り上げるために、もしかしたら、今シーズンの開幕戦に取っておいたのかもしれない......。そんな勘ぐりをしたくなるくらい、やっぱり「スターとなる人は持っている!」と思わせた。

 雨の影響もあって、時折、五郎丸は陣地を回復させるキックを蹴るものの、ミスキックもあり、ランでは相手のタックルをもろに受けてしまうなど、特筆すべき活躍を見せることができなかった。五郎丸がボールを持つと相手選手が「ごろうまるっー!」とプレッシャーを掛けるなど、マークもされていた。五郎丸のミスを誘えば、流れを引き寄せられると思ったのかもしれない。

 後半に入るとトヨタ自動車が反撃したものの、試合は18−11でヤマハ発動機が逃げ切った。五郎丸はMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選ばれることはなかったが、試合終了後、ワールドカップに出場した五郎丸とCTBマレ・サウに花束が贈呈され、混乱を避けるため、五郎丸選手の会見が特別に行なわれた。

「発言も態度も本当に世界の舞台で活躍するにふさわしい男になった」と清宮克幸監督も目を細める成長を見せた五郎丸はまず、久しぶりのトップリーグと日本代表の違いに関して、「エディー(・ジョーンズ元日本代表ヘッドコーチ)が言っていたのは国内と海外ではゲームのスピードが全然違うということ。走っている距離、ボールが動いている時間が違うと言っていましたが、改めてそれを感じる試合でした。雨というのもありますが、少しスローだった」と少し、トップリーグに苦言を述べた。

 また、おそらく自分でもトップパフォーマンスではなかったことは感じていたようで、今後のメディア露出に関しては「みなさんの前に立つ機会があれば、時間が許す限りは出させていただきます。ただ僕はプレーヤーなのでグランドで自分のパフォーマンスをしっかりと出せるようにトレーニングを積みながら、バランスを考えながらやっていきたいと思います」と含みを持たせた。おそらくジョーンズ元HCがこの試合を見ていれば、すぐに五郎丸のパフォーマンスを怒ったはずだが......。

 ヤマハ発動機の次戦(11月21日)は、ホームのヤマハスタジアムに豊田自動織機を迎える。「まだ(ヤマハスタジアムはラグビーで)満員になったことがないので、まずは満員になっていてほしい。空いている席がないくらいびっしり埋まって青一色の中でプレーしたい」(五郎丸)。きっと、来週はヤマハブルーでスタジアムが覆われることになるはずだ。

 ヤマハ発動機は、昨シーズン、惜しくもトップリーグ準優勝に終わり、「今シーズンこそ」の気持ちが強いはずだ。「チームが変われば目標も変わります。ただ、自分がベストのパフォーマンスを出さなければいけないところは変わらない」と本人が言うとおり、初優勝のためにはFB五郎丸の活躍は欠かすことができない。

「五郎丸狂想曲」――。それは今シーズンいっぱい続くことになるはずだが、パフォーマンスでもファンを魅了してほしいと願うばかりだ。

斉藤健仁●文 text by Saito Kenji