ポジションも環境もお構いなし…武藤嘉紀がドイツで得た強さと多様性とは

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 ちょうど1年前、同じシンガポールのピッチを踏んだ時、彼は今の自分を想像できただろうか。

 2014年10月。日本代表はシンガポールのナショナルスタジアムでブラジル代表と対戦した。ネイマール(バルセロナ)にハットトリックを許すなど、散々な結果となってしまったことはまだ記憶に新しい。

 この試合に武藤嘉紀(マインツ)は後半途中から出場していた。ハビエル・アギーレ前監督から招集を受けて初めて日の丸を背負うことになった彼は、ブラジル戦の前月に代表2試合目で鮮烈なゴールまで決めてみせた。当時在籍していたFC東京での活躍度合いも日に日に増し、甘いルックスや慶應義塾大在学中(当時)という要素も相まって、世間の注目が高まり始めていた頃のことだ。

 ブラジル戦に登場した武藤のポジションは、3トップの左サイドだった。武藤は初めて対峙する世界レベルの相手に、果敢な仕掛けを見せていく。まずサイドでの一対一の場面で、得意の縦への突破から好クロスを上げてみせた。それまで個々の局面で日本の選手たちが勝てる場面はほとんどなかったため、この若きアタッカーの突破にはスタジアム中が湧いた。さらに試合終了間際には相手ゴールを強襲。浮き球の競り合いではブラジルDFとの体のぶつかり合いで先手を取り、そのままフィジカルの強さを利用して前に反転して相手を置き去りにした。最後の左足シュートはゴールネットを揺らすことはできなかったが、ここでも個の対決を制してみせた。試合後、「まだまだ自分が思いどおりにできなかったプレーがたくさんあった。この差をどう埋めていくか。それを考えながらこれからやっていかないといけない」と殊勝に語っていたが、武藤が世界レベルで揉まれれば間違いなく大きな飛躍を遂げられる――。そんな予兆をしっかり感じさせるプレーの数々だった。

 あれから1年が経った。

 武藤はブンデスリーガで香川真司(ドルトムント)も岡崎慎司(現レスター)も成し遂げていないハットトリックを達成するなど、今やドイツの地で毎試合出色のパフォーマンスを見せている。ポジションは1トップ。FC東京時代にプレーしていた2トップ経験を生かしながら、彼は新たなトライの中で結果を出している。

 12日に行われた2018ロシアワールドカップ アジア2次予選のシンガポール戦。武藤は1トップのポジションを岡崎、金崎夢生(鹿島アントラーズ)と争うかに思われたが、フタを開けてみれば、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は左サイドのFWに起用した。奇しくも前年のブラジル戦と同じポジションである。

 久々のサイドアタッカー。武藤がそこで見せたプレーの数々は、興味深いモノとなった。

 まずチームが後方からポゼッションを始めると、この試合の作戦でもあるサイドの幅を使ったボール回しをするために武藤も左サイドのタッチライン付近に位置取った。これまでは足下やスペースで受けて、そのまま縦に抜けていこうとすることが多かったが、今の彼はそれ以外にも違った表情のプレーを見せていく。

 個人での突破ができないと見るや、簡単に周囲にパスを出して、自身は中央よりに動き直す。そこで再度パスを受けると、そこから逆サイドの本田圭佑(ミラン)へのクロスや周囲とのコンビネーションで崩す選択を多用していった。

 注目すべきは、自分が最後に入っていく位置がよりゴールに近いエリアだったことだ。「最近はずっと1トップでやっていたこともあって、FWの動きになることも多々あった」と本人は振り返るが、このゴールへの意識がサイドでのプレーにも乗り移っていることが、単なるサイドアタッカーから進化している証拠だった。

 さらに、いかにもストライカー然とした場面があった。