シンガポール戦で印象的な活躍を見せた金崎は、FW陣の競争を活性化する存在となりそうだ。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト編集部)

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 11月12日のシンガポール戦に3-0で勝利を収めた日本代表だが、識者たちの目にはその戦いぶりはどう映ったのだろうか。シンガポール戦を現地取材した宇都宮徹壱氏と河治良幸氏に話を訊いた。
 
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――アウェーマッチが2試合続く11月シリーズですが、まずはシンガポールに勝ちました。その試合で特に印象に残った選手は?
 
宇都宮「まず金崎に触れないわけにはいきません。欧州では時折、久しぶりに代表復帰した選手が結果を残したりしますが、日本では最近見られなかった傾向です」
 
河治「確かにその意味では珍しいパターンですが、実力者でも久しく呼ばれてない選手が多いのは前監督のザッケローニがメンバーを固定化した側面もあるでしょう」
 
宇都宮「なるほどね。ただ金崎に関して言えば、まずはそこが印象的です。このタイミングで招集され、先発に抜擢されて、さらにはゴールまで決めた。そのストーリーにかなりのインパクトを感じました」
 
河治「前を向いた仕掛け、前線でのポストプレー、サイドに流れてのクロス、チャンスにシュートを打つ。この4つのプレーをハイレベルにこなした。なかでも前を向いたら仕掛けるという姿勢が最上位にあるのが良いですね」
 
宇都宮「ちょっと妄想なんですが、ハリルホジッチは自分の現役時代を金崎に重ねているんじゃないかな、と。時代は違えど、先ほどの4つのプレーはFWとしてのハリルホジッチに当てはまる。指揮官は『自分はFWだった』と事あるごとに言うように、どこかで自分と似た選手を探していた節がありますし」
 
河治「個人的には、金崎はアルジェリア代表の中心だったスリマニに似ていると思います。やっぱりああいうタイプをハリルホジッチは好むんでしょう」
 
――ほかに気になった選手はいますか?
 
河治「まず挙げるなら、柏木です。決して日本の攻撃の全権を握ったわけじゃないけど、考えながらやっていた。相手の様子やチームの疲労度を含め、展開を読めるゲームメーカーとして存在感を発揮しました、時間と対話できる選手だな、と」
 
宇都宮「良い言葉だね」
 
河治「そのうえで、デュエルもできていた。ハリルホジッチって、どんなにゲームメイクが上手くても球際で戦えない選手は使いたがりませんからね」
 
宇都宮「そう考えると、柏木の起用はハリルホジッチなりの柴崎へのメッセージとも受け取れます。決して柏木をダシに使うわけじゃないけど、『こういうプレーを観ておきなさい』というような」
 
河治「柴崎だけじゃなく、Jリーグにいるゲームメーカー的な選手は希望を持てたかもしれませんね。そんなタイプも今では少なくなりましたが。柏木の活躍で同時に感じたのが、日本にゲームメーカーが減っていることです。今回招集された遠藤、山口も、どちらかというと“長谷部側”の選手。ゲームを作ることって、なかなか稀有な才能ですから。そこを持っている選手が柴崎だし、あるいはポテンシャルで言えば川崎の大島なのかもしれない」
――清武に関しては?
 
河治「今後、中心になってもらわなきゃいけない選手です。清武は周りの良さを活かしながら自分も活きられる。実際にシンガポール戦では、金崎や武藤が引き立ちました。ああやってタイミング良く前線で連係が取れた要因として、清武の存在は大きい。そこが香川や本田とちょっと違うところで、攻撃の中心に居座るけど周囲を引き上げる能力がすごく高い。王様は王様だけど、“意見を聞く王様”というか」
 
宇都宮「独裁じゃなく、立憲君主って感じかな。金崎の清武に対するTVのコメントも印象的でしたよね。あれは単に、大分やニュルンベルクで一緒にいたからってわけじゃないと思う」
 
河治「ですね。清武はかなり高い位置にいて金崎のサポートに回っていましたから。その背後で柏木が縦の関係を盛り立てて、清武を下げないようにしていたのも見逃せません。いずれにせよ、清武の“シンクロ率”が攻撃を活性化させました」
 
宇都宮「香川と清武って、そう考えると共存できる可能性は高そうですよね」
 
河治「極論、清武はボランチもできるけど、例えばアンカーに湘南の遠藤みたいなタイプを置いて、香川と清武のインサイドハーフを組ませてみるのも面白そう。ドルトムントで言う、ギュンドアンと香川みたいな関係になれるかもしれません」
 
宇都宮「そうなると、図らずも金崎、清武、柏木というセンターラインの組合わせは、今後にいろんな可能性を広げてくれたのかもしれませんね。まあ、相手が格下のシンガポールだったのでまだなんとも言えませんが。ところで、本田どうでした? 僕的には、本田にそこまで頼らないチームの輪郭を観た気がします」
 
河治「本田はゴールには絡みましたけどね」
 
宇都宮「でもやっぱり存在感は薄かった」
 
――確かに勝負どころの場面に絡んだ一方、全体を通したパフォーマンスは精彩を欠きました。
 
宇都宮「最後のところはさすがだとは思います。そこは凄いし、本田を貶めるつもりはないんですが、いい加減、本田に頼り過ぎるのは危険な気もします。そのなかでシンガポール戦は多少なりとも参考になりそうです」
 
河治「ゲーム展開が本田ありきではなくなったなか、本田は決定的な仕事もした。ここも、シンガポール戦の総括のひとつになるでしょう」
 
――シンガポール戦では、サイドアタックがひとつのキーポイントでしたが、SBの貢献については?
 
河治「長友の成熟、バランサーとしての成長を感じました」
 
宇都宮「あまり目立ったプレーはできませんでしたけどね」
 
河治「長友のコメントで印象的だったのは『どれだけ自分が犠牲になれるか』を突き詰めているところ。もともと『世界最高のSBを目指す』と発言するなど“個”を強調していたけど、ブラジル・ワールドカップとアジアカップの惨敗を経て意識が変わってきています」
 
宇都宮「気の利くSBになりつつある」
 
河治「現在のイメージとしては、右SBの内田に近いかもしれません。だからこそ内田が復帰した際に、左の長友、右の内田がどういう関係性を見せるのかにも注目したいです。
 
 ちょっと話がズレますが、ハリルホジッチが率いたブラジル大会のアルジェリアは、31歳の選手がふたりいるだけでメインを27〜29歳が占めていました。それだけハードワークを求めるということです。
 
 長友は、ロシア・ワールドカップを31歳で迎えます。彼が今後、自身の存在価値を高めるには、持ち前のスタミナや突破力に加えて“職人”としての働き、バイプレーヤー的な立ち位置が求められる。それを本人も自覚して新たな挑戦をしていると思います。インテルでも似た役割を求められているそうですが、アルゼンチン代表のサネッティに今後の自分を重ね合わせている部分はあるかもしれません」
 
宇都宮「なるほど。長友は良い転換期を迎えているとも言えそうです。要するに、長友が今までのように上下動だけじゃないスキルを身に付けつつある。それが日本代表にどういった影響を与えるのかは面白いテーマになりそうです。それによって酒井宏や酒井高がどういう成長を見せるのかにも注目ですね」
――では最後に、おふたりが今後に期待を寄せる選手を教えてください。代表に呼んでほしい選手っていますか?
 
河治「そこには“規格内と規格外”というふたつの軸があって、前者、つまりハリルホジッチのサッカーにすぐフィットしそうな選手の筆頭候補は、湘南の永木だと思います。指揮官が求めているもののアベレージが高い。
 
 一方で規格外というのは、要するに他にはないプラスアルファをもたらせる選手。そこは、アンダー世代の若手などまだ成長し切っていない人材を発掘したいところです。ただ正直、誰がいるかと言えば……」
 
宇都宮「今回のシンガポール戦で力を発揮した金崎、柏木も20代半ばを過ぎています。彼らの“再発見”は良いニュースですが、若手の突き上げには不満を感じますよね。今は南野がメンバーに入っていますが、ボランチやCBにもそんな選手が出てきてほしい」
 
河治「DFは経験も必要なので素材的に面白い選手はいても、現在の主力に取って代わるとなると難しい。まずJリーグで存在感を見せることですね。アタッカーだとヤングボーイズの久保は、どこかのタイミングで入って来るでしょう」
 
宇都宮「それにしても、次世代を託せるような選手が見出しにくいのは不安です」
 
河治「怪我がなければ、名古屋の小屋松も推したいのですが。彼のドリブル、ボールを持った時の迫力は凄まじいものがあります。ドリブルと言えば関根も楽しみなタレントですが、小屋松のスペシャリティには期待したいところです」
 
宇都宮「確かに、彼は良いかもしれないね。でも怪我で思うように経験を重ねられていないのは、かなりディスアドバンテージになってしまう」
 
河治「一方でハリルホジッチは、本大会の直前に若手を組み込んだりもできる監督です。前回のアルジェリア代表では、2014年の3月に当時19歳のベンタレブをいきなり呼んで、そのまま本大会の主力に据えました。もしかしたら、日本にもそのパターンが起こるかもしれません」
 
宇都宮「ロシア大会を考えれば、リオ五輪のさらに下の選手にも十分にチャンスはあるということですね。ぜひそこで18歳、19歳の才能が出て来てもらいたいものです」
 
取材・文:増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)