金崎の1トップや柏木のボランチ起用は奏功したが、過度に評価する必要はない。明らかな格下のシンガポールを押し込むのは、ある意味で当たり前だ。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 ハリルホジッチ監督は、本田、長谷部、酒井宏、吉田と右寄りの4人を除き、無得点に終わった埼玉でのホームゲームから7人を入れ替えて臨んだ。
 
 ただしスコアが3-0と進化した以外に大きな変化はないし、またそれを望むような性格の試合でもなかった。微妙にシナリオが変わったとすれば、埼玉では90分間ゴール前に人垣を築いていたシンガポールが、今回はホームでリードを許し、多少は攻撃的な姿勢を見せた程度である。
 
 日本代表は、埼玉で23本、シンガポールでは27本のシュートを浴びせ、ホームで23回、アウェーでは28回エリア内に侵入し、今回は3ゴールを奪った代わりにシンガポールにも2度の決定機を作られた。
 
 おそらく最も大きな変化は、アジアの情勢や試合の性格についてハリルホジッチ監督の理解が進んだことだろう。シンガポールの最大の野望は引き分けだ。日本は守備の憂いなく攻撃だけに専念すればいい。
 
 ましてシンガポールの守備は中央偏重型なので、ボランチやオーバーラップしたSBはノープレッシャーで仕事が出来る。チャンスはいくらでも作れるし、ゴールもひとつ決まれば雪崩になる。実験はいくらでも可能だ。それなら前回無得点に終わりトラウマを抱えた選手たちより、モチベーションやコンディションを優先して新戦力を試したほうが良い。
 
 基本的に指揮官は、個で仕掛けるタイプがお気に入りだ。ザッケローニやアギーレが敬遠した宇佐美の重用ぶりを見れば明白だし、この嗜好からして現在国内では最もエゴイスティックにゴールを目指す金崎の抜擢も頷ける。そして結果的には、活発に動いてボールを引き出し、前を向けば仕掛けて、捉まえにくい1トップの選択が功を奏した。
 
 清武や武藤嘉は、スペースを消されながら終始前がかりで崩しに出るという日常(ブンデスリーガ)とは異質なテーマに挑み、逆に柏木や森重にとっては成功が約束された仕事とも言えた。Jリーグより格段にプレッシャーの少ない状況で、柏木の展開力や森重の後方からのフィードが活きるのは当然で、改めて能力の高さを示した清武が香川に競りかけるには、やはりもう少しボールタッチの機会が保証されるチームへの移籍が課題になることも浮き彫りになった。
 率直に先制シーン後の歓喜の爆発ぶりを見れば、埼玉での無得点のストレスの大きさが見て取れた。だがシンガポール戦はもちろん、次のカンボジア戦レベルの試合で、世界と戦うための課題や収穫を拾い上げるのは不可能に近い。
 
 当然引いた相手を崩す術は、全員が共有している。ワイドに揺さぶり、バイタルエリアが開けばミドルシュートを狙う。そこに高速パス回しでの中央突破を織り交ぜる。実際にピッチ上の誰もが、やるべきことは意識していた。
 
 だが2次予選で崩しの精度が上がっても、それが最終予選やワールドカップ本大会に繋がる保証はない。同じように長谷部のパートナーは、埼玉では柴崎が、今回は柏木が務めたが、シンガポール戦ではリトマス試験紙にもなり得ない。
 
 逆に左MFはドイツで毎試合ハードワークでの激闘が続く武藤嘉ではなく、武藤雄でも問題はなかったはずだし、右SBにしてもクロスの精度に問題を抱えた酒井宏を再度起用するなら、不得意な左サイドでしかテストされていない米倉にチャンスを与えても良かった。
 
 一方で香川が2日前に到着することは、直前に判明したわけではない。交代出場のために呼び寄せるのは、まったくのナンセンスだ。2次予選で優先させておくべきなのは、むしろ国内組の掘り起し作業である。
 
 またリスクのない試合でも栄養を吸収できるのは、ベンチに座っていた日の丸経験が浅い遠藤や南野だ。欧州でフル稼働している香川や岡崎がアジアの格下相手の予選に駆けつけて消耗しても、誰の利益にもならない。スターの顔を拝めたシンガポールのファンを喜ばせただけである。