一方で、僕が心配していた“選手が選手を選ぶ”ような、ありがちな雰囲気は感じられなかった。シンガポール戦では香川、岡崎、内田などが外れ、GKも川島ではなく西川だった。ワールドカップ本大会を戦ったメンバーは新しいメンバーをどう認めて、どう連係を築き上げるのか? グループとしてモチベーションをどう発揮できるのか?
 
 日本代表がそんな未来の階段を一歩一歩上がるには、シンガポールは良い相手であったし、メンバーもJリーグで調子の良い選手を使い、少し疲れている選手をベンチに座らせ(G大阪の宇佐美は過密日程でパフォーマンスも得点のペースも落ちているのであろう)、ちょっとザッケローニ時代とは違う、新しい感じは持てた。
 ただ厳しい指摘をさせてもらえば、日本代表選手でありながら、あってはいけないトラップミスがあったり、シンガポール相手に対人の場面で奪われたり、抜かれたり、同じスペースに入り込んだがために重なって選手同士ぶつかったり、フリーなクロスを何度も相手にカットされたり……。
 
 はっきり言えば、ブラジルのような強豪国では絶対起きないまるで素人同然のプレーも何度か見られた……。敢えて厳しい言い方をするが、「圧倒」できないのも無理はないレベルのサッカーだった。しかしこの時点で「欲」をかきすぎても、余り良い方向には進まないだろう。少しずつでいいから連係を構築し、意思疎通を図り、アジアでの「絶対的」な力をつけていかなくてはいけない。
 
 ブラジル、アルゼンチンは南米の宿敵同士だが、アジアで言えば日本と韓国がこの関係に当たる。最終予選でぶつかる強敵との対戦までに、日本はまだまだ力をつけなくてはならない。そう考えれば、シンガポール戦ですべてを求めてもいけないし、すべてを手に入れようと考えてはいけない。僕のネガティヴな発言は「右から左」で問題ないと信じたい。
 
 金崎が得点を奪い、ワールドカップ本戦を決めたかのように喜びを表わした。柏木が浦和で奏でているようなリズムとテンポを、彼らしく代表でも表現していた。清武、武藤はサブ扱いとは言わせない、キレと運動量、攻守の切り替え、セカンドボールへの素早い反応、さらに献身性も見せていた。交代の宇佐美、原口という、オンザボールに強みを持つ選手も出場した。探せば、今まで僕が見たことのないポジティヴな場面もあった。
 
 じつはコラムのネタが浮かばず苦しんでいるところへ、編集部から日本代表について書いてほしいと依頼され、ペンを持った。立場として日本代表を語るのはどうであろうかと思いながらも、なにも知らない僕が色メガネで見ることなく、内部の事情や過去のパフォーマンスも関係なく、シンガポール戦で感じたままを書こうと思った。実際、タイで1試合も見てないからこそ、新鮮に感じる部分もあった。
 
 勝てば勝点13となりグループのトップに再浮上する一戦に3-0で勝利した。その結果にはなんの不満もない。そう思いながらも自分なりに感じたことを素直に書いてみた。難しい試合はまだまだこれから。日本らしいサッカーは、こんなものではないはずだ。
 
 僕自身も日本サッカーの発展に貢献したい。そう強く感じる日となった。
 
2015年11月12日
三浦泰年