当初の敵は「お父さん」と「お母さん」だった。映画「プリンセスプリキュア」監督に聞く

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10月31日から公開している「映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!」。3本立てのひとつ、長編セルアニメーション作品「パンプキン王国のたからもの」は、パンプキン王国の姫・パンプルルを、プリキュアたちが助ける物語だ。
企画の経緯やストーリー秘話、3本立てならではの苦労を、監督の座古明史さんと、アシスタントプロデューサーの二階堂里紗さんにうかがった。


「今度劇場をやるんだけど」「はいやります!」


──座古監督は長らく「プリキュア」シリーズに関わっていますが、監督として参加されるのは初めてですね。どのような経緯で長編の監督を担当されることになったのでしょうか。

座古 僕の演出デビューが、シリーズ初代の「ふたりはプリキュア」。そこから「フレッシュプリキュア!」まで、基本的にプリキュアの演出をやっていて、「劇場の監督をいつかやりたいな」という気持ちはずっと僕の中にありました。そこでプリキュアシリーズでも「トリコ」でも一緒に仕事をしていた鷲尾天プロデューサーから「今度劇場をやるんだけど、どうですか?」と訊かれて、「はいやります!」と食い気味で返事をさせてもらいました(笑)。

──鷲尾プロデューサーから話があったときから、今と同じ「3本立て」企画だったんですか?

座古 いえ、最初は例年通りの秋のプリキュア映画で、というお話でした。ただ、「CGで5分の短編をやろうと思っている」という話はありましたね。それが途中で、「CGの中編も加えて、3本立てにします」という形になったんだと記憶しています。ちょうどシナリオのベースになるものができたくらいの段階だったかな。二階堂さんが企画に加わったのもちょうどそれくらいですよね?
二階堂 そうですね。シナリオの秋之桜子さんが合流した段階で、一緒に打ち合わせに出るようになりました。その段階で既に「ハロウィン」というモチーフも決まっていたんです。最近、ハロウィンが日本の子どもたちにも浸透している。なので今年はハロウィンでいきましょう!という鷲尾プロデューサーの発案で。今まで挑戦したことがなくて、「プリンセス」というシリーズのテーマと組み合わせたときに意外性がある、という点にも期待していました。
座古 お祭り感がありますよね。でもよく考えると、ハロウィンは「お盆」みたいなものだから、日本だったらナスに脚が生えてる妖精がいっぱいいる国に行くことになっちゃうのかな(笑)。ハロウィンそのものの物語性をモチーフに組み込むと、「死者が蘇る」といった話になってしまうので、キラキラしていて夢があるハロウィンのモチーフだけ拝借しました。

初期案の敵は「お父さんとお母さん」だった


──映画のストーリーは、初めはどんなものだったんでしょうか。

座古 最初から「家族の愛情の話である」ということは軸になっています。ただ、パンプルル姫の設定がかなり違っていて。はじめのパンプルルは、「親の歪んだ価値観に育てられて分裂している子ども」だったんです。

──ええっ。いわゆる「毒親」の子ども。

座古 そうです。パンプキン王国にプリキュアが来た時、プリキュアと仲良くなる「良いパンプルル姫」と、本当はそうじゃない「悪いパンプルル姫」がいる。悪いパンプルル姫は、俗物の権化のようなお父さんとお母さんに育てられて生まれてしまった。本当のパンプルルは妖精たちと仲良く暮らしたいのに、この国ではうまくいかない。それを知ったプリキュアたちが、パンプルルのお母さんとお父さんと戦う……というお話でした。

──お父さんとお母さんが、プリキュアとの戦いの末に改心するということですか?

座古 娘への愛情の大きさゆえに、価値観が歪んでしまったところを、真人間に戻るというか。最後、お父さんお母さんのもとに駆け寄るパンプルルがどんどんちっちゃい子どもに戻っていって、「私たちは子育てを1からやり直します」みたいなラストシーンが頭の中にありました。今回の敵役のウォープにあたるキャラは、最初はいなかったんです。

──シリアスで深い話で、魅力的に聞こえるのですが、変わっていったのはなぜですか?

座古 いくつか理由がありますね。まず、お父さんとお母さんを悪者にするのは、あんまり親子向けの映画としては好ましくない。「パンプルル姫が善と悪の側面を持っている」という設定は、子どもたちにとってちょっと難しい話になってしまうし、当初敵役として登場したトワのエピソードともかぶってしまう。あとは、あんまりゲストキャラにスポットが当たらないほうがいいのではないかとも思いました。

──意外です。毎年、秋のプリキュア映画は「ゲストキャラとプリキュアの物語」という印象がありました。

座古 どうしてもお話を作ろうとすると、ゲストを細かく描きたくなる。それはそれでおもしろさがあるんですが、子どもたちが一番期待しているのは、普段よく見ているプリキュアの活躍なんだろうなと。自分の子どものころを振り返っても、楽しみにしていたのはヒーローの活躍でしたし、暗い話は苦手だった(笑)。これは鷲尾さんがふだん言っていることなんですが、「プリキュアたちが主役なので、プリキュアたちがいつも真ん中にいてほしい」。なるほどな、と思います。自分が子どものころ好きだったものを、鷲尾さんはいつもちゃんとわかっているんですよね。演出や監督は暴走するものなんですが(笑)その辺よく手綱を握られているというか、リードされていった感じでした。
二階堂 座古さんの初期案を聞いたときは、お父さんお母さんを敵として倒すべき理由を説明するとなると、小さい子供にはややこしいし、納得しづらいものになってしまうのではと感じました。親子の愛を前面に出していくにあたっても、歪んだ理由やきっかけがあるはず。そこで、ウォープが生まれて、いろいろと担うようになったんですよね。
座古 お父さんとお母さんとは戦えない。その代わりに、ふたりを操っている悪の権化を出さないといけない。ウォープは秋之さんのアイデアで、「全部背負って倒されてもらいましょう!」となりました(笑)。


70分を50分に。3本立てならではの苦労


──例年の秋の映画は70分。70分ですら「いっぱいいっぱいだ」というお話をよく聞きます。今回は3本立てで50分になって、さらに大変になっているのではと思いますが……。

座古 とにかく、物語を50分に収めないといけないのは大変でした。シナリオが上がった段階でエピソードを「ここは切るしかないな」という見通しを立てつつ、演出面で削っていますね。映画って、新しい場所に行ったらその眺望を見せたり、すごいことが起こったらキャラクターの反応をていねいに拾ったり、そういうことで大きさやすごさを出すもの。今回はそういうところをちょっとずーつちょっとずーつ縮めました。

──最初の4人変身シーンのバンクも、テレビとはちょっと違いました。

二階堂 テレビだと変身バンクは90秒くらいなんですけど、今回は60秒くらいまで切ってます。音楽もそれ用に短くアレンジしてもらいました。

──ただ、前半の4人変身バンクがあって、後半にはまた個別で変身バンクがありました。「ここが削られていてもしょうがないよな」と思っていた部分だったので、嬉しい驚きでした。

座古 やっぱり、子どもたちは変身バンクを楽しみにしていると思うので。あと、前半はゼツボーグと戦うための変身で、後半は妖精たちの気持ちを受け取っての変身。戦うことに明確な動機が出ているんです。そこを省略してしまうのはちょっともったいないかなと。最初の戦闘シーンを削ることも可能性としてはできたと思うんですけど、それだとすごく物足りない感じになっちゃうんだよね。それが見たい人がいるので、極力削らないようにしないといけないなという意識はありました。

──残ってすごくよかったです! 50分という時間の中でも、プリキュアひとりひとりに見せ場がしっかり用意されている印象がありました。

座古 そこはすごく意識したところです。お客さんにはそれぞれ好きなキャラがいるでしょうし、作品の全体を見渡したときに、フローラは特別にしても、みんな同じくらいに見えてほしい。みなみときららはプリンセスコンテストで華やかな活躍をしますが、トワはバトルアクションや怪しさを見破るなどの印象的なシーンがあるので、コンテストでのバイオリンを弾くシーンはばっさりカットするなど、コントロールを心がけてやりました。


──プリンセスコンテストは、みなみもきららもトワもキラキラしていて、その代わりはるかが……。

座古 オチ担当でしたね(笑)。はるかって、実は「これが得意」というものがないキャラだと認識しています。はるかのいちばんの取り柄はまっすぐさや優しさ。主人公としてはすごくオーソドックスでスタンダードなありかたです。そんなはるかに何ができるんだろう? と考えたら、「おうちが和菓子屋だし、パンプキン王国だし、プリンを作ろう!」と決まりました。そういう意味ではいちばん華やかではない。

──服装も割烹着姿で。

座古 でも、華やかなことだけがプリンセスらしさではない気がします。華やかさだけじゃない、プリンセスらしさを体現しているのがはるか。割烹着を着ているプリンセスがいたっていいじゃん!(笑)

──はるからしいプリンセス像でした。3本立てならではのむずかしさを、二階堂さんはどのように感じていらっしゃいましたか?

二階堂 そうですね。長編と中編「プリキュアとレフィのワンダーナイト!」の作業は並行して行われていたんですが、中編のシナリオが落ち着いてきたときに、「何かしら、長編と中編につながりがあったほうがいいんじゃないか?」という話が出てきました。長編映画が終わったあとって、すごくすっきりした気持ちになる。でも3本立てだと、そのあとにまた1本始まってしまう。それを「嬉しいな」と思ってもらえるにはどうすればいいか? そこで考えたのが、レフィでのつながりです。

──レフィというキャラクターは、長編ではパンプルル姫が持っている大切な人形、中編ではパンプキングダムのプリンセスとして描かれますね。

二階堂 楽しい映画が終わったあとに、おまけのエピローグやサイドストーリーがあると、「この映画の続きが見れる!」という喜びがあるじゃないですか。レフィ人形をリンクさせて、長編でスッキリしたあとに、中編の夢のようなボーナスストーリーにつながる……そんな、中編の橋渡しにできないかなと。レフィの設定を突き詰めるとちょっと「あれ?」と思うところがあるかもしれませんが(笑)、夢だけど夢じゃなかった、みたいな気持ちで見てもらえれば。
座古 レフィはパンプルルのお母さんが作った人形だから、お母さんがパンプキングダムの世界ごと作ったのかもしれない(笑)。お母さん、神様なんじゃないかな?


【映画の敵・ウォープの秘密、かぼちゃドレス完成までの道、監督の創作観について聞く後編はこちら

(青柳美帆子)