社長が主役のドラマは視聴率が伸びないはずだが 「下町ロケット」好調の秘密

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ドラマ『下町ロケット』(TBS系列)が好調である。始まって2週目にして『相棒』(テレビ朝日系)の視聴率を抜き、8日に放送された第4話は17.1%を記録。ドラマ部門では朝ドラ『あさが来た』(NHK)に次いで2位につけている(ビデオリサーチ調べ・関東地区。以下同)

『下町ロケット』の主人公は、佃製作所の社長・佃航平(阿部寛)。
ところが、佐藤智恵『テレビの秘密』(新潮新書)によれば、本来は「社長を主人公にしたドラマは、残念ながら高視聴率が望めない(P.17)」というのだ。


社長が主役のドラマは視聴率が伸びない理由


『テレビの秘密』の著者は、NHKや外資系テレビ局を経験し、編成や経営まで関わった人物。ドラマやバラエティ番組を「視聴率」や「編成」の観点で分析する一冊になっている。

第1章「ヒットの鍵は設定が握る」では、『半沢直樹』と『ルーズヴェルト・ゲーム』を比較する。
どちらもTBS系列・池井戸潤原作・同じ製作スタッフのドラマ。「倍返しだ」が流行語になった『半沢直樹』。その9か月後に「第2の半沢」を期待された『ルーズヴェルト・ゲーム』。視聴率はどうだったかといえば、『半沢直樹』が最終回に42.2%を記録する大ヒットとなったのに対し、『ルーズヴェルト・ゲーム』の平均視聴率は14.5%にとどまった。

同じ枠・同じテイストのドラマなのに、どうしてここまで差がついたのか?その決定的な差は「主人公の職位」にあるという。
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半沢直樹(堺雅人):中間管理職
細川充(唐沢寿明):社長
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さらに、『ルーズヴェルト・ゲーム』の同時期には、これまた池井戸潤が原作の『花咲舞が黙っていない』(日テレ)も放送されている。主人公・花咲舞(杏)の職位は「入社5年目の元窓口係」で、平均視聴率は16.0%。『ルーズヴェルト・ゲーム』を上回っている。

職位が視聴率につながる理由は、共感する視聴者の多さにある。例えば、1万人の社員がいる会社で社長は1人しかいない。残り9999人は社長以外。社長の細川よりも、中間管理職の半沢や、入社5年目の花咲のほうが共感してくれる人数が多い。共感する人が多い=多くの人が観る=視聴率が高い、という方程式だ。

『テレビの秘密』では、視聴率について語るとき「共感」というキーワードがあちこちに出てくる。『あさイチ』がターゲットを40代女性に絞る、『孤独のグルメ』を観るとお腹が空く、『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で蛭子能収に振り回される太川陽介に「上司のツラさ」を感じる。ドラマでもバラエティでも「共感」が隠れていることに気づかされる。

この考え方はハリウッドでも同様だという。共感されにくい社長が主人公になることはほぼ無く、変わりに多いのが「新人」(新人が社長へ成り上がる話はアリ)。また、人種や宗教、文化が異なる視聴者層の共感を得るため、恋愛やコメディではなく、犯罪ものや医療ものが多くなる。「生と死」は人類共通のテーマだからだ。

『下町ロケット』の主人公は「社長だけじゃない」


じゃぁ、社長が主人公である『下町ロケット』は、どうして高視聴率なのか。
その答えはおそらく「主人公が社長だけじゃないから」ではないだろうか。

8日放送の第4話では、帝国重工が提示した厳しすぎる評価テストに、佃製作所全員が徹夜で立ち向かった。技術者はもちろん、経理や営業、おにぎりを握る食堂のおばちゃん、若手からベテランまで、会社の隅々まで光があたった。

もちろん、社長・佃航平も描かれるけど、元研究員であり経営者の経験は浅い。苦悩もするし土下座もする。紛糾する会議室の外を通りかかり、鍵穴からそっと中を覗いてみるといった可愛さもある。一般的な社長のイメージよりも「抜け」がある。

先ほどの「共感」のキーワードに当てはめるなら、平社員から中間管理職、リーダークラスまで、全部まとめて共感を得ることができる。ライバルの帝国重工で、社長と部下の板挟みにあう財前(吉川晃司)に共感する大企業勤めの人もいるだろう。出演者の誰かが必ず愛されるドラマが、視聴率を取れないわけがないのだ。

佐藤智恵『テレビの秘密』は他ににも「『花子とアン』と『アナと雪の女王』の共通点」や「『アメトーーク!』はハーバードの授業に似ている」など、興味深い分析がたくさん。

ちなみに、マツコ・デラックスや杉下右京が人気なのは、どちらも「超人的存在」だからだそう。確かにマツコ・デラックス、フィクションの中の人っぽいものなぁ。

(井上マサキ)