指揮官の先発起用に先制点で応えた金崎。新たなCF候補の台頭は、小さくないプラス材料だ。 写真:徳原隆元

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 確かに「あと3、4点取れていた」(ハリルホジッチ監督)かもしれない。ただ、前回対戦で引き分けたシンガポールから勝点3を奪ったのだから、両手を上げて評価とはいかないまでも、チームに合格点は与えるべきだろう。この勝利で、シリアを抜いてグループリーグ首位に浮上。指揮官が「選手を称えたい」気持ちはよく理解できる。
 
 なにより評価したいのが、目新しい選手を使ったうえで勝ち切った点だ。持ち前の積極性を発揮して豪快な先制点を決めた金崎。最後まで運動量をキープして左足で攻撃を司った柏木。彼らがすんなりと戦術に溶け込んでいたのは驚きさえ感じた。代表戦の先発は前者が約5年10か月ぶりで後者が約3年7か月ぶり。両者の活躍は今後に向けて好材料だ。
 
 指揮官が事あるごとに強調していたサイドアタックも、機能したと見ていい。前半の2ゴールはともに「右サイドから作って左で仕留める形」(清武)で、そこに至る過程も徹底されていた。後方からのビルドアップでは、長友、酒井宏の両SBが高い位置を取り、ボランチや清武を経由してサイドの奥深くに展開。これまでのようなピッチ中央で手詰まりになるケースが減り、中盤の“停滞感”はだいぶ和らいだ。
 
 今後のアジア予選でも相手は引いてブロックを作り、日本が攻め入るスペースは限られるだろう。SBからのクロスにもう少し精度が乗り、中央で待つフィニッシャーの意識が向上すれば――。サイド攻撃はアジアを勝ち抜くための“計算できる”パターンになる。
 
 一方で、トップ下の役割がやや不明瞭だったのは気掛かりか。試合後の清武は「気持ち良くやれていたとは言えない」と心情を吐露。スペースがないなかでも下がらずに「我慢して」(清武)前線に張っていたという。
 
 清武が高い位置で囮になったため、フリーになった柏木が第二の司令塔としてゲームを作ったが、その柏木は逆に「キヨにボールに触ってもらおうと意識した」と語っている。この意識のズレは、前述のようにサイドアタックが機能したため致命傷にはなっていないが、ピッチ中央の縦関係にはもう少しはっきりしたやり方を用意したいところだ。
 
 その点で、以前からの課題である“臨機応変さ”にも改善の余地が残る。比較的早い時間帯に狙いどおりの形で先制点が取れたこの日は、間違いなく「試合運びは非常に簡単というか、運びやすくなった」(長谷部)。であれば、もっと中央とサイドの使い分けを意識し、崩しの選択肢を増やすべきだった。
 後半の試合運びには、より疑問を感じる。このところシリア戦、イラン戦と後半に調子が上向く試合が続いていたが、この日に限っては逆の展開。指揮官からは「少し自分たちが引いて相手が出てくるのを待って、そこからボールを奪ってカウンターを狙う」(長谷部)と指示が飛んだようだが、「正直、上手くいったかというとあまりハマらなかった」(長谷部)。
 
 むしろ、前線からのプレスが弱まったせいでシンガポールの攻勢を許したとの見方が妥当だろう。実際に柏木は「間延びしていた。しんどい時間帯があった」と認めている。終盤にカウンターを狙って宇佐美、原口といった縦に速い選手を起用したのは理に適っているが、もっと早い時間帯から起用すべきだったとも言える。
 
 またこの日は「初めて彼らは危険な状況を作り出した」とハリルホジッチ監督が話すように、シンガポールにチャンスを作られた。しかも66分、72分と立て続けにフリーでヘディングを放たれたのはいただけない。CBとSBのギャップ、両CB間に走り込む選手へのマークは今後の徹底が求められる。
 
 他にも、酒井宏と吉田がなんでもないロングボールを後方に逸らしてCKにしてしまう場面も見られた。後半に入って、最終ラインが集中を欠いたのは明らかだ。決定力の低いシンガポール相手には大事に至らなかったが、強敵の待ち構える最終予選では一瞬の油断が命取りになる。暑さを言い訳にせず、似たような気候のカンボジア戦ではこうしたシーンを排除したい。
 
 ただ、このようにいくつかの課題が生じたとはいえ、総じてシンガポール戦はポジティブな要素が上回ったと言えよう。無事にリベンジは達成されたし、大勝と言わないまでも完勝だ。選手個々を見てもアピールに成功したケースが多く、今後の競争に期待が持てる。「人数がだんだん限られてくるが、できるだけ良いチームを探さないといけない」ハリルホジッチ監督にとっては、嬉しい悩みが増えたのではないか。
 
 勝点3の獲得が最低目標の試合で、少なからずプラスアルファは手にできた。続くカンボジア戦でも、“勝点3以上”を積み重ねたい。

取材・文:増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)