■特集 スポーツの秋、食の秋(5)

アスリートの「食」と言えば、気になるのは「食べることも仕事」と言われている大相撲の力士たちの食生活である。稽古後に部屋の力士たちで囲むちゃんこ鍋の話をはじめ、力士の"勝負メシ"や、最近の力士たちの「食」に対する思いなどを、人気力士の旭日松関に聞いた――。

 お相撲さんの食事って、基本的には昼と夜、1日2食なんですよ。

 最初の食事は、早朝からの稽古がお昼前に終わって、ひとっ風呂浴びたあと。部屋のみんなで鍋を囲む、昼のちゃんこ(※)の時間です。朝から激しい稽古をするため、稽古前は原則、何も食べません。だから、体はヘトヘト、腹はペコペコという状態で食べるちゃんこは、この世の中で、一番美味しい食べ物なんじゃないかと思うくらいですよ(笑)。
※部屋の力士が作って食べる料理のことはおおよそ「ちゃんこ」と言う。

 ちゃんこを食べる順番は、厳しく決まっています。親方、関取衆(十両以上の力士)、そして後援会の方などお客さんが先に食べ始めて、そのあと、ようやく若い力士たちがちゃんこにありつけます。

 これは、どこの相撲部屋でも守られている、しきたりです。それで以前は、「若い衆がちゃんこ鍋を食べるときには、具がなくなっていて、汁だけだった」なんていう話もあったようですが、今はそんなことはありませんよ。具もしっかりと、みんなに行き渡っています(笑)。

 僕は今、十両ですから、早めにちゃんこを食べられるのですが、やっぱり若い衆の頃は、きつかったなぁ......。兄弟子たちがちゃんこ鍋を囲んでいる後ろに立って、お給仕をするわけですが、目の前に美味しそうなものがズラリと並んでいるのをチラ見しながらの給仕は、すきっ腹の身にとっては地獄そのもの......。

「今に、オレだって強くなってやる!」って、思ったものです。

 番付がすべての相撲界は、発奮する場面がいろいろとあります。「(稽古のあと)いち早くちゃんこを食べたい」というのも、そのひとつだと思いますね。

 ちゃんこ鍋のパターンは、それこそ、数え切れないくらいあります。基本は、しょうゆ、塩、みそをベースとした味付けとなりますが、その日の具材によって、それらをアレンジしての味付けにすることもあります。

 ちゃんこの中身もバリエーションに富んでいます。それこそ、地方場所のときなどは、後援者の方から差し入れしてもらった食材を存分に生かしています。現在九州場所が行なわれている博多なら、高級食材のあら(クエ)が届くこともたまにあって、そのときは、部屋中のみんなが大喜び! 刺身に、から揚げに、煮付けに、鍋に......と、豪勢なあらづくしのちゃんことなります。

 そんな豪勢なちゃんこも好きですが、僕的にはあっさりしたちゃんこ鍋も好きです。なかでも、「湯豆腐」のちゃんこが大好物なんですよ。

 一般的に「湯豆腐」というと、ポン酢でいただくものを思い浮かべると思うんですが、僕が好きなのは、それとは違って、タレが独特なんです。しょうゆベースで、青のり、卵の黄身が入っています。角界の「湯豆腐」は、体にやさしくて、しかも飽きのこない味のちゃんこだと思いますね。

 相撲界の定番には、ちゃんこ鍋だけでなく、「勝負メシ」と言えるものもありますよ。勝負の世界に生きるお相撲さんは、やはりゲンを担ぐことが多くて、場所を迎えると、必ず食べるものがあるんです。

 それは、鶏肉です。

 4本足の動物は、土俵にバタッと手をついてしまうイメージ、つまり負けを連想するので、昔から場所中に食すことは嫌われていたんです。逆に、鶏は2本足で歩きますよね。それが相撲界では好まれていて、鶏肉がずっと「勝負メシ」になっています。

 ウチの師匠(友綱親方)は、特にゲンを担ぐほうなので、場所中の昼のちゃんこの時間には、鶏料理が必ず出てきます。それも毎日同じで、鶏のムネ肉をたっぷりのニンニクとオリーブオイルで炒めたものなんですが、実はこれが美味! 塩とこしょうだけのシンプルな味付けながら、そのままでもいけますし、ご飯に乗せて、生卵を落として食べてもうまいんです!

 昼、そして夜のちゃんこも、部屋の若い衆(幕下以下の力士)が、当番制で作っています。ただ、夜はちゃんこ鍋を食べるわけではなくて、普通の家庭の晩ごはんのように、ご飯とおかずという感じですね。出かける用事のない力士は、18時くらいから部屋で食べます。

 僕の場合は、昨年家庭を持ったので、夜は自宅に戻って食事をすることが多くなりました。嫁さんの作ってくれるハンバーグは、最高にうまいんですよ! 体のことを考えて、おろしポン酢でさっぱりといただくのが、最近のマイブームです(笑)。

 もちろん、食事に関しては苦労したこともありました。10代の頃は体を作らなければいけないので、師匠や兄弟子から無茶苦茶食べさせられましたから......。でも、そういう試練を乗り越えてきたというか、師匠や兄弟子が将来を見越して、食事に際しても厳しい指導をしてくれたからこそ、僕は今、関取として通用する体になっているのだと思っています。

 26歳になった今は、食生活にはかなり気を使っています。体を維持するために食べる量が多いですから、食事の際には初めにボールいっぱいの野菜をとっていますし、食事をしながら青汁やヘルシア緑茶を飲んだりして、バランスのいい食生活を心掛けています。

 また、他の部屋の関取衆と、体にいいサプリメントの情報を交換して、そこから自分に合うサプリメントを研究したり、見つけ出したりしています。

 まあでも、本音を言えば、食事のときは好きなものを好きなだけ食べたいです。一番好きな食べ物ですか? それは、やっぱり焼肉です! 友綱部屋の近所にある焼肉屋さんで食べる、ハラミとタンが最高ですね。

 そうそう、お相撲さんは美味しいスープにこだわる人が多いんですが、この焼肉屋さんのスープが、また絶品なんですよ。テールスープ、テグタンスープをすすりながら焼肉を食べる、というのが僕の究極のひとときです。

【プロフィール】
■旭日松広太(あさひしょう・こうた)
1989年7月21日生まれ。千葉県出身。中学卒業後、大島部屋に入門。2005年の3月場所で初土俵を飾る。2011年9月場所後、関取に昇進。その後、大島親方の定年により同部屋が閉鎖。現在の友綱部屋に移る。最高位は前頭11枚目。現在(九州場所)は、西十両8枚目。

武田葉月●構成 text by Takeda Hazuki