反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体

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1947年に、「読書の力によって、平和な文化国家を作ろう」という決意のもと、出版社・取次会社・書店と公共図書館、放送・新聞のマスメディアも加わって11月に開催されたのが、読書週間のはじまりだという。第2回から、文化の日を中心にした2週間、10月27日から11月9日までとされて今にいたっている。なお、読書週間にちなんだ、日本経済新聞朝刊10月28日付記事「秋に本は売れないのに、なぜか『読書の秋』」には、はっとさせられた。書店の現場では、9月から11月は1年で最も本が売れないシーズンだという。

どのような本をよむべきか、その際に導きになるのが、新聞・雑誌の書評である。評者がその言説に注目している知識人として、池内恵氏(東京大学准教授)がいる。労作「イスラーム国の衝撃」(文春新書 2015年1月)で、このたび、伝統ある第69回毎日出版文化賞・特別賞を受賞した気鋭の論客である。池内氏の読書に関連する著作「書物の運命」(文藝春秋 2006年4月)、そして「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)の定期連載「読書日記」(紙媒体のみ)や個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」は、とても味わい深い。新聞などの新刊だけの書評が、内容の薄い本を薦めることに堕し、国民の知的水準の向上という観点にあわないことから、一般的な新刊書評はもはやしないが、「読書日記」や個人ブログで現状を少しでも改善したいという。「読書日記」等で紹介された本は、新刊でなくとも、邦文でなくとも、彼の解説と併せ、努力して読むに値するものだと確信している。

日本の「知識人」の世界の閉そく状況理解にも最適な1冊

さて、この1年、読書界で一世を風靡した、今年の流行語といっていい言葉は、「反知性主義」だろう。池内氏も登場する「『反知性主義』に陥らないための必読書70冊」(文藝春秋編 2015年10月)は、70人の知識人がこのテーマに関し、1冊ずつお勧めの本を紹介する。池内氏は、「声高に他人を『反知性主義』と罵っているような人の本を読まない、というところから始めることが鉄則だろう」と、皮肉たっぷりに指摘する。

また、文芸評論家の斎藤美奈子氏が、「『反知性主義』批判は安倍政権批判になりうるか」(「ちくま」9月号=第534号=の「世の中ラボ」。2011年8月号から2015年6月号までの分は、取捨選択され、「ニッポン沈没」=筑摩書房 2015年10月=に所載。)で、コラムニストの小田嶋隆氏の議論を引き、現在の反知性主義をめぐる議論は、学歴や偏差値や戦後民主主義という名の「優等生思想」によってもたらされる分断であるとし、この文脈では、「反知性主義に対抗するために重要なのは、知性を復権することだ。それは主に読書によってなされる」(佐藤優氏)などと説いたところで、何の足しにもならないと鋭く喝破している。斎藤氏は、「日本の知識人はバカの悲しみに鈍感なところがあるからな。」という。

この池内氏や斎藤氏が、この問題で高い評価をする1冊が、小田嶋隆氏と小中高の同級生、宗教学者森本あんり氏の「反知性主義―アメリカが生んだ『熱病』の正体」(新潮選書 2015年2月)だ。アメリカで生まれた「反知性主義」というものが、アメリカにおけるキリスト教の発展(土着)と極めて密接であり、平等の理念に深く根差すものであることがよくわかる。ところどころに挿入されるエピソードも楽しく、著者の深い学識・造詣を窺わせる。アメリカの知の世界が持つダイナミズムを知り、彼の国を理解するための必読の1冊で、併せて、日本の「知識人」の世界の閉そく状況を理解するのにも最適だと思う。

経済官庁(総務課長級 出向中)AK