ブログでも自身の病状を報告するつんく♂氏(画像は公式ブログより)

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 音楽プロデューサーのつんく♂が、喉頭がんの後遺症によって自分の声を失ったことが、大きなニュースになったことは記憶に新しい。今年4月、自身の出身大学である近畿大学の入学式で、自分で書かれた手紙形式のメッセージを司会者に代読してもらった。

 メッセージでは「なぜ、今、私は声にして祝辞を読み上げることが出来ないのか......それは、私が声帯を摘出したからで、去年から喉の治療をしてきましたが、結果的に癌が治りきらず、摘出するより他、ならなかったから一番大事にしてきた声を捨て、生きる道を選びました」と伝えている。
 
 近年、自身が「がんサバイバー」であることを公言する著名人は増えているが、つんく♂の声帯喪失のカミングアウトの反響は大きかった。ボーカリストとして活躍し、声で勝負してきたつんく♂が声を失う――。これから彼はどうやって生きていくのだろう? この不安のなかで音楽で生きていくという彼の決意は、新たに大学生となる若者の心を揺さぶった。

 喉頭がんと同様、全身の筋肉機能が衰えて最後には呼吸も止まってしまう難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)でも自分の声を失ってしまう。コミニュケーションの方法としては、患者の眼球の動きと文字盤を使ってコミニュケーションをとる方法などがある。
 
 しかし、失われた声は、本当に戻らないのだろうか? 

失った自分の声を取り戻す

 日本では、喉頭がんなどが原因で年間約5000人の患者が声を失っている。
 この失われた声に代わるものとして、「人工音声」による会話ソフトが普及している。これを使えばコミニュケーションはできるものの、声を失った当事者にとってロボットのような人間味のない人口音声を耳にすることは精神的にショックな体験だ。

 ティー・フォー・ティー株式会社(本社:東京都杉並区、 代表取締役:杉田泰輔)は、 兵庫医科大学歯科口腔外科講座と共同で、喉頭がん等によって声を失った患者さん向けの会話支援用iPadアプリを研究開発。市販用アプリ「My Voice App(マイ・ボイス・アップ)しゃべるん」として 、2015年中の発売開始を予定している。

 このアプリは、音声合成機能ではなく本人の肉声を使用し、インターネットに接続されていなくても、端末を持っていれば、いつでも、どこでも利用できる。予定価格は、3000円(税別)。従来の音声提供サービスと比較すると画期的な価格だ。

 ティー・フォー・ティー社以外にも、声を失った人たちのために、肉声を復活させるプロジェクトがある。そのひとつが国立情報学研究所が進める「日本語ボイスバンクプロジェクト」だ。こちらは主に、全身の筋肉機能が衰えて自分の声を失ない、最後には呼吸も止まってしまう、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)などの疾患を対象にしている。このプロジェクトも自分の肉声を元気なときに録音しておき、この蓄積された音声データをもとに文章をつくりコミニュケーションできるようにするものだ。

人工音声では"その人らしさ"が伝わりづらい

 人工音声が単調なリズムで、「コンニチハ、オゲンキデスカ?」と話したとしても、"その人らしさ"はなかなか伝わりづらい。話している方にも違和感が生じ自分としてのアイデンティティが揺らぐ。
 
 私たちは、人間としてコミニュケーションをとりたいと望み、そのためには"その人らしさ"が必要であり、それは容姿、表情、肉声などさまざまな要素の集合体なのだ。ひとつでも欠けてしまうと、その人らしくなくなってしまう。
 
 誰もが自分の本当の声でコミニュケーションをしたい――。この課題の解決が急がれていた。患者本人の肉声を再現して、他者とのコミニュケーションをつくっていくこうした動きは、IT技術によって可能になってきた。

 つんく♂のメッセージは司会者が代読したが、どれほど自身の肉声でのメッセージを望んでいたかは想像に難くない。つんく♂は歌手であり、声を失う前の肉声の録音データが大量にある。このシステムで再びわれわれの前に言葉を発して欲しい。
(文=編集部)