香川のプレーの質は、1月のアジアカップ時から高かった。今はトゥヘル監督の戦術にバッチリかみ合い、好調が“絶好調”になった印象だ (C)Getty Images

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 11月8日に行なわれたドルトムント対シャルケのルールダービーで、香川は先制ゴールを挙げ、3-2の勝利に貢献した。ヘディングで決めたこと自体も珍しいが、その内容も、相手DFに競り勝って頭で叩き込むという、香川らしからぬパワフルなゴールだった。
 
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「香川、最近調子いいね」
 
 しかし、この評価は、半分正しく、半分は間違っている。
 
 昨季の後半戦、少なくとも今年1月のアジアカップの時点で、すでに香川のコンディションは上向き、プレーの質も高かった。そして今季は、トゥヘル監督が指揮するドルトムントの戦術にバッチリかみ合い、好調が“絶好調”になった。そんな状況である。
 
 首を傾げるのは、「香川はゴールを決めてナンボ」と思い込むひとだろう。だが、それはもう過去の話。すでに香川の評価軸は変わった。
 
 ドルトムントでは、ゴールゲッターではなく、状況をガラッと一変させるパサー、魔法使いとして新境地を切り開いた。ブンデスリーガ12試合で3ゴールという平凡な得点率だが、香川の中盤を活性化させるプレーぶりは高く評価されている。そして筆者も、これが香川というプレーヤーの生来の姿だと感じる。
 
 ところが、その生来の姿はドルトムント限定のもので、日本代表ではそれほど認識されていない。そこに、12日のアウェーのシンガポール戦で圧勝するためのポイントが隠されている。
 
 ドルトムントと、日本代表の違いはなにか?
 
 もちろん、FWの差はある。ムヒタリアン、オーバメヤン、ロイスが並び立つドルトムントのアタッカー陣は、スキル、スピードともに世界トップレベルだ。そして、彼らの鋭い飛び出しに、香川はぴたりとパスを合わせられる。彼らがマークされれば、香川が飛び出し、リターンパスをもらう。活かし、活かされる関係は、かなり成熟してきた。
 
 この点について、日本代表との差は大きいが、とはいえ、シンガポール戦で重要な焦点となるのは、ここではない。シンガポールはホームとはいえ、やはり基本的には引いて守る戦術がベースになると予想される。守りを固められれば、直線的な速さで点を決めるシチュエーションは限定される。
 
 そこで重要になるのは、『ギンタールート』だ。
 敵陣の左サイドで香川がボールを受けた時、反対側の右SBであるギンターが後方から、斜めにペナルティエリアへ走り抜ける。オフサイドにかからない、ぎりぎりのタイミングで。そこへ香川は、相手DFの頭を越えるダイアゴナル(斜め)の浮き球をぴたりと合わせ、一発のパスでゴール前を陥れる。ドルトムントは、相手チームが引いて守る時、このパターンで何度も得点を重ねた。
 
 左サイドでボールを保持した際、右SBはピッチ上で最もボールから遠い、影の薄い存在になる。相手DFも、FWをマークしているため、ギンターへの警戒が薄い。その間隙を縫って死角から飛び出すため、『ギンタールート』は敵の虚を突く。
 
 ドルトムントは、攻撃時に両SBが高い位置を取っているため、このようなパターンを繰り出すことが可能になっている。
 
 このパターンは、出し手の香川にも高いテクニックが要求されるが、SBの側にも、タイミングを合わせることが必要になる。日本代表で言えば、一番上手く飛び出せるのは、内田だが、彼は負傷離脱中。
 
 シンガポール戦で出場が予想される酒井宏が、同サイドの本田とだけではなく、逆サイド側から香川のパスで走り抜けることができれば、ビッグチャンスになるのは間違いない。
 
 シンガポール戦で、『ギンタールート』が『ヒロキルート』で再現されることを期待している。
 
取材・文:清水英斗(サッカーライター)