『小説の書きかた』須藤 靖貴 講談社

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 好きなスポーツは何かと聞かれたら、キャッチボールと答える(厳密に言うと、あれは種目ではない気がするが)。だから、キャッチボールの場面から始まるこの小説には初めから好感を持った。「あれ? この本って小説を書く子たちの話じゃないわけ?」と思われた方、正しいです。高校の文芸部の話です。

 主人公は鳴井紀美子。キミコと呼ばれている。神奈川県立横須賀文翔高校文芸部に所属「文」翔高校「文」芸部ということで、略称は「ブンブン」)。部員はキミコの他に3人で、全員2年生。「聞き間違いの女王」の異名をとる読書家の副部長・カエデ、長身で文学的資質があると言われているハルノ、そしてしゃべりがウザいが文学にとても詳しい残念イケメンの部長・大造。キミコが女子サッカー部を辞めて文芸部に入ったのは、大造の影響だ。自称エースストライカーのキミコだったが、2年生に上がってすぐの練習試合でスタメンから外された。そこでクサっていたキミコに、大造がサッカー関連の本を読むようアドバイスしてきたのだ。監督のやり方に文句があるなら少しは理論武装しなければ、と。そして本を読むことのおもしろさに目覚めたキミコは、大造に誘われるまま文芸部員となったのだった。

 キャッチボールの後教室(弱小文芸部に部室なんてない)に戻った部員たちは、十月の学園祭の打ち合わせを始めた。キミコたちが出す無難な案を一蹴して大造がぶち上げたのは、小説を書くこと。ただ書くだけではない。カエデ・ハルノ・キミコがリレー形式で書いた小説を、新人賞に応募するというのだ(言い出しっぺの大造は編集者として原稿をチェックする係)! 口のうまい大造に乗せられた形で、3人の女子部員はひとり当たり10枚×10クール、合計300枚の小説に取り組むことに。

 この本を読んで何よりいいなと思ったのは、部員たちが全員が新しいことを始めるのに前向きなところ。特にキミコは文芸部に入部したばかりだし、4人の中で読書量もいちばん少ない。にもかかわらず、「小説なんて書いたことないけど、おもしろそうな気もしてきた」と感じられる柔軟性がある。ちょっと順調に行き過ぎる気もしないではないが、お互いに叱咤激励しながら目標に向かって進んでいく姿にはエールを送らずにはいられない。果たして、3人が書き継いでいくリレー小説はどんな話になるのか、新人賞をとることはできるのか...?

 小説を書くことにとりわけ熱心だった大造だけでなく、合宿先であるカエデのおじさんの別荘で管理人的な役割を引き受けてくれた小説家のトドさんも、キミコたちにとって大きな支えとなった(トドさんの本名は藤堂久作。『ウェールズの雨』で3年前に小説トリノ長篇新人賞を受賞した。直木賞作家が何人も出ているようなけっこういい賞)。「なるほど小説というもののはこういった技巧が凝らされているのか」ということが随所でわかりやすく解説されていて、本書は小説を書く人のための実用書的な趣もある。

 著者の須藤靖貴氏は、1995年に第5回小説新潮長篇新人賞を受賞し作家デビュー。スポーツを題材とした青春小説を多く発表されている。かと思うと、著作リストの中には『3年7組食物調理科』(講談社)といった書名もあるのが気になるところ。キャッチボールで始まったこの物語は、同じくキャッチボールの場面で幕を閉じる。ちなみに、どうして文芸部員たちがしょっちゅうキャッチボールをしているかというと、スーパーウルトラ完全放任主義の顧問・スカリン(本名の菅雅俊と横須賀市のゆるキャラ「スカリン」にかけてある)からたったひとつ言われたのが、"放課後は机にへばりついて活動するのであれば、その前に身体を動かしてメリハリをつけるべき"という指示だったため。私もキャッチボールやりたくなってきたな。キミコたちみたいに小説は書けなくてもいいから、次回分のこの原稿がどんどん進むといいのに、なーんて。

(松井ゆかり)