疲れが見え隠れする香川だが「この2日で軽くなると思う」とコメント。エースナンバーを背負う男には、攻撃の中心として決定的な仕事が求められている。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 やはり香川にかかる期待は大きい。
 
 11月10日の練習後、取材エリアに姿を現わした背番号10の前には多くの取材陣が詰めかけた。

【写真|11月シリーズの23人】
 
 ハリルホジッチ監督に「疲れている」と指摘されたように、コンディションは万全とは言えず、当日に現地入りしたせいか、「今日は(身体が)ちょっと重い」と切り出した。そして「(試合まで)明日、明後日とあるので、できる限りのことをして、気候にも慣れていけば、この2日で身体は軽くなると思っています」と続けた。
 
 今回の2連戦で戦うシンガポール、カンボジアと日本の実力差を考えれば、休みが与えられてもいいはず。しかし、疲労を言い訳にしてベンチに座っているわけにはいかない。香川に課されているミッションは、攻撃の中心として決定的な仕事をすることだ。
 
 勝って当たり前、ゴールを奪って当たり前。そんなプレッシャーに打ち克ち、まずはシンガポールとの一戦では、前回対戦で味わった“スコアレスの悪夢”を払拭する。それはエースナンバーを背負う男の責務とも言える。
 
「しっかりと決めるべきチャンスで決めることを第一に考えていかないといけない」(香川)なか、キーに挙げるのがコミュニケーションの熟成だ。
 
「選手の共通意識だったり、崩し方のイメージの共有であったり、そういうものを監督はミーティングで話すと思います。選手個々でも思ったことがあれば、どんどんコミュニケーションを取ってやっていけたらいい」
 
 ボールを受けるために動き、声を出しても、パスが出てこない。結果的に、攻撃が停滞することもある。それは香川本人が一番感じているはずだ。だからといって、ボールの出し手だけを責めるわけにはいかない。相手が密集するバイタルエリア中央付近でパスを通すには、受け手と出し手の阿吽の呼吸が必要になる。連係を深めるには互いに要求し、理解し合う作業が必要だ。そこを重々、承知しているからこその発言だろう。
 
 やるべき仕事は多い。それでも、香川は前を向く。
 
「ゴール前に入り込んでいく回数をより増やさなきゃいけないのと同時に、どんどんボールに絡んでいきたいです。それは試合状況を見ながらですけど、そうやっていければ自分もリズムが出ると思うので」
 
 大きな期待を背負うがゆえに、どこか悲壮感さえ漂わせながらも、日本の10番は現状を打破しようと必死にもがいているのだろう。
 
 ただ、そこに一切の迷いはない。決意に満ちたその表情からは、戦いへの強い意欲と、勝利への飽くなき欲望が滲み出ていた。シンガポール戦のピッチでは、躍動感溢れる香川がチームを力強く牽引してくれるはずだ。
 
取材・文:増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)