超人気ウェブ漫画のポテンシャルを引き出した最高のアニメ化


アニメの円盤(Blu-rayやDVD)が売れない逆風もどこへやら、この10月からの新番組はいつにもましてイキがいい。『ルパン三世』は懐かしさとフレッシュな感覚を引っさげて復活し、ガンダムも「鉄血のオルフェンズ』という新シリーズが開幕。元気が良すぎる『おそ松さん』も自粛せずに突っ走ってほしいところ。


その中でも、『ワンパンマン』の面白さは意外にして規格外。いや、たしかに原作マンガの段階から面白かった。その魅力がアニメ化により、予想を超えたパワーアップを果たしたと言いましょうか。『ドラゴンボール』で言えば、老界王神に潜在能力を引き出してもらったアルティメット悟飯みたいな。

『ワンパンマン』には「原作」が2つある。ONEがウェブサイトに連載したオリジナル版と、それに惚れ込んだ村田雄介が作画しなおして『となりのヤングジャンプ』で連載しているリメイク版。どちらもウェブ漫画であり、基本的には無料で読める。
アニメ版がキャラクターデザインを含めて、直接の原作としているのはリメイク版だ。『週刊少年ジャンプ』で『アイシールド21』を連載していた村田の画力は凄まじく高く、作画のハードル上げすぎてアニメ化させたくないのか!と思える域に達してる。
対してONEのオリジナル版は、独特で味のある画風。単純に絵のクォリティについては、リメイク版がケタ違いに跳ね上がっている。

しかし、読んでしまう。ウェブに104話まで公開されているが、仕事がテンパってる時に息抜きで……という感覚でページをめくってはいけない。やめられない止まらない!と頭を抱えるに決まってる。1日2万回、累計1000万人以上に閲覧された底力は伊達じゃない。

とはいえ、放映本数が増えていて埋もれやすいテレビアニメは、第一話のインパクトが命。ウェブ漫画の長期連載ゆえの面白さを、30分足らずでいかに伝えるか。その点において、今回のアニメ化はウルトラいい仕事しています!

最強無敵のヒーローが満たされるのは夢の中だけ


時は現代、怪物と超人が当たり前に存在する世界。主人公のサイタマは、どんな強敵や災害クラスの脅威であれ、ワンパンチで倒してしまう無敵かつ無職。
強くなりすぎたため、戦闘での緊張感も感動もほとんどゼロ。いついかなる時も醒めている平熱系ヒーローだ。何しろ「強敵」といえる存在がいないので、熱くなりようがない。
トップを飾る敵はワクチンマン。『ドラゴンボール』のピッコロに似た顔で、声は中尾隆聖……『アンパンマン』のバイキンマンだよ!

地表を更地にする圧倒的なパワーでヒーローもすでに何人か始末されていて、逃げ遅れた子供が……それをさっそうと助ける一人の男。何者だお前は?
「趣味でヒーローをやっている者だ」
地球の意志によって環境汚染を繰り返す人類抹殺のため生み出されたワクチンマンは、適当きわまるサイタマの設定にブチ切れ。当然である。さらに変身して巨大化!
でもワンパンで木っ端みじん。
「またワンパンで終わっちまった!くそったれぇぇぇ!」

『ワンパンマン』の面白さが余すところなく詰まった完ぺきなツカミ。超強い敵はヒーローを蹴散らし街を破壊し、何段階にも変身して超絶作画の恩恵にあずかれる。でもサイタマは拳を出すだけでカタが付くので活躍はちょっぴり。前フリの怪人や格下ヒーローの方が出番が多くて扱いいい!というけ原作での嘆きを、わざわざアニメでも再現している。
3年前のサイタマは、就職活動に行き詰っていたフツーの青年だった。ある日、アゴの割れた可愛くない少年を救うため、カニ怪人に立ち向かってカニ味噌を引きずり出して(アニメ版は増量)辛勝。元から強いじゃん!

「ヒーローになりたい」という夢を思い出したサイタマは、就活をスッパリやめてヒーローになる特訓を開始。3年間、毎日欠かさず腕立て伏せ100回、上体起こし100回……と、他のヒーロー達や怪人がふざけるなと怒り出すただの筋トレ。でも必死に頑張った代償として髪の毛がぜんぶ抜けた。やっぱり過酷だ!
兄貴の薬でドーピングした超大型巨人(パンツ履いてない)が街で暴れたときも、巨人がパースが崩れるほどすごい作画で描かれてるのに、サイタマは避けるだけ避けてワンパン。どっちが主役だ。でも巨体が倒れこんだ先にあったB市が消滅。ヒーローの巻き添えを喰らう一般市民の悲哀がギャグになってる恐ろしさ。

そんなサイタマにも、アツくなれる日がやってくる。ある朝目覚めると、自分にダメージを与えた上に、殴っても死なない怪物が! 真の地球人を名乗る地底人はすでに人類の7割を滅ぼしたという。すでにオチは見えてるが、喜びに震えるサイタマに対してツッコミは無慈悲だ。
自分と対等に近い怪物たちと拳を交えたサイタマは、ヒーローの実感に目を輝かせる。絶体絶命のピンチを前に、俺は負けない!地上は俺が守る!と叫べる鼓動の高鳴り。そして真打ちの地底王が現れ……はい、目覚ましジリリリンと鳴りましたー。

日本版『ウォッチメン』にしてギャグアニメという奇跡


話といい劇場アニメレベルの動きまくる作画と言い、面白すぎる第一話。最強ヒーローを主人公にしてやれるとこを全てやった出落ち感タップリと言われたが、そんなことはない。

サイタマは俺TUEEE系主人公の一つの到達点だ。現実離れした強さとさえないルックスの落差のために周囲から正しく評価されず、強すぎるがゆえに見る人の涙を誘う。
ただ不運なだけでなく、ボロボロになった他のヒーロー達に手柄を譲ったり顔を立てたりもする。動きが速すぎるので庇ってあげても気づかれず感謝もされないのに何とも思わない。カッコ悪いことがカッコいい!
出落ちどころか、回を重ねるごとに『ワンパンマン』はますます白くなる。次々とほかのヒーローも参戦し、ヒーロー協会の中の政治劇も描かれ、人間関係が錯綜して深みを増すからだ。

現在、アニメ版は第5話まで放映済み。やはり第一話の作画クォリティを全話でキープするのは難しかったようだが、絵を抜きにして面白かった原作だけに問題なし。最強無敵が虚しくなったさとり系ヒーローを中心にした群像劇は、いわば日本版「ウォッチメン』。それでいてシリアスをワンパンで終わらせるギャグアニメという奇跡だ。

言い忘れていたが、主題歌とエンディングも必見。オープニングが『牙狼』シリーズなどのJAM Project、エンディングが『機動戦士Zガンダム』の『水の星へ愛をこめて』を歌った森口博子って本気出しすぎ!この稀有なヒーローアニメを、最後まで見届けなければ後悔しますよ。
(多根清史)