戦争反対と言わず実利で動くのが良い「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」

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昨年35周年を迎えた「機動戦士ガンダム」シリーズの最新作となるアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』について、ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。

地に足の着いたエグい展開に期待!


藤田 今回のガンダムは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』の長井龍雪と岡田麿里が、監督・シリーズ構成でまたタッグを組んでいるのですが、それらとは全然テイストが違いますね。いきなり、重くて残酷な内容。

飯田 1話めの冒頭から、主人公の三日月が誰かを銃で撃ち殺してるカット。

藤田 三日月の、殺し方の躊躇なさ、無感情さは、意図的に描いていることは間違いない。あの性格設定は面白いです。あっさり人を殺しちゃう。

飯田 日曜の夕方に流すアニメであの「人を殺すのに躊躇しない」性格のままずーっといくことはないと思うんだけどね。

藤田 三日月の心の殻が破れたり……そういう、交流によって人格が変わる展開はありそうですね。今は、メインヒロインのお姫様クーデリアの方が色々と変化していますが、逆もそのうち起きるのでしょうね。お姫様を、親父が、政治的な理由で殺させてしまおうとするっていう出だしも、なかなかエグい。

飯田 ファーストガンダムも1話目でフラウ・ボウの母親が死んだりしてるけどね。
 主人公の兄貴分であるオルガと三日月の鉄壁の友情演出も伏線だと思う。それがぐちゃぐちゃに崩れて対立して殺し合う展開がはやく見たい。

藤田 そんな、虚淵脚本みたいな展開になるのかなぁ?

飯田 5話の脚本が『さくら荘のペットな彼女』の鴨志田一氏だったんだけど(今回設定考証でも入っている。なお『さくら荘』アニメの脚本を岡田磨理がやっていた)、鴨志田さんも岡田磨理もエグい展開大好きな人たちだから。表向き仲良くやっている連中がだんだんとお互い腹に抱えているものをぶつけていったり、夢破れていくさまを描いて泣かす人たちなんだよ!

オルフェンズは左傾エンタメである!?


藤田 序盤で、社会構造や設定、心の機微などを丁寧にやっていますよね。主人公たち非正規雇用の人間が蜂起してCGSという警備会社を乗っ取って新たに「鉄華団」をつくるようなエピソードを序盤でやりますよね。『GATE』を「右傾エンタメ」だと断言したぼくは、言わなければなりません。『鉄血のオルフェンズ』は、「左傾エンタメ」だとw

飯田 左傾エンタメ???

藤田 火星で格差に喘ぎ、搾取されている労働者たちが、お姫様の力を借りて革命を起こす話でしょう?w 左傾エンタメですよw 乗っ取った会社の収支計算をちゃんとやっている描写があるのも面白かったですが。貧しい人たちを救おうとするお姫様が、頭でっかちな理解から、実際の当事者に出会って、理解の浅さを思い知るというのも、民衆を救おうとする左翼的な「知識人」のパターンそのままですしね。

飯田 ガンダムはもともとハインラインの影響がある作品だったわけだよね。モビルスーツの元ネタと言われているパワードスーツが出てきたハインラインの『宇宙の戦士』は右傾エンタメのルーツみたいな戦意高揚SFだけど、他方で『月は無慈悲な夜の女王』とか『異星の客』とかは植民地独立戦争もの(どっちもきわめてアメリカ的なんだけど)。「左傾」というよりは、ハインラインに先祖返りした感があるかな。ファーストガンダムでジオン公国にあたるのがオルフェンズの火星。

藤田 少年兵とPMC(民間軍事会社)を描くのも、勇気がありますよね。このテーマは、『メタルギアソリッド』シリーズや、伊藤計劃『虐殺器官』などで、最近よく扱われているのですが、少年たちが無残に死んでいくじゃないですか。『メタルギアソリッドV』なんて、少年兵絡みの殺害関係のシーンはカットしたという噂が流れているぐらい、ナイーブな問題なんですよ(実際、作中で、敵兵の少年兵は殺せない)。

飯田 でも『ガンダム00』にもPMCは出てきてたし、主人公は少年のテロリストだったよ。そもそもファーストもアムロ15歳でガンダム乗ってて「子どもか!?」って何回も言われていたし、少年が戦争に駆り出されるなんて云々ってやっていた。

藤田 そういえば、そうですねw ファーストも少年兵と言えば少年兵の話なんですね。
 今作が、ゼロ年代以降のガンダムが描いてきた、少年兵やPMCやテロなどの、現実の問題と紐づいた主題系の延長にあることは間違いなさそうです。

みんな実利で動くオルフェンズ


飯田 オルフェンズがいいのは、WとかSEEDとか00みたいに「戦争をなくす(ために戦う)」とか言わないところ。クーデリアは別だけど。「戦争根絶」とか言われても理念が上滑りしている感が出ちゃうけど、オルフェンズはみんな実利で動いている。

藤田 彼らは「生きるため」にやっているだけなんですよね。三日月なんかも、その場その場の瞬発力で「生きる」ことに特化してしまったような人格で。主人公が「選ばれた人」でもなんでもなくて、単に金の為に、命を失うリスクのある「阿頼耶識(アラヤシキ)システム」の手術を数回受けて生き残っただけ、っていうのも、なんかいい。

飯田 三日月は宇宙世紀もの用語で言えば天然の「ニュータイプ」じゃなくて人為的につくられた「強化人間」。

藤田 ニュータイプのテーマ、今回やるんだろうか……? 選ばれたニュータイプと人為的な強化人間が、どっちがどっちっていうテーマは、本作では合わない感じがしますね。

飯田 今回はないかもね。ただアラヤシキシステムを入れている火星人とナチュラルな地球人(公式サイトで読めるスピンオフのテキストによると、地球では義手や義足もいやがられている設定になってる)の対比はされていくはず。

藤田 人為的な強化のテーマの方が、今は共感しやすい感じがします。「アラヤシキ」という人体改造についての対比や差別については、ゴリゴリした感じでやってほしいですね。
 話を戻しますが、「実利」で動いている集団だからこそ、今後どのように動いて、全体のドラマがどこにどう着地するのか、なかなか見えないのが、スリリング。

飯田 このあと「カネが入ったせいで鉄華団が分裂する」フェーズが来ると思う。

藤田 組織がでかくなれば、「生きるために稼ぐ」ということが、いつか、自分たちのような犠牲者を生みはじめる状態に至るかもですね。会社経営のフェイズを入れたってことは、「搾取する」「される」のジレンマを描くことが期待できます。

飯田 今のところ地球や月やほかの星(?)がどうなってるのかもよくわからないから、人類の政治や経済の状況がどうなのかまだ全然見えない。それ次第という気がする。「火星独立運動の象徴的存在」って言ったって、クーデリアにまともに地球と交渉する力があるとはとうてい思えないし。

藤田 クーデリアに資金援助している富豪だって怪しい。革命勢力をわざと援助して秩序維持しているとか、経済のために使っているとか、まぁよくある展開ですが、そういうことも今後明らかになるんじゃないでしょうね。

ちりばめられた謎を推理するのが楽しい


飯田 オーストラリアにコロニー落としされたみたいな穴があるのが話題になってたけど、オルフェンズには謎がいっぱいある。300年前に起こった戦争「厄祭戦」って一体なんなの、とか。

藤田 年号がP.D(ポスト・ディザスター)なんでしたっけ。この「祭」が入っているネーミング、気になりますね。

飯田 普通に考えたら300年前の機体(三日月が搭乗するガンダム)で新型と戦えるわけがない。だってたとえば今から300年前って言ったら江戸時代でしょ? 江戸時代の兵器と近代兵器が戦って負けるかと。ガンダムは人類の知恵を超越したオーバーテクノロジー的な何かがガンダムだ、とかってことにしないと成立しないと思うんだよなあ。

藤田 「厄祭戦」で人類全体の文明の水準が一挙に落ちて、回復するのに300年かかったけど、300年以上前の方がテクノロジーが高かった、ということは、ありえる。『ナウシカ』パターン。

飯田 ギャラルホルンの「チョコレートの人」(幼女にどこからともなくチョコを取り出してあげた金髪の貴族)が前髪いじってるけど、あのガルマ・ザビっぷりも伏線なのかな。安彦良和が描いている『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』に出てきた「モビルワーカー」が(かたちは違うけど名前を同じくして)出てきたりとか、ファーストというか宇宙世紀と関係あるのか? と思わせるようなところがちょろちょろあるのが気になる。

予想は当たるのか!?


藤田 ……というわけで、妄想と予想しかできませんでしたね。

飯田 後半戦になったらもう一回やろうか。

藤田 そうしましょうw 五話でここまで話が進んでいないとは思いませんでしたw まだ話の前提部分しかわからない。

飯田 SEALDsの感想を聞きたいですね(棒)。

藤田 左傾エンタメだから?(笑)

飯田 「民主主義ってなんだ?」「俺だ。俺がガンダムだ!(by刹那・F・セイエイ)」って言うと思うんだよ。

藤田 じゃあ、それでw

飯田 意味がわからんw