茨城県北を舞台に「アートの実験」が始まっている:「KENPOKU ART 2016」総合ディレクター、南條史生インタヴュー

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開催までまだ1年ほどを残しているというのに、「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」は、にわかに熱気を帯びている。今月は都内でアートハッカソンを繰り広げており、来月には一般公募の締切も迫っている。芸術祭を単なるイヴェントとしてではなく、新しい実験の場として位置づけていると言う総合ディレクター、南條史生(森美術館館長)に、これからのアートフェスティヴァルのあるべき姿を訊いた。

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2016年秋に、茨城県北地域を舞台に、80組以上のアーティストが作品を発表する、注目のアートフェスティヴァルが誕生する。

まだ随分先のことに思えるかもしれないが、早くもさまざまな人々を巻き込み、動き始めている。多分野の人々と共同で作品をつくり出すアートハッカソンは、すでに開催されており、アーティストの一般公募の受付も、12月14日に締切を予定している。

総合ディレクターを務める南條史生は、2006年11月に森美術館の館長に就任して以来、「すべての物事はアートに通じる」と語り、これまで誰も見たことがないような展示を企画し、美術館をメディアにして、さまざまな問いを世の中に発信してきた。そんな彼がいま美術館の外、そして都市ではなく地方において挑戦しようとしているものは何なのだろうか。茨城県北で日本最大級の芸術祭を開催することで、アートの世界にどのようなムーヴメントを起こそうとしているのだろうか。

KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭

会期:2016年9月17日(土)〜11月20日(日)[65日間]
会場:茨城県北地域6市町(日立市、常陸太田市、高萩市、北茨城市、常陸大宮市、大子町)


──一般公募も含めて、最終的には全部で何組くらいのアーティストが作品を発表する予定なのでしょうか?

まだ正確な数字は見えていないですが、一般公募で集まる作家やアートハッカソンに参加する人も加えて、作家の数は80組は越えるだろうと予想しています。

──なぜ、一般公募を行うことにしたのでしょうか?

世の中には数えきれないほどのアーティストがいて、もちろんぼくは全員を知っているわけではありません。そのため「たまたま出会った何十人かの中からで選んでいいものか」という疑問を常に抱いているのです。アーティスト側にもその不満はあるはずです。キュレーターは自分の知っている人ばかりを選ぶので、「自分は知り合うチャンスがないから選ばれない」と思っている人もいるでしょう。だからこそ、この芸術祭は閉じたものにするのではなく、地域の人にも門戸を広げたいと思っているのです。

──ハッカソンも、アートの世界では珍しいですね。

成果物を求めて「絶対何かが出てこなければならない」というのは役所の発想です。そうではなく、ぼくらはすべてを実験として考えていて、ヴェンチャービジネスに投資をするときと同じ感覚でやっているつもりです。10社投資したら8社は消えるかもしれない。でも2社は急成長するかもしれない。同様にハッカソンでは、もしかしたら何も生まれないかもしれない。でも何か光るものが生まれる可能性もあるわけで、ぼくらはそれに期待しているのです。

──南條さんが総合プロデューサーとして関わることになったきっかけは?

茨城県守谷市の廃校を利活用したスタジオを拠点に、20年以上前から続いているアーティスト・イン・レジデンスプログラム「ARCUS」にアドヴァイザーとして関わり始めたことがきっかけです。当初は10人弱のアーティストを招聘していたのですが、いまは3人しかいません。残念なことですが予算が細ってしまっているのです。それでも20年間そこにお金を出し続けてきたのが、いまの茨城県知事の橋本昌さんです。この芸術祭も彼にご指名をいただきました。

作品発表の場のひとつとして予定されている「竜神大吊橋」は、375mの長さを誇る日本最大規模の歩行用吊橋だ。

──県北地域には海も山もありますが、壮大な自然の中で展示されるアートは見応えがありそうですね。

竜神大吊橋や、巨大な滝などもあって、それらの大自然をどうやってアートとうまく組み合わせることができるか、いま考えているところです。ただ、2ヵ月も外に置いておくと、何が起きるかわかりません。台風が襲って来るかもしれないし、いつ地震が起きるかもわからない。いかにそうした自然の脅威に耐えうるものをつくれるか。そこまで考えなければならないので、屋外のアート作品はお金がかかるんです。そのため、大規模インスタレーションは、選りすぐって良いものを実現したいと思っています。

──このプロジェクトを通して、南條さんは「芸術祭」というものを、どのようにしてアップデートしていきたいのでしょうか。

美術館は作品を保存することから始まり、保存しているものを見せる場なので、根本的に保守的なのです。それに対して、芸術祭はアーカイヴをもっていないので、「実験の場」でいいのです。そこには多くの作品は残らず、どちらかというとパフォーマンスに近いかたちになります。

芸術祭というものはいまや、単なるひとつのイヴェントではなく、オンゴーイングの現象、つまり「現象学的生成の場」だと考えています。芸術祭自体が思考のひとつの方法であり、そこで発表されるアートは、生成して消えていくものであるとすれば、現象学的なものであるといえるのではないでしょうか。

KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭

会期:2016年9月17日(土)〜11月20日(日)[65日間]
会場:茨城県北地域6市町(日立市、常陸太田市、高萩市、北茨城市、常陸大宮市、大子町)

【アートプログラム】
海と山の自然と対話する大規模インスタレーション、茨城県天心記念五浦美術館における特別作品、歴史的建造物や廃校などを活用した作品、最先端の科学技術を駆使したメディアアート及びバイオアート作品などを構想中。また、作品と関連したトークやワークショップなどを会期前・会期中に行う予定だ。

【作品・プロジェクト一般公募】
茨城県にお住まいの方や県内において創造活動の実績がある方などを対象に、創造的・先進的なプロジェクトや作品を募集中。
※一般応募申込締切:2015年12月14日(月)必着

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