ハッシュタグやスラッシュたちの、知られざる歴史

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スラッシュ、ハッシュタグがいつから使われるようになったか、ご存じか? 印刷技術が進むにつれ姿を消した記号があるのは? ロンドンのデザインオフィスに勤める2人がつくった『Glyph*』は、それら声なき(しかし書き文字において強力に作用する)記号たちのことを教えてくれる、貴重な一冊だ。

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2/8「ピリオド」から「スラッシュ」、「感嘆修辞疑問符」と呼ばれるものに至るまで、すべてをカヴァーしている。

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3/8彼らは、それら「グリフ」を拡大し、その形状を研究することからスタートした。

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4/8「スラッシュ」(slash)。

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5/8「ハッシュタグ」(hashtag)。

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6/8「感嘆修辞疑問符」(interrobang)。

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7/8「ピルクロウ」(pilcrow)。

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8/8「マニキュール」(manicule)。

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ロンドンのデザインスタジオ・Off-Whiteに所属する2人のスタッフが書き上げた『Glyph*』は、小さな記号たちへのラヴレターだ。

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「ピリオド」から「スラッシュ」、「感嘆修辞疑問符」と呼ばれるものに至るまで、すべてをカヴァーしている。

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彼らは、それら「グリフ」を拡大し、その形状を研究することからスタートした。

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「スラッシュ」(slash)。

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「ハッシュタグ」(hashtag)。

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「感嘆修辞疑問符」(interrobang)。

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「ピルクロウ」(pilcrow)。

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「マニキュール」(manicule)。

「グリフ」(glyph)は、タイポグラフィの隠れた英雄である。見過ごしがちだが、紛れもなく重要な要素だ。

グリフ(ここでいうグリフとは、句読点を含む印刷上の小さな符号のみを指す)は、文に意図と構造を与えてくれる。グリフは、テキストを解釈しやすくしてくれるのだ。グリフは、止まるべき箇所、疑問を呈する箇所、熱狂すべき箇所を知らせてくれる。

アドリアナ・カネヴァは、「グリフは音を合理的に表したものだ」と述べている。

カネヴァは、ロンドンのデザインスタジオ・Off-Whiteに所属する2人のスタッフのうちの1人だ。彼女は、パートナーであるシロウ・ニシモトとともに、グリフへのラヴレターとでもいうべきものを書き上げた。いみじくも『Glyph*』と題されたこの本は、コンマや疑問符、アスタリスクといった、あなたがよく知っている多くの符号から、ヘデラやマニキュールなど、おそらく知らないであろう符号に至るまで、その歴史に切り込んでいる。

独学で学んだ2人のデザイナーは、自分自身がグラフィック・デザインの基礎を学ぶなかでグリフの研究を始めた。彼らは、グリフを拡大し、その形状を研究することからスタートした。

彼らはすぐに、これらの符号が書き言葉を構造化し、あるいは補強するために不可欠なものというだけではないことを実感した。それ自体が、すでにして美しいのである。

「ピリオドのようなシンプルなものでもそうだ」と、ニシモトは言う。「ひと息吹きかけると、たちまちそれは、非常に強力なシンボルになる」

この本は、「ピリオド」から「スラッシュ」、「感嘆修辞疑問符」と呼ばれるものに至るまで、すべてをカヴァーしている。もし、あなたもわたしたちと同じように感嘆修辞疑問符というものを聞いたことがなかったなら、続きを読んでみてほしい。以下に、本からいくつかの歴史をピックアップして取り上げた。

スラッシュのルーツは、「ナイフで切る動作」

「スラッシュ」(slash)という語そのものは、中世、ナイフや武器で切る動作を意味するものとして登場した(古フランス語の“esclachier”を由来とする)。

この単語がどのようにしてあのダイナミックな、斜めに切り込むようなスラッシュへと置き換えられたかは想像しやすい。中世の写本では、スラッシュは今日の「コンマ」の代わりにあらゆるところで使用されていたが、翻って今日のスラッシュは、用途が限られている。

スラッシュのもつ最も一般的な機能は、「男性/女性」「はい/いいえ」のように、「または」という語を置き換えるものである。あるいは「愛/憎しみ」のように単語やフレーズの間の強いつながりを示したり、「km/h」のように「〜ごとに」を置き換えたり、詩や歌詞において行の終わりを示したりするのにも用いられる。近年では、コンピューター上でだけ用いられる「バック・スラッシュ」と区別するために、スラッシュを「フォワード・スラッシュ」と呼ぶこともある。

タイポグラフィー的に言えば、「斜線」と「スラッシュ」(分割線としても知られる)の区別も、注目すべきだ。斜線は分数を示すために用いられるマークであり、45度に近い角度で書かれる。スラッシュは句読点として使用され、その向きはより垂直に近い。しかし、今日ではそれらの間にはほとんど区別がなく、斜線を使用できない場合にスラッシュを用いることは、一般的に許容されている。通常、詩の行末を示す場合以外では、スラッシュの両隣には空白は入れない。

ベル研究所とハッシュダグの関係

「ハッシュタグ」(hashtag。シャープ、ナンバー記号とも)は、ラテン語の「libra pond」の短縮形である「lb」(ポンド重)から来ている。

初めて使用されたのは14世紀ごろのことで、「I」を「1」と間違えないように、文字の上に短いストロークを付け足した形で書かれていた。これが、徐々に「#」に変形したのである。下の線は「lとb」の下の部分を意味し、上の線は上記のストロークを表している。

この符号は、60年代後半にベル研究所のプッシュホン電話の発明者によって、テクノロジーに組み入れられた。彼はこの符号を、電話のシステムで文字と番号を区切るために使用したのである。言い伝えでは、この符号の「octothorpe」という名前は、ベル研究所の所長がつけたもので、この記号が8つの点をもつことと、彼がファンであったオリンピック選手、ジム・ソープの姓とを組み合わせたものとされている。

ハッシュはその後、早いもので1988年という、インターネットの黎明期に登場した。当時のネットワークでは、ユーザーはチャンネルを通じてコミュニケーションを行っており、そのテーマがハッシュ記号で示されていた(「#Tokyo」は東京の話をする人々のチャネルであった)。

しかし21世紀になるまでは、ハッシュタグはオンライン上でも“テクノエリート”以外にはそれほど用いられていなかった。2007年、Twitterの従業員が、グループまたは「チャンネル」の名前の前に#をつけることを提案した。この提案は当初、馴染みがない、また専門的にすぎるとして却下されたが、最終的に採用され、ハッシュタグの大出世がはじまったである。

感嘆修辞疑問符はどこにいった?

「感嘆修辞疑問符」(interrobang)は、感嘆符と疑問符を組み合わせたものである。広告会社の幹部、マーティン・スペクターは、「文の最後を、興奮した疑念や興奮したかたちの質問、あるいは修辞的な疑問を表現するかたちで終わらせる、タイポグラフィー的に雄弁な方法」として1962年にこれを導入した。

スペクターは、質問を意味するラテン語や、校正者が驚きを表すために用いる用語から、この記号を「interrobang(感嘆修辞疑問符)」と呼んだが、「クエスクラメーション・マーク」という呼び方を用いる人々もいる。

感嘆修辞疑問符は、60年代後半までの短い期間に熱狂的に受け入れられた。なかには、感嘆修辞疑問符キーがあるタイプライターさえあった。しかし、その流行はすぐに勢いを失い、昔ながらの「?」と「!」との組み合わせが復活した。

今日でも、パラティーノ(Palatino)のようないくつかのフォントに感嘆修辞疑問符を見つけることができ、感嘆修辞疑問符はインフォーマルな英語における非標準的な句読点として認識されている。

感嘆修辞疑問符はいまやエモーティコン(絵文字)に取って代わられたと言えるかもしれない。エモーティコンは、先行する文に強調や感情を与えるために、グリフの組み合わせと同じようにもちいられている。

由来は、「羽をむしられたカラス」!?

段落記号という、そのままな呼び方がなされることもある「ピルクロウ」(pilcrow)は、段落の開始と終了を示すものである。ワープロソフトで、不可視文字、すなわち印刷されない記号として、最もよく用いられている。

実質的に不可視であるにもかかわらず、ピルクロウには長い歴史があり、それは古代ギリシャにまで遡る。そこでは、「段落」の概念が、他の句読点に先行して生まれていた。

符号自体は、ラテン語の「capitula」(章の複数形)を大文字の「C」として省略したことに由来している可能性が高い。混乱を避けるために「C」は大きな曲線で描かれるようになり、それに真ん中を通るように垂直な線が付け加えられ、最終的に今日われわれが知っている、より複雑な記号へと進化したのである。

「ピルクロウ」という名前は、「paragraph(段落)」という語が変形したものだと考えられているが、羽をむしられた鳥に似ていることから、「pulled crow(羽をむしられたカラス)」という言い回しから来ているという興味深い説もある。

ピルクロウは、かつてはルブリケーター(rubricator)と呼ばれる文字装飾職人の手で、真っ赤なインクで丁寧に書かれていた。原稿に大きく空白が残されたままになっているところへ、彼らがピルクロウをあとから書き込んだのである。

やがて、段落は新しい行で始められるようになり、行の開始はピルクロウのためにインデントされるようになった。ルブリケーターに時間が足りないと、インデントは空白のまま残されることになり、最終的にはこれが標準的なやり方になった。つまり、新しい行とインデントが、手間のかかるピルクロウに取って代わったのである。

今日におけるピルクロウの主な用途は、校正で段落を挿入する箇所を指示したり、法律文書で特定の段落を引用したり、学術的な文書でHTMLページから引用したりするといったものである。

11世紀に見出された、マニキュール

ラテン語の「maniculum」(小さな手)から派生した「マニキュール」(manicule)は、ルネッサンス期から18世紀まで頻繁に使用された。この記号は、文書における「著者によるガイド」として機能し、重要箇所や興味深い箇所へ読み手の注意を引きつける。

わかっているなかで最も古いマニキュールの使用は、1086年の「ドゥームズデイ・ブック」(Domesday Book、イングランドを征服したウィリアム1世が行った検地の結果を記録した、世界初の土地台帳の通称)であるが、実際に多用されるようになったのは14世紀になってからである。人文主義者らは、法律の本から文学にいたるまで、あらゆる余白にそれを殴り書きするほどに、熱狂的にマニキュールを用いた。

基本的な形こそ、数世紀にわたって変わっていないが、曲がりくねったストロークで書かれた半抽象的なものから、装飾的なカフスや袖口が描かれた精密でスタイリッシュな手の形まで、マークには無数の演出があった。しかし、印刷技術が流通することでにより、マニキュールは徐々に好まれなくなり、より実用的な“番号付きの脚注”に道を譲ることになる。

今日では、マニキュールはごくまれにしか使用されない。しっかり着飾ったビジネスマンをあしらったマニキュールは、いまではヴィンテージな雰囲気を出すために、看板や広告で時折用いられることがある。また米国の郵便サービスでは、差出人に返送のスタンプに描かれてもいる。いくつかのコンピューター上でカーソルとして機能する小さな手は、読み手とスクリーン上のコンテンツとの間を介在するものであるという点で、一種のマニキュールであると言えるかもしれない。

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