「炭酸飲料で歯が溶ける」はガセ、と思いきや

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「炭酸飲料で骨が溶ける」といえば単なる都市伝説だが、歯に限ると、笑い話ではないかもしれない。

炭酸飲料やお酢、柑橘類の果汁といった身近な酸性の飲食物や、逆流性食道炎による胃液の逆流など、酸性のものに晒された歯が徐々に溶かされ、もろくなる「酸蝕症(酸蝕歯)」という口内トラブルが増えつつあるというのだ。

虫歯とは異なる歯のトラブル

酸で歯が溶ける、といえば虫歯(う蝕)と同じように思えるが、両者は異なる疾患だ。虫歯は、口腔常在菌のうちミュータンス菌など一部の菌が、食品の糖質から酸を作り、この酸によって歯の周囲が酸性になり、歯が溶けてしまう疾患だ。

菌によって口内のpH(水素イオンの濃度を表す単位。pH7が中性、小さくなれば酸性、大きくなればアルカリ性)が5.5〜5.7以下になると、歯の表面のエナメル質が溶かされる「脱灰」という現象が起きる。通常は唾液の働きで口内は中和され、溶かされた歯も補修される「再石灰化」が進むが、中和される前に繰り返し飲食をしたり、唾液の分泌が少なくなる就寝時前に飲食をしてすぐ寝たりすると、脱灰が進んで穴が開き、虫歯となる。

これに対し、「酸蝕」は菌が作りだす酸ではなく、口外や体内から入ってくる酸によって歯が溶ける疾患だ。かつてはメッキ工場やガラス工場で酸性ガスの吸引することで起きる職業病だと考えられていたが、2015年2月15日に東京医科歯科大学の北迫勇一助教授が日本補綴歯科学会誌で発表した調査によると、成人1108人のうち4人に1人にあたる26.1%が酸蝕症だったという。

特殊な疾患とされていた酸蝕症が増加しつつある原因が、酸性の飲食物や特定の疾患の増加だ。

2014年に東京医科歯科大学がおこなった調査では、缶ビールや野菜ジュース、ヨーグルトドリンク、栄養ドリンクといった市販飲料 120 種のうち、73%でエナメル質が溶け出す限界であるpH5.5〜5.7を下回る値を示し、ドレッシングなどの調味料にも酸性のものが多く見られたと報告されている。

また、逆流性食道炎のような嘔吐をともなう疾患も酸蝕症の原因となる。嘔吐で口内に逆流する胃液のpH 値は、1.0〜2.0(空腹時)と強酸性であるためだ。日本消化器病学会の「胃食道逆流症(GERD)ガイドブック」によると、1990年以降、逆流性食道炎の患者数は急増しているとされており、酸蝕症増加の一因になっていると考えられる。

歯の先端が透けていたら要注意

口内環境には気をつけているし、逆流性食道炎もない、炭酸飲料は控えて健康的な生活を送っている、という人も油断はできない。

黒酢やワインが原因と見られる症例や、ランニング後の水分補給に飲んでいるスポーツドリンク、3か月以上グレープフルーツを1日2個食べていたなど、健康を意識した習慣が原因で、酸蝕症になってしまった例も多く確認されているのだ。

酸蝕症も虫歯も軽度の知覚過敏や冷たいものがしみるといった症状は同じだが、酸蝕症に特徴的なのは、歯全体が徐々に溶かされていくことで歯が薄くなり、先端部分が透けてくる点だ。薄くなった部分が欠け、先端が不ぞろいにギザギザになることもある。

他にも、エナメル質が溶けて歯が白濁、あるいは黄ばんで見えるといった症状もあるが、素人が外見だけで虫歯なのか、酸蝕症なのかを正確に判断するのは難しい。歯に違和感があれば、すぐに医療機関に行った方がよいだろう。

気になる予防法だが、基本は酸性の飲食物を口内に含む時間を減らすことだ。普通に食べているぶんには問題ないが、ちびちびと長く口に含むような食べ方はやめた方がいい。また、虫歯の予防法にも通じるが、就寝前に酸性の飲食物を口にしないのも大切だ。

デンタルケアといえば歯磨きだが、酸性飲食物摂取直後の歯磨きを避けるのも酸蝕症の予防となる。食後すぐはエナメル質が柔らかくなっているので、すぐ歯磨きをすると歯が削れてしまうのだ。すでに、酸蝕症と診断されている場合、またはそのリスクが高い場合には、30分から1時間程度は時間を空けて、歯を磨こう。[監修:和泉雄一 東京医科歯科大学教授・歯周病学]

(Aging Style)