10年前の2005−06シーズン。当時、15歳の浅田真央のシニアデビュー戦の地が、ここ中国・北京だった。会場も同じ首都体育館だが、この間に体育館は改装されて生まれ変わった。

 25歳になった浅田もまた、気持ち新たに2シーズンぶりとなるGP初戦の中国杯に挑む。5日の公式練習後、報道陣に囲まれた浅田は「昨日の初日の練習では真央の、いつもの悪いときの調子かなと思ったけれど、今日はいい緊張感の中でまずまずの調子が出てきたので良かったかなと思っています」と気負った様子はなかった。いつもの浅田真央がそこにいた。

 4日に北京入りした浅田は、到着した日の夕方から1時間、みっちりと本番リンクで練習に励んだ。プログラムに入っているジャンプの種類や組み合わせをクリーンに跳べるまで取り組んだ。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をなかなか成功させることができなかったが、フリー『蝶々夫人』の曲掛けでは、冒頭のトリプルアクセルを鮮やかに跳んでみせた。

 そして大会前日の5日は、午後3時15分から約1時間の公式練習を行なった。ウォーミングアップを念入りにした後、ジャンプ練習をこなす。4日よりもジャンプが軽やかで力みがない。曲掛けの直前に跳んだトリプルアクセルは軽快そのもの。以前のような跳ぶ前のガチガチ感がまったくなく、浅田自身が「特別なジャンプのひとつではなくなった」と言うように、他のジャンプと同じ感覚で跳んでいる印象だ。

 5日の公式練習では、今季初めてショートプログラム(SP)、『すてきなあなた』を曲掛けで披露した。ジャズのスタンダードナンバーとして有名な曲をどのような振り付けで見せてくれるのか。興味津々だったプログラムの全容がついに明らかになった。

 冒頭のジャンプはトリプルアクセル、そのすぐ後のジャンプには3フリップ+3ループを跳び、フライングキャメルスピンがくる。この後からボイス入りの曲が流れ、3ルッツが入り、レイバックからビールマンスピンとつながり、ストレートのステップシークエンス、最後はコンビネーションスピンで締めくくるというプログラムだ。

「3ルッツが結構、いい感じで跳ぶときにアウトエッジになってきたということもありますし、取り組もうとしていた3フリップ+3トーループよりも3フリップ+3ループのほうが得意なので、だったらフリップ+ループ、ルッツという構成にしようということになりました。この構成は、(10月3日の)ジャパンオープンが終わって練習をし始めてから取り組んでいます。練習ではまだ安定していないですけど、今日(5日)の公式練習の時点では悪くなかったので、ちょっとずつですがこのジャンプ構成で慣れてきているかなと感じます」

 今季のSPで最大の注目点は、女子では最高難度となるトリプルアクセルをはじめ、3フリップ+3ループ、3ルッツというジャンプ構成だろう。他の追随を許さない圧倒的なジャンプ構成と言っても過言ではない。それほどのジャンプ構成を当然のごとく、平然とやってのける浅田が、1年間の休養を経て、競技会のリンクに本格的に戻ってくる。

 佐藤信夫コーチも今回のジャンプ構成についてこう話す。

「やっぱり(現役として競技会で)やっていくからには、そういう時代になっているわけですから(最高の難度に)挑戦するしかないと思います」

 元世界女王であり、すでに世界の女子フィギュア界の一時代を築いた浅田がここまでレベルを上げて挑戦するには、いくつかの理由がある。ひとつは、浅田真央という希代のスケーターが人一倍負けず嫌いで、挑戦心が旺盛だということ。そして、昨季台頭した10代のロシア勢や日本女子の若手の活躍がおおいに刺激になっていることだ。

「今まで3ルッツを修正してきてそれが固まってきたなというのと、3フリップ+3ループも安定してきて、トリプルアクセルもいい感じで入ってきている(跳べるようになってきた)。バンクーバー五輪後にジャンプの修正を一から取り組み、今まで積み重ねてやってきた集大成がこのSPのジャンプ構成だと思うので、ようやく自分が目指してきた目標のレベルまで来たと思います。いまは他の選手との対戦というよりは、自分の目指すレベルや今回新たに挑戦するレベルを達成したい思いが強いです。

 もちろん、オリンピックシーズンが終わってから、若い選手がたくさんレベルアップしていますし、私もそれに負けないようなレベルの構成を持ってきているので、(6日の)SPでは、まずは自分に集中して自分ができる最高の難度ができるようにしたい。それに、この中国杯はGPファイナルに行くための1戦目になるので、自分のやるべきことをしっかりやり遂げたい」

 発言の端々から手応えと自信が感じられ、同時に、相当の覚悟と意気込みも見られた。若い力に対抗する実力を十分すぎるほど兼ね備えて今季に臨むベテラン浅田の存在が、女子フィギュア界に最大級の旋風を起こすのは間違いない。本番を前に大きな期待感が膨らんでいる。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha