LGBTの人権擁護は重要な経営戦略の課題 (shutterstock.com)

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 11月5日、東京都渋谷区は、全国初の条例に基づき、同性のカップルを結婚に相当する「パートナーシップ」と認める証明書の交付を始めた。交付第1号となったのは、元タカラジェンヌの東小雪さんと、会社経営の増原裕子さん。証明書は区内に住む20歳以上の同性カップルが対象となり、法的拘束力はないが、条例は夫婦と同等に扱うよう病院や不動産業者に求めている。家族向け区営住宅への入居も可能となる。

 今年3月に同性パートナーシップ条例が成立すると、連鎖反応はすぐに起きた。

 条例の施行直後の4月9日、渋谷区内に本社があるアスモ少額短期保険は、同性パートナーシップ証明書があれば、同性パートナーを死亡保険金の受取人に指定できると発表。従来から死亡保険金の受取人は、配偶者か2親等内の親族に限られていたため、同姓パートナーが生命保険に加入する道は堅く閉ざされていた。

 ライフネット生命保険も、渋谷区の証明書の交付前日でとなる11月4日より同性パートナーへの死亡保険金受取人の指定範囲の拡大をスタート。また、大手生保のアクサ生命保険は、受取人に関する内規を見直し、法人利用が多かった第三者契約の受取人として、同性パートナーを認めると公表。料率も保障額も、通常の家族の受取額と同じだ。

 ただ、ほとんどの大手生保は、同姓パートナーには対応しない、個別対応するという姿勢を頑なに崩さない。内縁の妻への対応は緩和されたものの、同性パートナーへのハードルは高く、大手生保の時代錯誤は否めない。

 一方、7月、KDDI(au)は、自治体による公的証明書があれば、家族割を適用すると発表。すでに同居人の家族割の適用を認めているソフトバンクとNTTドコモに歩調を合わせた。携帯大手3社による同性カップルへの対応が出揃った。

LGBTの人権を守るダイバーシティ先進企業を目指せるか?

 セクシュアル・ダイバーシティ(性の多様性)の尊重やLGBT(性的少数者)の権利保護や支援は、今や世界の趨勢だ。LGBTの人権を守ることは、企業の競争力を強化する経営戦略の重要課題という認識は、少しずつ浸透している。

 企業が直面している喫緊の課題は何だろうか?

 セクシュアル・ダイバーシティというグローバルな人権問題に対処しなければ、社内外から人権を軽視する企業という酷評を受けるだろう。SNS(交流サイト)などに情報が拡散すれば、企業イメージが著しく阻害されるだろう。不買運動などのボイコットが起きれば、企業収益が悪化するリスクを負うだろう。しかも、これらのマイナス要因が重なり、人権を軽視する企業イメージが定着すれば、人権に理解がない企業を避けるリクルーターが増加し、人材戦略上のハンディキャップも負わされるだろう。

 とくに10月以降は、渋谷区の同性パートナーシップ証明書を取得したLGBTがリアクションを起こす可能性が高い。商品やサービスの対応を問い合せたり、証明書を持った社員が人事部に福利厚生制度の適用方針を確認するだろう。

 このような状況の急変に企業は即応しなければならない。経営陣の決断と意識変革、社員への教育と理解の促進が急務だ。人権軽視の対応や差別発言は、厳に慎まなければならないのは、言うまでもない。

 性別、国籍、年齢など、これまで重視されてきた目に見えるダイバーシティに加えて、LGBTという目に見えないダイバーシティへの配慮が欠かせない。LGBTの軽視や無視は人権の侵害。それが、世界のコンセンサスだ。LGBTの権利意識や影響力も大きくなっている。

 このように、セクシュアル・ダイバーシティへの適応は、すべての企業最重要な経営課題であるのは明らかだ。多種多彩なセクシュアリティ(性のあり方)を持つ人たちが働きやすい企業文化を創れば、社員のモチベーションや生産性が向上するだろう。LGBTの権利を守る企業イメージを構築すれば、商品やサービスの拡販につながり、社会貢献企業としてのブランドロイヤリティが高まるだろう。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。