メカニックデザイナーの仕事論 ヤッターマン、ガンダムを描いた職人
“メカのカッコよさ”を僕らに教えてくれた人だ。

 大河原邦男――「機動戦士ガンダム」シリーズをはじめ、「戦闘メカ ザブングル」「太陽の牙ダグラム」「装甲騎兵ボトムズ」などなど、数多くのアニメ作品に登場するメカの造形をつくりあげてきた、メカニックデザイナーだ。

 1970年代後半〜90年代に放映されたロボットアニメを観てきた人間であれば、大河原氏のデザインをまず間違いなく目にしているはずである。メカの美しさ、カッコよさを多くの人々に伝え、のちに続くメカ(ロボット)表現に多大な影響を与えた、メカニックデザイン界の第一人者である。

 本書『メカニックデザイナーの仕事論 ヤッターマン、ガンダムを描いた職人』は、そんな大河原氏がこれまでの自身の仕事について、具体的な作品タイトルを挙げながら振り返りつつ、職業人として、クリエイターとして大切にしてきた仕事論を語ったものだ。

 そう聞くと、我欲の強いアーティストが自分のクリエイティビティの素晴らしさやら、成功体験やらを自慢げに集り、慇懃無礼に持論を押し付けてくるような本をイメージしてしまう向きもあるだろう。実際、自己顕示欲をダダ漏れさせながら、過去の武勇伝を書き連ねているような“仕事論”本も少なくない。しかし本書は、そうした要素が皆無と言ってもいい。全編を通じて通奏低音のように流れているのは、誠実な職業意識と徹底した謙虚さだ。

 そうした大河原氏の誠実さは、次のような一節に表れている。

「メカニックデザイナーにもいろいろいて、ご自身の美意識や意見を言って議論する人もいるようです。

 自分の世界観と監督とのイメージがかみ合わず、納得できなかったら描けないという人もいる。片や私みたいに「これはお仕事、商売だから、この程度はいいんじゃないか」という、かなりゆるい人もいる。

 常日頃から、私はアーティストではなく「職人」だと言っています。メカニックデザイナーを「職人としての仕事」と考えているので、具体的な修正点や意見があれば対応しますし、監督が出したイメージを忠実に作画し、なおかつアニメで動かしやすく、商品化まで持っていくことに集中します。
(中略)
 私は「メカニックデザイン仕事請負人」みたいな感じで、望まれることは全部、文句を言わずにやっていく。それがしっかり形になると、監督も喜んでくれるし、スポンサーサイドも喜ぶ。その結果、アニメや商品が子どもたちに届き、彼らも喜んでくれる。私はそこにやりがいを見いだしています。」

 その他にも“仕事は選り好みせずに、スケジュールや体調が許すかぎりはどんな依頼でも引き受ける”“クオリティとスケジュールの管理を徹底して、締切前に必ず仕事を仕上げる”といった職人としてのこだわりが嫌味なく綴られており、その柔軟かつ丁寧な仕事ぶりに、素直に感心してしまうことだろう。大河原氏のそうした姿勢は、フリーランサーやクリエイティブ系の仕事に従事している人だけでなく、あらゆる職種で参考や示唆となる、普遍的な仕事の要諦を物語っている。

 もちろん、アニメ好き、ロボット好き、メカ好きにとって心躍るような記述も多い。たとえば、大河原氏が自選メカベスト10の1位に挙げているザク(機動戦士ガンダム)に関して、大河原氏は次のように記している。

「メカには強いキャラクター性と魅力的な造形美がないとダメだという私の考えを「ザク」では最も強く出せたと思っています。ザクは私の好きなデザインのひとつですね。このザクを作ったときにジオン軍のデザインコンセプトができたなという手応えを感じました。

 ガンダムなど地球連邦軍のメカは第二次大戦中の米軍を、ザクなどジオン軍の敵メカはドイツ軍をイメージして作りました。」