『Mr.Babe』表紙

「オシャレポチャリスト」「美ポチャ紳士」――こんなキーワードが躍るのは、26日に創刊された“ぽっちゃり男子”向けのファッション&ライフスタイル誌『Mr.Babe』(ミスターベイブ)だ。同士の編集長・倉科典仁さんは、『MEN’S KNUCKLE』(メンズナックル)を立ち上げ「お兄系」に火をつけた人物としても知られている。『MEN’S KNUCKLE』も「伊達ワル」などインパクトのあるキーワード/キャッチコピーで有名だが、『Mr.Babe』でも心をひきつける言葉が並び、ぽっちゃりをポジティブに捉えるという雑誌のコンセプトを打ち出すことに一役買っている。倉科さんへのインタビュー後編となる今回は、ファッション誌における印象的なキャッチコピーのつけ方をうかがうともに、編集者という立場から見る「ファッションの流行」についての考え、また『Mr.Babe』のビジネス的な勝算を訊いた。(編集部)

【前編はこちら】日本人男性の3人に1人はBMI25以上 “ぽっちゃり男子”向け新雑誌『Mr.Babe』編集長の狙いとは

キャッチコピーの印象を強める方法

――倉科さんは『MEN’S KNUCKLE(以下、メンナク)』の初代編集長でした。『メンナク』というと「ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」などの強烈なキャッチコピーがネットユーザーの間でも話題になりました。

倉科典仁さん(以下倉科):キャッチコピーというくらいだから、キャッチーでないといけないじゃないですか。『メンナク』のときの読者層を見ていると、「自分で決められない子」が多かったんです。何を提案しても「別に〜」「やってもいいけど〜」みたいな感じで、自分から主体的に手を上げて「これやろうぜ!」という子は少なかった。そういう人たちに対してあえてビッグマウスというか「これをやれば1000%モテる!」と言い切ってみたんです。

最初はもう少し抑えようかなと思っていたけど、やっていくうちに、そこに響く読者がたくさんいることに気づいて。これは「誰かに言い切ってもらいたい」「手を差し伸べて引っ張ってもらいたい」という感覚があるのではないかと。もちろん、全部が全部自分が考えていたわけじゃないですが、編集長としては「(キャッチコピーは)言い切ってくれ」という方針でやっていました。『メンナク』の読者もファッションには興味があるけど、どうして良いかわからない地方在住の男の子が多かったんです。何をどう合わせていいか分からないというので、カジュアルでもフォーマルでも黒は無難じゃないですか。だからモノトーンベースのファッションをテーマに打ち出して。読者が何を欲しいということを考えて発信していったら、すごく熱い想いをもった読者が集まってきてくれたんです。

――たしかに『Mr.Babe』のキャッチコピーも「スタジャンがふくよかボディをたくましさへと変換する」「お金のかかった体には上質なアイテムがよく似合う」など、言い切ってますね。

倉科:考えてみればそうですね。やっぱり『メンナク』の頃の癖があるんですよね。一見「何これ」とニヤリとするような。その時点ですでにキャッチに捕まってるわけじゃないですか。

『メンナク』も『Mr.Babe』も悩んでいる、どうして良いかわからない人の背中を押すという意味では同じかもしれないですね。

ブームに終わらせないファッションジャンル作り

――『メンナク』から発信された「お兄系」ファッションブームのときの雑誌の現場はどんなものだったのでしょう。

倉科:元々『egg』からギャルブームが起きて、『Men’s egg』から誕生したギャル男という土台が確立している中で、僕が『メンナク』を立ち上げることになったんです。『Men’s egg』の後半から「お兄系」という言葉ができていたんですけど、いつの間にか『メンナク』の代名詞になってきて。

『メンナク』は最初から9割方歌舞伎町のホストをモデル起用していました。ホストの広告も入っていたので、始めたばかりの頃は周囲から「クライアントからのイメージが悪いんです」と言われたこともあるんですけど、数字が出てくると「これが個性ですよね」って態度が変わるんですよ(笑)。ブームというか、人ってそういうところで変わってくるじゃないですか。それにワッと来てワッと去るみたいなブームで終わってしまうのも、作り手としては疲れますよね(笑)。

――ギャルブームを牽引した『egg』『Men’s egg』も休刊してしまいましたね。

倉科:雑誌、若者向けファッションカルチャーをやってると、いつか終わりが来るんですよ。ブームが悪いわけじゃない。良い経験をさせてもらいました。

ファッションに情熱を傾けるのは10代、20代が中心で、それ以降は徐々に雑誌を卒業していくわけですよね。大人になるということ自体が悪いことではないですし、社会に順応していかなくてはいけないわけで。

その中で、おとなになってからもファッションを楽しむことができる人は一握りだと思うんですよね。例えば結婚して子どもができると、金銭的にも時間的にも独身時代のようにファッションに気を遣うのは難しいじゃないですか。

『メンナク』が今も生き残ってる一つの理由は、ずっと「ホスト」という職業の人をベースにしているからだと思います。ホストも「第●次ホストブーム」と何度も言われてますけど、ブームが去っても職業がなくなるわけではないですから。

ビジネスとしてはブームになったときに一気に稼ぐやりかたと、安定したやり方とあると思うんですけど、僕はどちらかというと後者でありたいですね。

――なるほど。

倉科:ぽっちゃりの場合、現状だと服の選択肢がプレーンなものですら少ないんですよ。だから僕も、行きつけの服屋に行ってサイズの合う服が見つかると、そこにあるものを全て買うことがあります。同じ服がなかなか見つからないから。周りを見ていても、そういう買い方をする方は多いですね。値段すら見ない人もいる。そういう意味では客単価も高いので、ビジネスとしても成立できるだろうと思っています。

――日本人男性の3分の1がぽっちゃり層であることを考えたら、大きな数字だと思います。

倉科:それに、「どういう格好なら奥さんや周囲に受けるんだろう」という悩みを持っている人も多いでしょうし、逆に30代で独身で「どうせこのまんまデブのまんま、彼女も出来ずに死んでくのか……」みたいなネガティブな感じになっている人もいると思うんです。そこでこの本で「そんなことないよ」とぽっちゃりでも人生やファッションを楽しんでいるということを見せることで、悩んでいる読者に元気を与えるようなことが起これば、結果的にビジネスとしてもうまくいくのではないかと。

白米を振る舞うイベント『デブ博(仮)』開催

――『Mr.Babe』の今後の展開を聞かせてください。イベントも予定されているそうで……。

倉科:12月にぽっちゃりメンズによる、ぽっちゃりメンズのための写真展『デブ博(仮)』を開催します。ぽっちゃりでも前向きな人、著名人、偉人の方の写真を貼りだして、会場に来てくれた人には白米を振る舞うんです。そして白米をかっこみながら、それを見ていただいて。他には『Mr.Babe』の公式応援マネージャーの元SKE48の佐藤聖羅さんのトークショーや、ポチャリストのおしゃれな話などもしたいですね。今後は、大きいサイズだけのファッションショーや展示即売会をやりたいです。

――それは楽しみですね!

倉科:ぽっちゃりというのは引け目を感じることではないし、この本からエネルギーを感じてもらえれば、もしかしたらムーブメントが起こる可能性が出てくるのかなと思うんです。

でもブームって、さっきも言ったようにワッと来てワッと去るじゃないですか。だからブームというよりは、このカルチャーに火を付けて盛り上げたいという気持ちですね。そして長く支持されるようになれれば。太った人をブームするというよりは、みなさんが困っている状況を打開したいんです。読者のニーズに応えるような企画を出していきたい。そのためには『Mr.Babe』をみなさんに知っていただいて、広まっていけば、安定的にいろんな情報を供給していける実用誌になれるかなと思っています。

■関連リンク
『Mr.Babe』公式サイト
『ミスターベイブ』創刊記念プロジェクト(クラウドファンディング)

(藤谷千明)