【日産 IDS Concept】

 このクルマは日産得意の電気自動車(EV)の姿をしたコンセプトカーだが、彼らが研究開発中の"自動運転"の技術コンセプトがテンコ盛りなのが最大のツボである。

 最近話題の自動運転だが、(日産以外の)国産メーカーや日本政府が考える最初のステップは、高速道路での限定的なものだ。

 しかし、日産はすでに、ナビに目的地を入れれば、歩行者や自転車が行き交う市街地も含めたルートを自動で目的地まで......という本物の自動運転にマジで取り組んでおり、すでに技術的にもメドが立ちつつあるという。

 この"日産 IDS Concept"は、そうしたピュアな自動運転技術に加えて、周囲のクルマや歩行者に対して、ボディに埋め込まれたLEDが光って「あなたのことを認識していますよ」と知らせたり、電光掲示板で「おさきにどうぞ」といった意思表示をして、外界とのコミュニケーションをはかるのが新しい。

 なるほど、本当に街中で自動運転車が走りはじめたら、最初はちょっと気味が悪い気もするだろうし、不安にもなるだろう。日産はそうしたリアルな社会問題にまで踏み込んで「嫌われない自動運転とはなにか」を考えはじめているわけだ。

 日産はまた、実際の道路をモニターしながら、「クルマとどのくらいの距離と速度なら、歩行者は立ち止まるのか、あるいはその逆に足早に通り抜けるのか」や「クルマどうしが、どういう順番とタイミングで交差点に進入するのが、もっともスムーズで安全なのか」といった研究もしている。

 日産の自動運転技術レベルはもはや「障害物があったら避ける」とか「歩行者がいたら止まる」みたいな単純なものではなくなっており、人間の心理学や行動学、あるいは社会学の分野まで踏み込んでいる。これはもう、クルマというより完全にロボット技術であり、人工知能の世界である。日産が自動運転で描いてる未来のツボは、深すぎるくらいに深い!


【トヨタ S-FR】

 トヨタ86(第31回参照)の価格は主力モデルで300万円前後。その内容を考えれば十二分に安いが、20代の若者が自腹でローンを組むにも、大人が遊び専用セカンドカーとして買うにも、それなりにハードルが高い金額であることも否定できない。

 トヨタ S-FRコンセプトは"86よりもっと手軽なスポーツカー"という、多くの人が夢見るツボを、素直に具体化したものだ。想定される価格は200万円以下だろう。

 86より明らかに小さいボディサイズはアクア(第26回参照)の全高だけをベタッと低くした感じ。さらにデザインも機械内容も、メチャクチャ完成度が高い。内装に既存車種の部品を流用するなど、かなり本気で商品化しようと開発したことは明らかである。

 ただ、この期におよんでも、トヨタは商品化を決断していない。技術的にはなんの問題もなくても、全身ほとんど専用開発のスポーツカーを200万円以下で売る......というビジネスを成立させるのは簡単ではないのだ。

 また、古今東西のスポーツカーは巨大市場のアメリカで売ってツジツマを合わせるのが常套手段だが、さすがにこれだけ小さいと、土地も人間の体格もデカいアメリカでは売りにくい。その点も、S-FRの実現に向けた大きなネックになっていると推測される。

 これを商品化してほしいなら、モーターショー会場に足を運んで「発売してくれたら、買う!」とトヨタに伝えるのが最大の貢献である。クルマの世界では、そういう生の声が、商品化のキッカケとなった実例は意外なほど多いのだ。


【BMW M4 GTS】

 普段使いにもちょうどいいサイズで、昔風にいうと"ヒツジの皮をかぶったオオカミ"的な成り立ちで、マニア間でカリスマ人気を誇るのがBMWのM4(とその4ドア版のM3)である。

 このM4 GTSはただでさえバカッ速のM4を、これでもかとカリカリにチューンした限定車。軽量化のためにリアシートやエアコンまで取り払われた"ナンバーも付けられるツーリングレーシングカー"である。

 かつては世界を代表するモーターショーだった東京も、今やゼネラルモーターズやフォードなどの米国メーカーも、フェラーリに代表されるスーパーカーメーカーも来なくなってガラパゴス化が進んでいる。その他の海外メーカーにしても、東京に世界初公開モデルを持ちこむ例は数えるほどしかない。

 そのなかで、このM4 GTSは今年の東京モーターショーで数少ない"世界初公開の新型車"である。新車販売は縮小傾向の日本だが、こういう超マニアックなスポーツカーだけは、今も世界でも五指に入る消費大国なのだ。このクルマの世界デビューの場にわざわざ東京を選んでくれたBMWの心意気には、素直に感謝のツボである。


【マツダRX-VISION】

 専門メディアにおける記事の多さや、マニアの盛り上がりを見るかぎり、今年の東京モーターショーのトップスターは、この"マツダ RX-VISION"といって間違いない。

 これは新世代ロータリーエンジン(以下、ロータリー)搭載を想定したスポーツカーのコンセプトカーだ。ロータリーは事実上、世界でマツダだけが実用量産化に成功した技術で、ロータリーを積んだスポーツカーの"RX-7"は今もマニアの語り草。あのル・マン24時間レースで日本車として唯一総合優勝経験があるのも、マツダのロータリー車である。

 ロータリーのメリットはエンジン本体が超コンパクトで、かつハイパワーであることだ。逆にデメリットは燃費が悪いことで、環境時代の今はそれが最大のネックとなって、2012年以降、ロータリー車は生産されていない。

 このコンセプトカーは最近絶好調のマツダによる「ロータリーをまたやるぜ!」という決意表明でもあるが、具体的な技術内容は明らかではなく、発売予定も「いつの日か」だそうである。マツダが本気でロータリーを復活させたがっているのは間違いない。しかし、今のクルマ業界を取り巻く状況は混沌としており、本当に復活できるかどうかは、かなりビミョーな気もする。

 それでも、大々的に宣言してしまうアツい心がマツダの魅力であり、さらにこのコンセプトカーが、細かい理屈ぬきに純粋にカッコいいのが人気のツボだろう。なるほど、このベタッと低いボンネットはロータリーを想定しないと実現不可能だ。全体のプロポーションは「ボディは長く、幅広く、低く、前後オーバーハングは短く、キャビンは小さく」という"カッコいいスポーツカー"を作るための古来からツボに超忠実。ここまで教科書どおりにデザインすれば、カッコ悪くするほうが逆にむずかしい!?

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune