自分の都合ばかり押しつけるずうずうしい相手に、どう対処すべきか?
「そこで食い下がるか?」と首をかしげたくなる人がいる。少々の温情措置では満足せず、次から次へと勝手な都合を言い連ねる。口を開けば要求ばかり。そんな相手に出くわしたら、どう対処すべきなのか。

 今回は江戸時代を舞台に、ひとりの男の意地と矜持を描いた『大川わたり』(山本一力/祥伝社)から、対処法を探りたい。主人公・銀次は博打にハマり身を持ち崩す。多額の借金を抱えながらも、呉服屋の手代として再起をはかろうと決意するところから物語が始まる。

◆「こころの鍛錬ができれば、剣を抜かずとも相手を斃(たお)すことができる」

 主人公・銀次は呉服屋で働く傍ら、剣術道場に通う。”修羅場に出くわしても、ぶれない度胸が欲しい”というのが、その理由。道場主である堀正之助は「こころの鍛錬ができれば、剣を抜かずとも相手を斃すことができる」と励ます。

 ちょっとしたことで動揺し、気持ちがぶれる。そんな弱さがつけいる隙を与えてしまう。まずはゴリ押しを許すような、こちらの及び腰を改善する。相手が思わず文句を飲み下すほどの毅然とした態度を目指したい。

◆「痛みはいっときのことだ。怯まず続けろ」

 剣術道場に弟子入りした銀次は、木刀で素振りを始める。手にマメができては潰れ、肩も痛む。それでも日課として続け、1日500回ものの素振りをこなせるようになる。

 身勝手な相手とのやりとりにも“痛み”はつきもの。ムッとされたり、声を荒げられても、言うべきことはしっかり言う。すると、相手が“ごねても無駄”と悟る日がやってくる。

◆「さかのぼって責めるのはよしましょう」

 銀次はかつて博打にハマり、大きな借金を背負った過去がある。呉服屋の手代になった後も、過去は繰り返し蒸し返される。しかし、恋人のおやすは銀次をひと言も責めず「さかのぼって責めるのはよしましょう」と背中を押す。

“以前もあんなに便宜をはかったのに……”という過去への思いは、怒りに拍車をかける。しかし、相手からすれば、しょせん昔話。あとから物言いをつけるのは話がこじれる原因にもなる。その都度ケリをつけ、後から蒸し返さぬよう心がけたい。

 自分の都合ばかりふりかざす人はどこにでもいる。交渉のイニシアチブは渡さない。筋違いな物言いにはハナからとりあわないというのも、大人なら身につけておきたい処世術のひとつだ。

<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『大川わたり』(山本一力/祥伝社)―

<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。