先週末から今日にかけて、安倍晋三首相と中国の李克強首相がソウルを訪問。韓国の朴槿恵大統領を交え、3カ国と2国間での首脳会談を行った。

歴史問題で関係がこじれていた日韓・日中の首脳が一堂に会したことは良かったのだろうが、肝心の中身の方は、やはり物足りないと言わざるを得ない。

北朝鮮問題に関する部分は、特にそうだ。

3カ国の共同宣言では「朝鮮半島での核兵器開発に関連する国連安保理決議や6カ国協議共同声明が忠実に実施されるべきとの認識を共有。緊張を引き起こすいかなる行動にも反対」するなどとしているが、こんなのは会って話すまでもない、当たり前のことである。

北朝鮮の金正恩氏に対し、ある意味で「死刑宣告」を下したとも言える米韓首脳会談と比べたら、1万分の1ほどの迫力もない。

どうしてそうなってしまうのか。第1の理由は中国にある。

金正恩氏がいま最も恐れているのは、核開発やミサイル開発について国際社会から圧力を受けることではない。「人道に対する罪」を問われ、「処刑台」に送られることだ。

膨大な人々を「政治犯収容所」で拷問し、抑圧に抵抗する数百人もの人々を戦車で轢殺させるなどの残酷な所業は、そもそもは彼の祖父と父親の手によるものであり、正恩氏に直接の責任はなかった。しかし今では、彼自身の手も粛清した人々の血で染まっており、その証拠は衛星画像などによっても捉えられている。もはや、どんな言い逃れも通用しないというわけだ。

ところが周知の通り、中国もまた、国内に人権問題を抱えている。そういった国と歩調を合わせている限りは、金正恩体制の弱点に迫ることは難しいのだ。

もっとも、これは中国に限った話ではなく、日本の安倍政権も同様だ。

北朝鮮は、日本の対北戦略の中で人権問題が重く扱われていないことを知っている。なぜなら安倍政権は、日本人妻の帰国を提案してきた北朝鮮に対し、事実上「いらない」との回答をしてしまっているからだ。

拉致被害者の帰国を優先させたい政治的な事情があるとしても、「安倍政権の関心事は世論の支持率であり、人権問題ではない」と北朝鮮に見透かされるのは、外交戦略上も得策とは言えないだろう。

日本が国際社会で妥協なき「人権攻勢」をしかける“厄介な国”にならない限り、金正恩氏は安倍政権から、さしたる圧力を感じることはないのである。