4月8日の夕方、デスクの携帯電話の着信音が鳴った。「オジサン」からだ。1週間ぶりの電話で、デスクは「花見の誘い」かとケイタイをとりあげた。

 はい、先輩。こんにちは。
 やあ。
 花見の誘いですか。
 そうじゃないんだけど、うん、花見もいいね。あとで、青山墓地で夜桜見物とでもしゃれこもうか。
 いいですね。
 その前に、チョット聞きたいことがあるんだけど……。
 なんですか。
 知人から郵政民営化について聞かれてね。
 この間、お話ししましたよね。
 そうなんだけど、あれから少し、事態が進展しているだろ。
 そうですね。それで、どんなことですか?

なぜ、現状維持なのか

 今週のはじめ、郵政民営化についての政府法案の骨子が決まったよな。
 ええ。4日の新聞に大きく報じられていましたね。
 この間のお前さんのレクチャーで、なぜ今、郵政を民営化するのかという理由がだいたいは分かったんだけど、何だって自民党内のいわゆる「郵政族」はあんなに政府案に反対してるんだい? 新聞を読んでも、「反対」「反対」と書いてあるだけで、なぜ反対してるのかということについて説明されてないんで、よく分からないんだなぁ。
 そうですね。ただ、去年9月に「郵政民営化の基本方針」が出されて以来、自民党内の反対意見はずっとありましたが、最近になってようやく、郵政民営化の何に反対しているのかがはっきりしてきたようです。
 いったい、それは何だい?
 一言でいえば、せっかく「郵政公社」をつくったんだし、まあまあうまくいっているんだから、なにも急いで「民営化」する必要はない、ということだと思います。
 要するに、現状維持でいいっていうことね。
 そうです。
 じゃ、なぜ「現状維持」なのかと考えてみると、ひとつには、特に問題が生じているわけではないということだよな。
 そう。経営困難に陥っているわけでもないし、外部から民間経営者を招いてがんばっているじゃないか、ということですね。
 そう。もうひとつは、現状維持すれば、反対派にはそれなりの旨味があるんじゃないかということなんだけど……
 よくいわれるように、特定郵便局長が選挙の時の集票マシーンとして機能するということですか?

郵貯と簡保は一般商法会社に

 そういうこと。それに、郵貯と簡保を合わせれば、350兆円というベラボーな金額になるだけに、こうも意固地に反対するところをみると、ナンダな、何らかの見返りを期待しているのではないか、と勘ぐりたくなるんだ。
 日本は民主主義国家だし、マスコミのチェック機能も働くはずだから、そんな露骨なことはもはやできないと思いますが……
 オマエさんは、相変わらず、批判精神に欠けているね。マスコミ人としては、失格だぞ。
 また、小言ですか。
 それ以外にも、実は、省庁間の縄張り争いというか、既得権を失いたくないという「省エゴ」もあるんじゃないのか? だって、民営化されれば、金融会社である「郵貯会社」と「簡保会社」は金融庁の管轄下に置かれ、物流会社である「郵便会社」は国交省の管轄になって、「郵政3事業」を一括して管轄していた総務省は既得権を失うわけだろ?
 なるほど、鋭い指摘ですね。たしかに、民営化した後の会社を、一般の普通の会社にするか、特殊会社のままにしておくかということについては、意見が大きく分かれるところです。民間会社にすれば、他の金融・保険会社と同じように、金融庁の管轄下に置かれることになるし、特殊会社なら今のままで総務省の管轄ということになりますからね。政府の法案骨子では「郵便貯金銀行、郵便保険会社については特殊会社とはせず、一般商法会社とする」と明記されていますが、これは重要なポイントだと思います。
 なるほど。
 だから、先輩がおっしゃるようなことが、現実の綱引きの材料になっているんだと思います。
 そうだよな。
 ところで、だいぶ暗くなってきたんですが、花見に出かけませんか。
 いいね。じゃぁ、7時に千代田線乃木坂駅の渋谷寄りの改札口で待ち合わせることにしよう。
 わかりました。友人を何人か誘ってもいいですか。
 オッケー。(つづく)