11月3日、文化の日。この日には毎年、日本武道館において全日本剣道選手権大会が開催される。各都道府県の予選を勝ち抜いた剣士たちが日本一を競う最重要大会。その大会で今年、一段と注目を集めているのが、筑波大学4年生の竹ノ内佑也(福岡県代表)だ。

 昨年、初出場ながらベテランの警察剣士たちを次々と撃破し、21歳5か月での優勝。43年ぶりの学生優勝にして、史上最年少優勝記録も54年ぶりに更新した。今年も優勝すれば史上初の学生2連覇となるだけに、いやが上にも注目は集まる。

 竹ノ内の出身は宮崎県宮崎市。剣道をしていた父親の影響で、3歳の頃には自然と竹刀を握っていたという。中学3年生の時に全日本少年剣道錬成大会で個人優勝、福岡大学附属大濠高校3年生でインターハイ団体優勝と、同世代のなかで早くから頭角を現していた。

 筑波大学入学後は全日本学生大会で団体優勝に貢献。その実績が評価され、2年生の時に世界大会日本代表を選考する強化訓練講習会に招かれた。経験豊富な20歳代、30歳代の警察剣士が選ばれることが多いこの講習会に、学生が選ばれるのは異例のことだ。30名を超える選手たちとの競争を勝ち抜き、今年5月の世界選手権に出場(男子の部で学生が出場するのは初めて)。団体戦優勝、個人2位の成績を収めている。

 実力は学生という枠を大きく超えている。相手を攻め崩す攻撃力、ここだという場面で思い切って勝負に出る決断力、鋭い足さばきから生まれる打突力といった剣道に必要な力を備え、警察の強豪選手と対戦しても引けをとらない。

 竹ノ内を指導する香田郡秀・筑波大学剣道部部長(同大学教授・剣道教士八段)は、彼のずば抜けた素質について「勝つ選手は、見ている人に何かを持っていると予感させるものがあります。たとえば、相手の動きを冷静に読む目であったり、打つタイミングをとらえる力であったりするでしょう。竹ノ内君には、その何かが備わっているのではないかと思います」と語っている。

 また、彼の武器は他にもある。特に言われているのが「気持ちの強さ」だ。どんなに大きな大会であっても、たとえ相手が実績のある選手であっても、気持ちが浮つかない。いざ試合となれば戦うことに専念できる。竹ノ内自身、「いつでも強気で試合できることが自分の長所」と分析している。

 筑波大学の剣道部男子監督、鍋山隆弘・同大学准教授も「腹のすわり方というのは、鍛えようと思ってもそう簡単にできるものではありません。普段から剣道を見ていますが、相手の動きに対して過度の対応をしないですね。ですから心も浮きにくい」と太鼓判を押すほどだ。

 そんな竹ノ内の良さが存分に発揮されたのが、昨年の全日本剣道選手権の決勝だ。相手は同じ福岡代表の國友錬太朗(福岡県警察)。試合時間が7分となるところで、竹ノ内が小手面の二段技を決めて先手を取る。全日本選手権では4回戦以降、10分の制限時間内に先に2本を決めた選手が勝利となるため、反撃を試みようと國友が積極的に攻め込んできた時のことだった。

 試合場のライン際まで下がった竹ノ内に対し、國友が勢いよく跳び込む。下がっている分、体勢はやや後ろに反っていて本来であれば動きづらい。そこを、一瞬で体勢を立て直すとともに國友の「出ばな」を狙って一気に面へと跳んだ。ほんの一瞬だった好機を見定めて迷わず面に打ち込んだのだ。

 技術もさることながら、強い決断力がなければ打てない一本だ。まして、決勝という大舞台。このメンタルの強さは、とても学生とは思えない。竹ノ内本人は「小さい頃からテレビで見ていた大会。普段出場する大会とはまったく違う雰囲気でした」と語ったが、その試合ぶりは"初々しい学生"という印象とは程遠かった。

 22歳という若さで、技術面・精神面において非凡な才能を持ち合わせている竹ノ内。これまで62回行なわれた全日本剣道選手権で、連覇の記録をもつのは宮崎正裕教士八段と高鍋進教士七段(いずれも神奈川県警察)の2名のみだ。今回はその記録に挑むことになるが、他の選手に動きを研究されていることは間違いなく、昨年よりも難しい戦いを強いられるだろう。しかし、「彼ならばそれを乗り越えてくれる」という期待を抱かずにはいられない。そういった「何か」を持った選手なのだ。

 全64選手のうち、学生剣士は竹ノ内を含め3名出場する。「3人とも、面白い試合ができればいいかなと思います」(竹ノ内選手)。あくまで挑戦者として、再び日本武道館の舞台に立つ。

柳田直子●文 text by Yanagida Naoko