連続ドラマ「結婚式の前日に」(TBS 毎週火曜10時〜)
結婚を控えた主人公ひとみ(香里奈)が悪性の脳腫瘍を煩っていることがわかって不安を抱えるなか、28年間、姿を隠していた母・可奈子(原田美枝子)が現れて、娘を懸命に励ましていく。
深刻な状況なのに、母の行動があまりにエキセントリックだったり、主人公がやたら食欲旺盛だったりするところに賛否両論のこのドラマのプロデューサー・新井順子に、企画意図と今後の対策を聞いた。


悲しいときに肉をガツガツ食べて


──今、何話を撮っているんですか(取材は10月末、3話放送直後に行った)
「今、6話です」
──主人公が病を抱えながら“結婚式の前日”までどう生きていくか描かれるのでしょうけれど、どんなふうになっていくか楽しみです。1話を見て、印象的だったのが、主人公が肉をガツガツ食べているところが2回もありました。病気を知ってショックなのにエネルギッシュなんですね。2話でも食べるシーンがありました。
「2話はお父さんのつくった卵焼きを食べましたね。3話はお寿司を。いつも、1話につき必ず、印象に残る名シーンや名台詞があるように意識してつくっています。それも、テレビドラマっぽくないことがいいんじゃないかと思って。例えば、病気になって落ち込んでいても食べられたら思いきり食べる、みたいなことですね。ただ、食べることで感情を表現するのはなかなか高度で。あそこは、泣くのを我慢して食べて、最後、本当に笑顔になっている心情の変化を見せたかったのですが、視聴者さんによっては、なんで食べるシーンが長かったの? と疑問に思われる方もいらっしゃるようで。悲しいときに肉をガツガツ食べて心情を表わすのは、高度なんだなと改めて感じました」
──ああ、そうですか(苦笑)。そういうのもあって、3話で食べるシーンは控えめに? 
「でもそれで言うと、3話も食べ物がドラマの仕掛けになっているんですよ。お寿司を食べたことによって、本音を言う仕掛けに。父・健介(遠藤憲一)に“来年も再来年もお父さんのお寿司を食べたい“と言わせたくて。そのためには、寿司をどうにかして食べさせないといけないという発想から脚本をつくっています」


──逆算していく。
「はい。いつもこういうシーンを書いてくださいというふうに頼むんです。この回ではクライマックスに香里奈が寿司を握るところを書いてくれと脚本家さんに頼んで、じゃあどうしようかと考えてもらいました。1話だと、お母さんは川から飛び込みましょう、理由は考えてくださいって(笑)。2話は、『もう一度結婚してください』っていうところをピークにしたい。3話は、父と子が向き合って、娘が実は悪性の脳腫瘍なんだと告白する。4話も、インパクトのあるシーンと台詞を用意しています」
──3話で良かったのは、原田美枝子さんに、主人公の叔母役の美保純さんが「帰れ」と塩を巻いているところです。
「『あんたが病気になれ!』ってところですね」
──あれは本当に何かかけているんですか?
「塩をかけています。この間、帰ったら、服のなかから塩が出て来たのよ、相当私かけられたってことよねって、原田さんが言ってました(笑)」


リハーサルで泣いちゃうくらい


──そうですか。主役の香里奈さんは健気さがあっていいんですけど、やっぱり原田美枝子さんが圧倒的に存在感ありますよね。
「これもまた、食べるシーンと同じく、あの元気なお母さんがいいという方と、ちょっとついていけないっていう方がいます。本当は、ただ元気なだけでなく、ほかの感情を抱えていて、憂い顔もしているんですよ。でも、徐々にお母さんの真意がわかっていくというドラマなので、前半はあえてその顔は編集でカットしているんです。3話でも少し出てきて、4話では、どういう思いで娘の背中を押そうとしているかわかるシーンがあります。江波杏子さん演じる、ひとみの婚約者のお母さん・響子との対立といいますか、母同士の思いがぶつかるシーンがありまして。リハーサルで泣いちゃうくらいの名シーンですよ」
──3話は、美保純さんVS 原田美枝子さんでしたけど、今週は、江波杏子さんとのバトルですね。
「女の戦いがあります」

すぐ話が本筋から脱線してしまう


──新井さんのドラマには、「夜行観覧車」や「マザー・ゲーム〜彼女たちの階級〜」など、女の戦いを描いたもの多いですよね。
「はい。女のドロドロが(笑)」
──そこも意識して取り入れられているんですか。
「いやあ、ほかにも出してるんですよ、企画は。でも、通るのがそういう、女性の気持ちを描いた作品が多いですね」
──大事ですよね、女性視聴者が多いですから。
「女性の脚本家さんとの打ち合わせは、男性スタッフおいてきぼりで、女性同士わかりあえるエピソードで盛り上がります。すぐ、話が本筋から脱線してしまうんです(笑)」
──そういうところから女性のリアルが立ち上がってくる。
「そうですね(笑)。例えば、『マザーゲーム』は、全部実話です。取材を元に、エピソードを混ぜて、キャラクターをつくリました。今回は、私がひとみの世代に近く、脚本家さんが、お母さん世代に近いので、ちょうどバランスがとれていると思います」
──監督は。
「ちょうど真ん中ですね。スタッフのなかで、私が一番年下なんですよ」
──お若いのに、ヒットドラマをたくさん手がけているんですね。
「やれるうちにやろうって思っているんです。若いうちにできるだけやっておこうと」


闘病ものなのに、と言われたかった


──今回は、なぜこういったテーマでドラマをつくろうと思ったんですか。
「いつ死ぬかわからないから、一瞬一瞬を大切に生きようという思いがありました。夏休みが終わると自殺者が多いと言うニュースをいろいろな番組でやっているのを見たときに、一方で、病を抱えながらも必死で生き抜こうとしている人たちもいるという認識がありましたから、生きたいひとが生きられなくて、生きることができるひとが死んでしまうという不条理を感じたんです。そんな世の中で、生きるとは何か、生きていることのありがたさみたいなことをドラマで描きたいと思いました。実際、ドラマを見た十代の方が、Twitterで“生きるってなんだろうって考えた”みたいなことをつぶやいてくれていたので、やった意味があったと思います。言葉にすると大げさに聞こえるかもしれませんが、生きているって奇跡ですよね。この、いつ死ぬかわからないから一生懸命生きましょうというテーマを、ちょっと違った目線で描きたかった。闘病ものなのに、と言われたかったんです」
──闘病もの、なのに。
「なのに、ちょっとポップで、希望をお届けするみたいに。とにかく、病と向き合う姿を力強く描きたいと思ったんです。さらに、結婚式の前日ってどういう日になるんだろうという好奇心がありました。1年以上前から考えていた企画で、発端は、友達から聞いた結婚式の前日は実家に戻るっていう話でした。最後の親孝行みたいなもので、何をするわけじゃないけれど一緒にいるっていうことが大事だと言うのを聞いて、なるほど、最後に、娘として親のために使う日なんじゃないかと思ったとき、“結婚式の前日”はドラマになるのではないかと考えました。さらに、長いこと何らかの事情によって親子として暮らしていなかった親子が、親子になって結婚式の前日を迎えたらどんな一日になるのかしらと想像を膨らませていきました。病気と闘う娘と、主人公と確執のある母を闘病ものらしからぬキャラクターにした。それと築地が移転する話を加えて、下町の人情感を出したらどんなドラマができるだろうと」

ちょっと間引いているんですよ


──てんこもりですね。
「てんこもりです」
──テレビドラマをつくるにはそれくらいに要素を入れないといけないのでしょうか。
「これでも、最初に脚本をつくったときは、周囲から盛り込み過ぎじゃないかと指摘されて、ちょっと間引いているんですよ。私はついてこられないくらい盛り込んであるほうがいいかなと思ったのですが、病気を題材にした以上は、じっくり描いたほうがいいと思い直しました」
──下町の中でも築地を舞台にした狙いはありますか。
「美味しそうな街だなと思ったことです。お魚が美味しい街」
──生命力のある街ってことでしょうか。
「“活きる街”みたいなイメージです。ただ、ロケができないことが残念なんです。バラエティーはできてもドラマの撮影には最近許可がおりなくて・・・」

(木俣冬)

[プロフィール]
あらい・じゅんこ
1980年、大阪府生まれ。制作会社ドリマックスのプロデューサーとして数々のドラマを手がける。代表作に「夜行観覧車」「マザー・ゲーム」「Nのために」など(TBS)、「仮カレ」「今夜は心だけ抱いて」(NHK)などがある。


火曜ドラマ「結婚式の前日に」 
火曜夜10時〜
出演 香里奈 原田美枝子 鈴木亮平 山本裕典 真野恵里菜/美保純 戸田菜穂 江波杏子 遠藤憲一
脚本 山室有紀子 高橋麻紀 嶋田うれ葉
演出 塚原あゆ子 竹村謙太郎 堀英樹
4話は11月3日(火)放送