曼陀羅山寂庵公式サイトより

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 今年、違憲の安保法制を強行採決するという歴史的な汚点を残した安倍政権だが、他方、政治に無関心と言われていた若者のあいだから民主主義を問う大きなうねりが路上で生まれた。その潮目をつくり出したのは、学生団体SEALDsであることは誰もが認めるところだろう。

 現在、SEALDsは野党に協力を求める活動の一方で、立て続けに出版された『民主主義ってなんだ?』(河出書房新社)、『民主主義ってこれだ!』(大月書店)の2冊が増刷に次ぐ増刷、今月行われた渋谷駅前の街宣ではスチャダラパーが参加し大きな話題になるなど、カルチャーシーンも巻きこみながら新しい政治活動のかたちを提示しつづけている。

 そんななか、SEALDsに触発された大作家が、ある掌編小説を発表した。タイトルは「さよならの秋」(集英社「すばる」11月号収録)。書き出しは、こうだ。

〈瑛太へ
 LINE三回送ったのに、全然既読にならない。ということは無視してるよってことね。瑛太は他の女に気が散った時は、かえって、日に二度も三度もLINEくれたよね。あっ、過去形使っちゃった! ま、いいか。私にとっては、もう瑛太は過去の人。〉

 LINEで別れ話......いかにもな"若者"っぽさが出だしから溢れているが、じつはこれ、作者は御年93歳の瀬戸内寂聴。しかも物語は、この夏、SEALDsのデモに参加した女性が、SEALDsのメンバーである涼なる人物に心を動かされ、現カレの瑛太に別れを告げるというものなのだ。

〈ごめんね、私、瑛太以外の男、好きになっちゃった! 毎日ワイワイデモに出てるのにってあきれる? もちろん、相手はグループの一人よ。そんな男のこと瑛太には興味ないでしょ。とにかくこれはお別れの挨拶。〉
〈どう考えても、私は瑛太のこと今でも嫌いじゃないみたい。でも、別れよう、別れたいの。瑛太に散々バカにされながら、今度のSEALDsに参加して出るようになってから、人生観が変っちゃったの。〉

 たしかにSEALDsの活動に賛同した作家や学者、文化人、タレントは数多くいたが、それを文学に、その上、恋愛小説に仕上げた者はまだいない。時代をいち早く感受し、小説の題材に選ぶとは、さすが「恋と革命を」と訴え続けてきたジャッキーとしか言いようがない。

 しかも、語り手である主人公の女性は、〈だって今の総理の断行しようとする戦争法案が通ったら、瑛太も戦争に引っ張られるのよ。女だって応召されるのよ。私たちの未来はつぶされるのよ。〉と訴えながら、現カレ・瑛太をこう批判する。

〈瑛太は戦争は、する国が儲かるからするので、今、戦争したって儲かる国なんてないから戦争はおこらないよって言ってたわね。瑛太の言うことを100パーセント信じてた私は、それですっかり安心したけど、そんな気楽なこと言ってられる世情じゃないみたいよ。〉

 いま戦争しても儲からないから、戦争なんて起こるわけがない。なのにデモなんか行ってバカじゃないの? ──彼女をこのようにせせら笑う瑛太なる彼氏。これは、まさにTwitter上でSEALDs批判を繰り広げてきたホリエモンそのものではないか。

 本サイトでは何度も取り上げてきたが、瀬戸内は昨年、堀江貴文と対談本を出版。そこで瀬戸内が「なんか、今の時代の空気が戦前と同じ臭いなんですよ。本当に似ているんだもの。具体的には例えば特定秘密保護法なんて、あれは前の戦争のときとおんなじ感じですよね」と現在の危険なムードに警鐘を鳴らし、「安倍総理は戦争がしたいんでしょ?」「だって安倍さんが言ってること、してること見たら、いかにも戦争をこれからしよう! って感じじゃないですか?」と安倍首相を批判した。

 しかし、対する堀江はそうした戦争体験者の瀬戸内の意見を取り合わず、「いやいや。それは言いすぎじゃないですか? (安倍首相は戦争を)別にしたくはないでしょ」と一蹴し、こうつづけた。

「戦争が起こると対中貿易とかって完全にしぼんじゃうんで、そりゃあ絶対にないですよ。経済的結びつきが強すぎるんで」

 戦争は「完全に経済の問題」と言って聞かない堀江は、瀬戸内が徴兵制の危機感を語っても"コストに見合わない"の一点張り。挙げ句、「僕は、(中略)戦争が起こったら、真っ先に逃げますよ。当たり前ですよ」「行かれない(逃げられない)人はしょうがないんじゃないですか?」とまで言い切っている。

 きっと瀬戸内は、コストでしか戦争を見ず、「戦争になったら自分は逃げるし」と政治を他人事にしてしまう堀江に、SEALDsと対照的な"もう一方の若者像"を見出し、小説に登場させたのだろう。いや、むしろ本作はSEALDs小説というよりも、「堀江のように自分のことしか考えていない、現実の危機に鈍感なバカ男と付き合う意味はない!」と訴えているような気もする。

〈今が楽しくて、未来なんてゆっくり考えたこともなかったけど、私たちって、今日生きてることが当たり前で、明日も今日と同じ日が来るって思ってるけど、明日、生きてるかどうか誰にもわからないよね。〉
〈瑛太は笑うけど、デモってる時って体の中が透明になって、自分のことなんか無くなっちゃう。みんなで生きようよって、高揚した気分が体いっぱいにみなぎってくる......瑛太、わかって。私は瑛太のきらいなデモに行きつづけます。〉

 瀬戸内はこの夏、体調不良をおして国会前で行われた「総がかり実行委員会」のデモに参加している。瀬戸内が直接、SEALDsのデモに参加したかどうかはわからないが、若者たちが声をあげる姿に希望を感じた、そのことが本作からはよく伝わってくる。

 ちなみに、いまだに粘着ともいえるほど堀江はSEALDsのニュースに反応しては腐しつづけている。そしてこの小説を読み、求心力を失った元青年実業家がSEALDs人気に嫉妬しているのだなあ、と理解できた。まあ、普通に考えて、あらゆる事象をコストで語り、「戦争になったら逃げる」などと言う現実無視の思考力ゼロベース人間は、この時代、人気者にはなれないと思うが。
(大方 草)