RetroN5事件に見るエミュレータとオープンソースの関係(多根清史のゲーム空中殺法)

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ファミコンやメガドライブといった昔のゲームソフトを遊べるサービスや互換機がますます充実しつつある昨今、その中核を占めている「エミュレータ」についての連載も3回目。今回は一台で何種類ものゲームコンソールに対応したRetroN5にまつわる事件を通じて、その多くがフリーウェアとして流通しているエミュレータと縁が深い「オープンソース」との関係を扱います。海外ゲームコンソール換算では5機種、互換性のある国内ハードを合わせると9種類に対応した夢のゲーム機RetroN5。米アマゾンも販売ページを出したり引っ込めたりでやきもきさせた末に発売されると同時に品薄となり、代理店を通じて国内でも販売され、一時は定価の何倍ものプレミアムが付いた人気者です。

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そんなRetroN5が去年の9月に販売中止?と危ぶまれたのは、統合エミュレータRetroArchの開発チームが公式ブログ上でコードの無断使用を指摘し、ライセンス違反を訴えたことがきっかけ。詳細な画像付きでコードの大部分が一致していると証明されたことに対して、RetroN5の開発元であるHyperkin社はやはり海外サイトのNintendolife上で公式声明を発表しました。

同社は「RetroN5に使われているオープンソースエミュレータの関連コードをリリースする意図は常にあったが、ユーザー体験を改善することに忙しかったために対応が遅れてしまった。関連ソースコードはすでにリリースした」とコメントし、今後もあらゆるライセンスの遵守を目指して努力することを公約。RetroN5は市場から回収されることもなく販売され続け、現在に至っています。

この一件に抜き差しならない重みがあるのは、「エミュレータにも著作権がある」ことを再確認した点にあります。

RetroArchは、様々なゲームコンソール用のソフトが動く万能エミュレータソフトです。アタリ2600からワンダースワンカラーまで網羅し、対応コンソールの種類はRetroN5を軽く凌駕。動作するプラットフォームも、WindowsやMac、LinuxiやPhoneなど幅広く移植されています。
統合エミュレータも単一のソフトではなく、複数のエミュレータを内蔵した寄せ集め。入り口となるランチャーから各コンソールに対応したエミュレータを起動する、ちょうどOffice系ソフトのメニューで作業タイプに応じてWordやExcelなどに振り分けるイメージです。

こうした「複数のエミュレータの集合体」という構造はRetroN5も共通していて、いわばRetroArchのハード版。問題は、コンセプトだけでなく中味のコードも真似ちゃったことです。

類似するコードが指摘されたのは、メガドライブやゲームギアなどセガハードのエミュレーター「Genesis Plus GX」とSNES(スーパーファミコン)の「SNES9x Next」で、ともに商用利用を禁止しています。

この二つについては、RetroN5という形で製品化した時点で一発アウト。ことがややこしいのは、著作権についての異なる思想を持つ複数のエミュレータを流用しているため、各エミュレータごとに法的な扱いが違うからです。

やはりコードの類似性が指摘されているNES(ファミコン)エミュレータの「FCEUmm」とゲームボーイアドバンスの「VBA Next」はオープンソースソフトウェア、つまりソースコードを無償で公開し、第三者が改良や再配布が行えるソフトです。取り決めをまとめたライセンス(利用許諾条件)を守る限りにおいては、商用利用でタダで流用するのも禁止されていません。

オープンソースを支える思想は、コードを無償で公開して、世界中の誰もが自由にソフトを改良して再配布していけば、素晴らしい進歩が起こるだろうという信念です。よって大まかにいえば、無償でソースを改変できる代わりに、改変によって出来たソースの公開や、それを改変できる状態にすることを義務付けたライセンスを守ってもらうわけです。

オープンソースのライセンスはざっと3種類ありますが、前者はGPLv3を、後者はGPLv2を採用しています。v○の数字はバージョンを意味し、v2は1991年に、v3は2007年に公開。どちらも商用利用など公に頒布する場合には、改変したコードを公開し、またユーザーが改変できるよう求めます。

さらにv3はv2よりアップデートされていて、TiVo化を禁止。TiVo化とはコードを公開・改変できるGPLv2の条件を満たしつつ、ハードウェアに制限を組み込んで、ユーザーが改変したソフトの動作を妨害する仕組み。名前の由来となったTiVoとは、一時は全米で400万人ユーザーを擁して"事実上の標準"になりかけたこともあるHDDレコーダーのブランド名(ライセンスを受けて東芝やパイオニアなどが製品を供給)であり、運営会社名でもあります。

RetroN5はエミュレータのソースコードを公開せず、そのコードを改変した場合には動かない仕組みもハードウェア内に含まれていました。GPLv2、GPLv3、どちらのライセンスにも違反していたわけです。

すでに実績のあるフリーウェアの恩恵を活用しつつ、著作権の侵害やオープンソースのライセンス違反を犯すリスクも避ける。そんな都合の良い選択肢はなかったんでしょうか。

純粋に「法的なトラブルを避ける」という意味で言うなら、ありました。RetroN5にはSDカードスロットがあり、システムのアップデートもSDカード経由で行います。開発スタッフのインタビューによれば、もし動作しないカートリッジが見つかれば、中核のOSを変更して対応するとのこと。つまり本体の基本ソフトをすべてユーザーが書き換えられる、昔のシャープ製パソコン的にいえば「クリーン思想」のハードです。

それと同様に、ユーザー自身にエミュレータをインストールしてもらえば法的な問題はほぼ解消されるはず。購入したお客はあくまでユーザーであり、遊ぶのみなら改変・頒布に関するライセンスは関係ありません。コードを改造しても私用であればソース公開の必要もないですし、一般に公開する場合は、そのユーザーがライセンスに従えばいいだけで、Hyperkin社が責任を問われる可能性は低いでしょう。

同社がそうしなかったのは、全製品においてソフト環境が統一された「ゲーム機」にするためと推測されます。もし仮にユーザーにインストール作業を求めたならマニア御用達ガジェットとなってしまい、今ほどは売れなかったはず。それにユーザーごとに別々のエミュレーターを導入したなら(「事実上の標準エミュ」はあるにせよ)プレイ環境がバラバラになり、サポートが極めて困難になると予想されます。

レトロゲーマーの夢を叶えながら、法的には夢のない話がついて回るエミュレータですが、懐かしのゲームの配信や販売はすでにゲーム市場の一角を占めています。そうしたサービスを提供している大手ゲームメーカーは、エミュレータをどのように扱っているのか。次回は最終回、主なレトロゲーム配信・販売サービスとエミュレータの関係を総括する予定です。