テレビ朝日『テレメンタリー2015』番組サイトより

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 冤罪が相次いで明らかになっている。10月16日には、強姦罪で懲役12年が確定していた男性の無罪が確定。23日には、東住吉の自宅放火女児殺人事件について大阪高裁が再審請求を認め、殺人罪で無期懲役が確定していた母親と母親の内縁の夫が釈放された。

 だが、法務省や警察にこうした冤罪を防止しようという動きはまったくない。今国会では見送られたものの、次期国会で成立が確実視される刑事司法改革関連法案では、肝心の取り調べ可視化がほとんど有名無実化。かわりに盗聴を安易にできる通信傍受法や司法取引制度が導入されてしまった。

 さらにもうひとつ、冤罪を増やすような事態が進行している。それが「DNA鑑定の独占」だ。

 これまで大学の法医学教室など外部に委託しているDNA検査を原則中止し、すべてを警察本部の科学捜査研究所で行うというものだ。その理由は経費削減。しかしそんなことを信じるわけにはいかない。なにしろ、2013年度の司法解剖に伴う検査料は総額14億2900万円に対し、そのなかの外部機関によるDNA検査は約3200万円という小さなものなのだ。

 現在、科学技術の進歩によりDNA鑑定の精度は飛躍的に高まり、4兆7000億人に1人を特定することが可能だ。また警察による鑑定も年間27万件を超える。こうした事件の鍵を握る重要な証拠を捜査機関が独占する。それはすなわち、証拠を警察の都合よくいくらでも操作することが可能になるということだ。

 足利事件、東電OL事件など最新のDNA鑑定の結果、冤罪が証明される事件が相次いだが、もしDNA検査を捜査当局が独占し、隠蔽できれば、これら冤罪も未来永劫証明されえないということでもある。

 いや、あれは特殊な事案であり、警察は反省し、今後は違法捜査など行わない、証拠隠滅などしない、時代が違う、などと楽観的に考える人も多いかもしれない。しかし現在でも卑劣な証拠隠し、それに伴う冤罪疑惑事件は多数存在するのだ。

 この問題を正面から取り上げた『テレメンタリー2015「DNA鑑定の闇〜捜査機関"独占"の危険性〜」』(テレビ朝日系/15年6月29日放映)には、警察や検察による卑劣で恣意的なDNA隠しの事例が紹介されている。

 そのひとつが2012年10月7日深夜に鹿児島市で起こった17歳少女への強姦事件だった。少女はこれを警察に通報し、その2日後には自ら犯人を見つけたと通報し、Iさん(現在23歳)が逮捕された。

 少女の身体や服に一切傷などはなかったが、少女の胸から検出された唾液がIさんと一致、また1台の防犯カメラには人物は特定されないが男女が歩く姿も残されていた。しかし起訴後、証拠開示が進まないことに疑念を抱いた弁護側は、まず、防犯カメラは少なくともさらに4台あるはずだとして開示を求めたが、警察と検察は「全てのカメラが壊れていた」とこれを拒否。また目撃証人がいたとされたが、検察は目撃供述などないと否定したのだ。そのため弁護側は目撃者を見つけ「カップルがいちゃついていたのを見た」との証言を得ている。

 しかし一審では少女の証言は信用できるとして懲役4年の実刑が下された。防犯カメラと目撃証人を隠したとはいえ、DNAの一致という証拠が決め手となっていた。しかし、続いて行われた控訴審でDNA鑑定じたいに大きな疑念が出てくるのだ。

 控訴審では弁護側が要求したDNA再鑑定に対し、検察は試料不足などで再鑑定は不能だと主張した。そこで裁判所は法医学の第一人者である日本大学・押田茂實名誉教授に鑑定を依頼したところ、その結果は簡単に鑑定ができただけでなく、Iさんとは別のDNAが検出されたのだ。しかもこれは事件直後、少女のショートパンツから検出されたものと同一だった。

 もうお分かりだろう。警察と検察はIが冤罪だと知っていながら有罪にすべく数々の証拠を隠蔽したのである。このことが明るみにでれば少女の供述の信用性はなくなり、当初警察が描いた事件の構造が崩れてしまう。そのためDNAという重要証拠を隠蔽し、さらに防犯カメラは壊れたことにし、目撃証人をなかったことにした。公正でも正義でもなんでもない。自らが見立てた事件の構図にズレが生じたり不都合が出ると、こうした卑劣な捏造、証拠隠しにでる。それは現在でも、確かに行われているのだ。

 しかし幸いなことに、今回は民間によるDNA再鑑定が可能だった。そのためIさんは保釈された(控訴審は継続中)が、しかし今後DNAの再鑑定が警察や検察によって独占されてしまえば、それさえ不可能になってしまうのだ。また同番組では「再鑑定のための試料を被害者に返した」とウソを付き、証拠DNAの行方が分からなくなったという悲惨な受刑者のケースも紹介されている。

 現在でもこんな有様なのだから、DNAが捜査当局に独占されればどんな暗黒な事態が待ち受けているか。想像するだけで恐ろしい。さらにそれを独占する科学警察研究所や科学捜査研究所の実情もベールに包まれている。

 そもそもいくらDNA鑑定の精度が高まっているといっても、それを収集し扱うのは人間だ。扱いにミスがあったり、犯人をでっち上げて恣意的にDNAを付着させることなどいとも容易いことだ。冤罪を防ぐどころか、再鑑定が不可能になり、捜査の誤りや無罪を証明する手段を奪うものでもある。

 さらに問題は、こうした捜査機関による"DNA独占"は、朝日新聞が昨年11月5日付で報じたくらいで、メディアではほとんど報じられないことだ。

 ほんの一部の可視化と引き換えに、盗聴、司法取引、そしてDNAまで獲得しようとする国家・捜査権力。安保法制とともに、その監視を怠ってはいけない。
(伊勢崎馨)