ふたりとも、日本のサッカー界に浸透する一般的な理想像からは少し外れている。つまり俊敏でスキルフルなタイプではない。だが彼らに共通して言えるのは、持ち合わせた能力を最大限に出し尽くし、大方の予想を遥かに凌駕する到達点に届いていることだ。
 
 本田は自らの大言をバネに、飛躍を繰り返してきた。大言を吐けるだけ自分を信じる力がケタ外れで、だからこそ節目の大舞台に強い。岡崎もまた貪欲で前向きに突き進む能力が規格外だ。ひたすら泥臭く戦いゴールへの道筋を切り拓き、自信や実績とともに幅も広がっている。
 
 おそらく、本田や岡崎より優れた資質を持つ選手は少なくない。そうした状況下でも、ふたりは厳しい環境に飛び込み、必要なハードルを課し、飛び越えてきた。雑草の如く強靭なリバウンドメンタリティが成功の礎で、それはむしろスキルより信頼に足る要素なのかもしれない。
 
 たぶん先駆者としてセリエAに進出した中田英寿も、同一線上にいる。突出した自立の早さと賢さを武器に、人に先んじて周到な準備をして国際水準へと飛躍した。欧州進出に備えて早くから語学を勉強し始め、Jリーガーになった頃から本場で通用するスルーパスを想定し、強くて速いインサイドキックを徹底して練習したという。中田の基盤を成したのも自分を信じる力だ。ペルージャで中田をトップ下に抜擢したカルロ・マッツォーネ監督も述懐している。
 
「中田には相応の自信があったから使ったんだ」
 
 信念の強さと賢明さで道を切り拓いたのは、現在苦境に立たされている川島永嗣も同じだ。
 
 渡欧前から英語、イタリア語、ポルトガル語を勉強し、現在はさらに3か国語が加わっているとも聞く。最終的な成否はともかく、彼我の差が最も大きく、しかも全体に指示を与えなければならないGKでレギュラー(しかもキャプテン)を託された実績は重い。
 
 また日本人の勤勉な順応性で評価を得て、信頼を定着させてきたのが、奥寺康彦や長谷部誠だ。スピードとパワフルな左足を武器にFWとして海を渡った奥寺は、ドイツ(在籍先はケルンやブレーメンなど)でGK以外すべてのポジションをこなすほどオールラウンドに活用された。
 
 ゾーンの意識がまだ希薄だったドイツで、率先して様々なポジションでプレーし、模範的な練習態度が尊敬を集めたわけだが、現在の長谷部もそんな奥寺と似た足跡を辿っている。ヨーロッパの舞台で実績を出すには、フリーキッカーを奪い返す本田のような尖った生き方もあるが、奥寺や長谷部のように黙々と要求に応える方法もある。洋の東西を問わず成功への道のりは十人十色で、だからこそ人との巡り合せ、要するに運が重要なカギになるのだ。
 
 ただし運も手をこまねいているだけで近づいてくるものではない。逆に努力次第では巡り合う確率を高められる可能性もある。
 
 だからJFA(日本サッカー協会)も、様々な意識改革を喚起している。「考える力」「コミュニケーション能力」「ハードワークの意識づけ」「戦う姿勢」……、時代とともに成功への必須項目は次々に判明し、積み上がっている。
 
 結局どんなチームでも、指揮官の第一印象を覆すのは難しい。特に欧州へ進出する場合、移籍後すぐにスタメン起用されるか、あるいは先駆者だった奥寺のように、監督が明確に大事に育てていこうという構想を温めていない限り、なかなかシーズン途中からチャンスは巡ってこない。
 
 監督が変われば、選手個々への評価も変わるわけだが、最初の波に乗り遅れたら失地回復には何倍ものアピールが必要になる。今季の第1ステージ途中からチャンスを掴んでブレイクした浦和の武藤雄樹などは、レアケースと言えるかもしれない。
 
 それだけに選手側にも、自分に適した環境を調べ選択していく自発性が必要になる。これはライター仲間から聞いた話だ。高校時代に自分の特性に適さない大学からしかオファーがなく、「だったら、もうサッカーを辞めよう」と決断した選手がいた。しかし土壇場でJクラブからオファーがあり、今、彼は日の丸をつけて溌剌とプレーをしている。
 
文:加部 究(スポーツライター)