ジェレミー・リン(PG)は、ついに、探していた居場所を見つけたのだろうか――。

 今シーズンからシャーロット・ホーネッツに加わったリンは、プレシーズン6試合に出場し、平均25.2分でフィールドゴール成功率56.6%、15.3得点、3.8アシスト、4.3リバウンドを記録した。プレシーズンの成績だけで評価するわけにはいかないとはいえ、チームの成績も7勝1敗と、順調な仕上がりを見せている。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 オーナーのマイケル・ジョーダンは、中国遠征中の取材で、「ジェレミー・リンの獲得は、私たちにとって(この夏)一番の補強だったと思う」と称賛。コーチやチームのシステムとの相性もいいようで、リン自身も、「自分に合ったシステムで、楽しくできている」と、昨シーズンはほとんど見せなかったような笑顔で開幕を迎えた。

 2012年、当時リンが解雇直前だったニューヨーク・ニックスで突然、スーパースター級の活躍を見せ、世界中を興奮させた"リンサニティ(リン旋風)"の狂騒から、3年余りの月日が経った――。その間にリンは、ヒューストン・ロケッツで2シーズン、ロサンゼルス・レイカーズで1シーズンを過ごしてきたが、かつてのような輝きを取り戻せずにいる。年に数回、思い出したかのようにリンサニティ時代のような活躍を見せるものの、調子の波が激しくて続かず、全体的には持ち味を出せずに苦労していることのほうが多かった。

 ロケッツと契約したときにはチームの中心選手となるはずが、その後、ジェームス・ハーデン(SG)やドワイト・ハワード(C)が加入し、彼らに合わせたチーム作りのなかで役割は減っていった。サラリー調整のためにレイカーズへトレードされると、低迷チームのなかでコーチの求めるプレーができず、最初から最後まで試合に出ることなく終わったこともあった。新しいチームで自分の役割や居場所を見つけようともがき、そのために何をしたらいいのかわからずに悩み、何日も眠れない夜を過ごしたという。

 昨シーズン、リンはESPNの取材でこんなことを言っていた。

「僕はずっとスターティング・ポイントガードになりたかった。ずっとチャンピオンになりたかった。オールスターになりたかった。グレートな選手になりたかった。でも、この3年間、ずっと練習し、努力を重ねてきたけれど、コート上でその結果を出せていない。3年は、僕らにとって長い年月だ。NBAの平均選手生命は5年。67歳になっても続けられる会計士とは違うのだから」

 リンにとってこの3年間、一番フラストレーションを感じたのは、どれだけ努力しても前に進めないことだったという。高校、大学、そしてNBAに入ってからも、何度も壁に直面してきたが、努力し続ければいつもその成果が表れていた。

 しかし、リンサニティで一気に注目された後の道のりは、それまで以上に険しかった。努力しても、必ずしもすぐに結果が出るわけではない。それどころか、試合に出られない日があると、リンサニティ前の振り出しに戻ったような気分になって落ち込んだという。

 レイカーズでの1シーズンは、ヘッドコーチのバイロン・スコットが求めるスタイルと、自分が得意とするスタイルの衝突でもあった。リンはピック&ロールから中に攻め込むことが得意な選手。スコットはパスをつなぎ、ボールを持たない選手の動きからオープンな選手を作り出すスタイル。ニックスでのリンサニティ時代のような自由は、リンには与えられなかった。

 それでも、まじめで、意外と野心家の彼は、スコットのコーチングを批判したり、自分には合わないチームだから移籍したいというようなフラストレーションの発散の仕方はしなかった。

「正直言って、ひとつのスタイルだけで認められるような選手にはなりたくない」と、リンはESPNのインタビューで言っていた。

「僕の目標は、自分のプレーを進化させることで、どんなシステムにも対応できるようになることだ。グレート・プレーヤーなら、そういった方法を見つけ出せるはずだと思っている」

 もっとも、そうやって前向きに強がることで、苦しい状況を乗り切ろうとしていたのかもしれないが......。

 そんなリンが、NBAに入って初めて制限のない完全なフリーエージェントとなって選んだのが、シャーロット・ホーネッツだった。ベイエリアで育ち、ボストンの大学(ハーバード大)に行き、NBAに入ってからはサンフランシスコ(ウォリアーズ)、ヒューストン(ロケッツ)、ニューヨーク(ニックス)、再びヒューストン、そしてロサンゼルス(レイカーズ)と、偶然とはいえ、大都市ばかりを渡り歩いてきたリンにとっては、異色の本拠地だ。

「たしかに、これまで過ごしてきた街とは違う。だいぶゆったりした感じで、邪魔されることもない。ここの人たちはみんな、とても礼儀正しい人たちばかりだ」

 チームも自分に向いたスタイルで、スティーブ・クリフォード・ヘッドコーチとは最初からお互いの求めるバスケットボールで理解し合うことができた。チームメイトのケンバ・ウォーカー(PG)とも、コート上だけでなく、コート外でもいい関係を築くことができているという。そして、そういった安定した環境で、自分の持ち味であるアグレッシブさを発揮することができている。

「チームのシステムのなかで、アグレッシブにプレーするようにしている。システムが自分に合っているから助かっている。自分にとっては、とてもいい状況だ」とリンは言う。

 3年間の遠回りをした末にたどり着いたシャーロットにあるのは、2度目の"リンサニティ"ではないかもしれない。でも、それはどうでもいいことだった。ここはニューヨークではない。何よりもリン自身、自分が以前よりも選手として成長していると実感できる環境であることが嬉しかった。

「この夏、かなり力を入れて自分のスキルに磨きをかけたから、前よりいい選手になっていると思う。コーチ(クリフォード)は僕のゲームを理解してくれていて、僕ができると感じていることをやらせてくれる。あとは自分が、結果を出すだけだ」

宮地陽子●文 text by Miyaji Yoko