○ホームセンターでは売られていない

支持層と呼ばれる固い地盤にまで、基礎となる"くい"が届いていなかったことにより、建物が傾斜した横浜市の「マンション傾斜問題」。くい打ち作業を行う際に、「状況を記録するためのプリンタの電源を入れ忘れたうえに、記録紙がドロで汚れ、それに加えて雨に濡れたことで、担当者は他のデータをコピペして作業報告書を偽装した。だから誰も気がつかなかった」と、販売した業者が説明を行いました。

しかし、プリンタの電源を入れ忘れていたなら、そもそも記録紙がないはずですし、専門家によれば一般的に、雨の日はくい打ち作業を行わないとのこと。

何より、この手の"くい"はホームセンターで販売されておらず、地質調査を行ったうえで"くい"の長さが決まるはず。つまり、くい打ち業者の一存で、長さは決められないはずだ……。と、首をかしげていたら、建設を担当した会社がテレビ局の取材に対し、ボーリング調査に不備があったことを認めたうえで、

「下請けが"くい"を打った段階で固い地盤に届かなかったというデータを出してくれれば、追加で"くい"を打てた。そうすれば、問題は起きなかった」

と言い訳していました。しかし、「下請けが発注主のミスを暴くことなどできない」という話は、10年前のあの事件から言われていたことです。

○経歴詐称は日常茶飯事

昨年、事業を整理したとあるスマホゲームの制作会社のI元社長は「ちゃんとした報告書を上げてくれていれば」と嘆き節が止まりません。元社長の言葉を借りれば、部下の杜撰な「偽装された報告書」により、会社がつぶれたのです。

スマホゲームの業界は、勝者と敗者の二極化が進んでいます。新規参入が相次ぎ、飽和状態となったことに加えて、思いつきレベルの企画が横行しているからです。I社長の会社の企画も、正直「思いつき」のレベルでした。

その証拠に、プロジェクトがスタートを切ってから、経験者を雇い入れる「泥縄」ぶりです。そしてこの経験者が曲者でした。雄弁に語った豊富な経験と実績が自称に過ぎなかったのです。

経験者が上げる報告書は順調そのもので、I社長はそれを見る度に、捕獲していないタヌキの皮を数えていましたが、自称の経験でゲームを作れるわけがありません。プロジェクトは破綻し、事業整理にまで追い込まれて以来、I元社長は先の嘆きを繰り返し言い続けています。

もっとも経歴詐称など、どの業界でもあること。ましてや四半世紀来の人手不足を抱えるプログラムの現場では、経歴詐称は日常茶飯事で、プログラムを組んだことがない「自称プログラマー」など、はいて捨てるほどいます。だから、採用時に見抜けなかったのは致し方ないとしても、「順調な報告書」を丸飲みしたI社長のほうにこそ問題があります。

○本当の構造問題とは

自称経験者や、傾斜マンションにおけるくい打ちの担当者を擁護するわけではありませんが、報告書を鵜呑みにするだけなら管理者も社長も不要の「進捗0.2」だということです。

すべての作業には「歩留まり」が存在します。「歩留まり」とは、ミスや不良の発生確率のこと。ヒューマンエラーに機械の故障など、トラブルの理由は無限にあり、プログラム開発はもちろん、ボーリング調査に不備が発生する確率だってゼロにはなりません。だからこそ、トラブルのない報告書など、疑ってかからなければならないのです。

先述のI元社長は、経歴を詐称した自称経験者ばかりを責めますが、どう見積もっても1年はかかる作業を半年のスケジュールで設定し、異論を許さなかった戦犯は社長自身です。かけ声ばかりが大きく、社員のミスは執拗に叱責する人物で「物言えぬ空気」があったと、事業整理前に逃げ出した社員が語っていました。

建築業界でも同様の話を耳にしたのは10年たっても記憶に新しいあの事件です。

○10年たっても変わらないなら

あの「ヒューザー」などによる構造計算書偽造問題の当時、かなり現場に近い関係者から聞いた話です。

「鉄筋の数が少ないことは、現場の者なら誰でも気がつく。しかし、それを意見具申すると、次の仕事がなくなる。だから黙っている」

この話を裏付ける問題が、昨年南青山で発覚した「欠陥億ション」です。排水や配管を設置するための穴がないことが発覚し、建て替えとなりました。ミスは誰にでもあることですが、そのミスをミスとして報告できない構造が建設業界にあるのであれば、それこそが最大の「構造欠陥」と言えるでしょう。

今回の問題の全容解明にはまだ時間がかかりそうで、「自分たちの住むマンションは大丈夫か」と不安になっている皆様へ、贈る言葉があります。

「10年持てば大丈夫」

この言葉は、建築も手がける不動産会社の執行役員の言葉です。横浜の当該マンションが完成したのは2007年で、住民が手すりのズレに気がついたのは2014年で、7年後です。基礎に問題がある場合、建物の重みで10年以内に沈み込みや傾きがでるとのことで、それを過ぎた建物なら、基礎に関して言えば今日明日に沈むことはないと。

だから不備があっても良いということでは、もちろんありませんが、気休め程度になればと添えておきます。

○エンタープライズ1.0への箴言

報告を鵜呑みにするだけなら管理者はいらない

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治〜ネット世論と幼児化と山本太郎〜」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

(宮脇睦)