生牡蠣が美味しい季節だが……(shutterstock.com)

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 いよいよ牡蠣(真牡蠣)が美味しいシーズンがやってくる。その旬は、産卵を終えた11月頃から始まり、産卵の準備に入る3〜4月になると最も濃厚でクリーミーな味わいになるという。英語圏では5月(May)や8月(August)など、「R」の付かない月(5〜8月)には牡蠣を食べてはいけないと言われるほど。ただし、これは真牡蠣の場合で、岩牡蠣は6〜8月が旬とされている。

 さて、どんな牡蠣好きであろいうと、「生食」の際は少なからずビクビクしてしまうものだ。そして、一度でも「あたった」経験がある人は、その筆舌に尽くしがたい苦しみのために、「二度と食すものか!」となるはず。なかでも気をつけたいのが、ウイルス性肝炎だ。

上沼恵美子も「死を覚悟」したウイルス性肝炎とは?

 昨年2月、タレントの上沼恵美子が急性A型ウイルス性肝炎で、大阪府内の病院に緊急入院した。どうやら1ヶ月ほど前に食べた生牡蠣があたったらしい。黄疸で顔が真っ黄色になり、肝臓の数値が正常値の2倍にまで上昇。2週間ほどで無事に退院し、3月からは元気に仕事に復帰したが、「変な話なんですけど、『死に支度』をしようと思いました」と話すほど、容体は深刻だったという。毒舌や辛辣なアイロニーや言動が物議を醸す「西の女帝」も、ウイルスの毒気に一本取られたようだ。

 上沼が襲われたウイルス性肝炎とは何か? 肝臓は、2000種類もの酵素を使って、物質の代謝、解毒、胆汁の生成、栄養の貯蔵のために休みなく働きながら、体のホメオスタシス(恒常性)を保っている、まさに肝心かなめの臓器だ。万が一、障害を受けても、予備力や復元力が強いため、自覚症状が現れにくい。沈黙の臓器といわれる所以だ。

 肝炎は、ウイルス、アルコール、薬剤などが原因で肝臓に炎症が起こり、発熱、黄疸、全身の倦怠感などの症状が出る肝臓病だ。ウイルス性肝炎は、肝臓が肝炎ウイルスに感染し、肝機能障害を起こす肝臓病で、日本人が罹る肝炎のおよそ80%を占める。

 ウイルス性肝炎は、感染するウイルスの種類によって、A型、B型、C型、D型、E型、G型、TT型などに分けられる。日本人は、B型肝炎(患者数約150万)とC型肝炎(患者数約150万〜200万人)が多い。

生水や魚介類から発症するA型肝炎!

 上沼が罹ったA型肝炎は、A型肝炎ウイルスに汚染された生水や魚介類を摂取することによって発症する。経口感染すると2〜6週間後に症状が生じ、2〜3ヶ月以内に治癒する。上沼も同じような経過をたどったはずだが、回復は早かったようだ。

 症状は、発熱、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、関節痛など、風邪のような症状が約1週間続く。その後、黄疸が出て、尿が濃い黄色になり、灰白色の便を排泄する。ウイルスが肝細胞を破壊するため、血中のGOT(AST)とGPT(ALT)が上昇する。

 GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)とGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)は、肝細胞の中でアミノ酸を作る酵素。肝細胞が破壊されると、血液中のGOT(AST)とGPT(ALT)の量が増えるため、その値を検査すれば肝炎ウイルスによる病態がつかめる。

 小児は感染しても発症しなかったり、軽症になるケースが多いが、高齢者ほど重症化しやすい。安静と栄養補給に気をつければ、ほとんど慢性化しない。だが、安静を怠ったり、過労が重なると、腎不全や劇症肝炎に移行する場合もあるので注意が必要だ。

 他のウイルス性肝炎についても説明しておこう。

B型肝炎は、性行為やピアス、タトゥーの注射針の使い回しから発症

 B型肝炎は、輸血、性行為、出産などによって感染する。以前は、出産時に母親の産道で赤ちゃんが感染する母子感染が多かったが、1986年から始まった出生時へのワクチンやγグロブリンの投与などの感染予防策が徹底し、激減している。主な感染ルートは、性行為やピアス、タトゥーなどの注射針の使い回しによる感染だ。発生するまで1ヶ月〜半年の潜伏期間がある。

 症状は、発熱、吐き気、倦怠感など風邪のような症状が特徴だ。黄疸が出る場合もあるが、通常は2〜3ヶ月から半年で治癒する。B型肝炎ウイルスに感染すると、血液中にHBs抗原が増加する。急性肝炎が治ると、血液中のHBs抗原は消失し、抗原を無毒化するHBs抗体ができて完治に向かう。

 出産時から小児期に感染していても発症しないキャリア(保因者)の人もある。成人のB型肝炎のほとんどは、一過性の急性肝炎だが、慢性化すれば、肝硬変、肝がんにつながり、重症化するケースもあるので、決して侮れない。

自覚症状が少ないC型肝炎は、肝硬変や肝がんに進む恐れがある

 C型肝炎は、C型肝炎ウイルスが肝臓に浸入・増殖し、リンパ球の免疫細胞が炎症を起こす肝炎だ。麻薬の注射器による回し打ち、集団予防接種の注射針による使い回し、ピアスの穴あけ、刺青、輸血、血液製剤などの血液感染よって発症する。輸血による感染が全体の約4割を占めるが、1989年以降は、献血された血液もC型肝炎ウイルスの検査が行われているので、輸血が原因のC型肝炎は減少している。感染すると、2週間から4〜5ヶ月の潜伏期間を経て、症状が現れる。感染者の約30%は、ウイルスが自然に排除されれば、治癒に向かう。

 症状は、全身の倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸のほか、肝臓の腫れ上がる腫大も見られる。C型肝炎は、A型肝炎やB型肝炎と比べて、自覚症状が少ないのが特徴。したがって、健康診断や献血時などの血液検査などで、感染を知る人が少なくない。しかも、C型肝炎ウイルスの遺伝子は変異しやすく、免疫システムをすり抜けるため、感染者の約半数が慢性化しやすい。30〜40%は肝硬変や肝がんに進行するリスクが高いので、特に注意したい。

 また、いったん完治しても、感染から10〜20年後に症状が現れ、診断を受けた時に肝硬変や肝がんに罹っているケースも稀ではない。早期発見・早期治療が何よりも重要だ。

 B型肝炎、C型肝炎の感染経路は、血液や体液に限られている。したがって、通常の日常生活ではまず感染しない。たとえば、洗濯物を一諸に洗ったり、大衆浴場やプールに入ったり、同じ皿の物を食べたり、握手、くしゃみ、咳、抱擁などの接触で感染することはない。ただ、血液や唾液が付着する恐れがあるので、カミソリや歯ブラシなどは、他人と共用しない。肝炎患者やキャリアの人は、乳幼児に口移しで食物を与えないように配慮してほしい。

生で食べる以上、絶対にあたらない方法はない

 さて、これからシーズンを迎える牡蠣だが、A型肝炎のほかにもノロウイルス、腸炎ビブリオ、食物アレルギーによって「あたる」ことがある。アレルギー以外は、「しっかりと加熱」すれば、あたることはない。

 それでも生牡蠣が食べたいときはどうしたらいいか?

 滅菌海水プールで浄化・洗浄された「生食用の牡蠣を食べる」ことと、寝不足や疲労など「体調の悪いときに食べない」こと、この2つが絶対だ。ただし、生で食す以上、「絶対にあたらない方法はない」ということも肝に命じておいてほしい。
(文=編集部)