「ルイス、3度目のタイトル獲得おめでとう!」

 アメリカGPのチェッカードフラッグを受け、メルセデスAMGのチームスタッフたちから代わるがわる、無線で祝福の言葉を贈られたルイス・ハミルトンは、涙でしばらく応答ができなかった。

 幼少期からの憧れだった英雄アイルトン・セナに並ぶ、3度目の王座――。それは、ずっと雲の上のように思っていた場所に自分が辿り着き、自分もセナと同じように、世の中の人々に憧れられる存在になったということだ。

「今は胸がいっぱいだ。この瞬間がどれだけ素晴らしい気分か、伝える言葉が思い浮かばないよ。特にアイルトン・セナに並んだということが、僕にとってはとても大きなことだ。今日は本当に、自分が祝福されていると感じるよ」

 今年のアメリカGPは、荒れに荒れた。

 観測史上最強というハリケーン『パトリシア』がメキシコに上陸し、国境に面したテキサス州もその影響を受け、各地で暴風雨や洪水の被害が出ていた。オースティンにある「サーキット・オブ・ジ・アメリカズ」も例外ではなく、土曜日の予選は豪雨のために順延され、日曜午前に行なわれる慌ただしい週末となってしまった。

 決勝の1時間前に雨は上がったものの、濡れた路面が徐々に乾いていく難しいコンディションでのレースとなり、メルセデスAMGとて、いつも通りの速さを発揮できたわけではなかった。

「今日は勝てないと何度も思ったし、本当にタフなレースだった。序盤は(路面が濡れていて)スケートをしているみたいなレースで、4位まで落ちて、そこから2位まで這い上がって、しばらくの間リードして、またピットインしてニコ(・ロズベルグ)が10秒先にいって......。僕にとっては"ネバーギブアップ"が試されるレースだったけど、自分は勝てると信じ続けたんだ」

 その勝利に対する執念とあきらめない強さこそが、セナから教わったことであり、自分がレースを通して伝えたいことでもあるのだと、ハミルトンは言った。

「僕がF1マシンをドライブして楽しんでいることが、若い人たちを鼓舞することになっているんだと思う。今日のレースで表現できたことがあるとすれば、それは夢、希望、願いに向かってあきらめないということだと思う」

 その言葉どおり、2015年のハミルトンは強かった。

 かつては、精神的なもろさが指摘された時期もあったが、今のハミルトンは逆境に追い込まれても狼狽せず、そこから挽回する強さがある。それが16戦10勝――、表彰台を逃したのはハンガリーGPとマシントラブルでリタイアを余儀なくされたシンガポールGPのみ、という驚異的な安定感につながっている。

 そんなハミルトンの速さを誰よりも認めているのが、フェルナンド・アロンソだ。

 ハミルトンがF1デビューした2007年にチームメイトとして激しいタイトル争いを繰り広げ、不仲がささやかれたこともあったが、ドライバーとしてはお互いに実力を高く評価している。

「もはやルイスを、セナやラウダといった偉大なドライバーたちと別の扱いをすることはできないだろう。彼もF1を代表するベストドライバーのひとりと言うべきだ。彼が素晴らしいのは、(マクラーレン・メルセデス時代に)ベストなマシンをドライブしていなくても、何度も勝ってきたということだ。それは、誰にでもできることじゃないんだ」

 自身も2度の王座を獲得したドライバーとして、そして子どものころから同じくセナに憧れていた者として、アロンソのハミルトンに対する思いは察して余りある。

 低迷を続けているマクラーレン・ホンダにあって、アメリカGPでは「スペック4」と呼ばれる最新型のICE(内燃機関エンジン)を初めて実戦使用し、9番グリッドから好走を見せた。上位勢の脱落に助けられた面もあったとはいえ、スタートで追突されて最後尾まで落ちながらも、レース終盤には5位を走行し、フォースインディアのセルジオ・ペレス以下を引き離す快走を見せた。もし序盤の後退がなければ......という思いも募る。

「僕のキャリアで最高のレースのひとつだった。ペースもとても力強かった。最後尾から5位まで追い上げるという奇跡が起きそうだったのに、最後はエンジントラブルでペースが落ちてしまった。残念だけど、来年に向けて良い方向性が見えたと思う」

 最後はインジェクター関連のセンサートラブルでパワーが低下し、11位でチェッカーを受けることになった。しかし、来季に向けた燃焼系を投入したスペック4は、ICE単体としては十分な手応えをホンダに与えてくれたようだ。

 旧型のスペック3を搭載して走ったジェンソン・バトンは、最後に新品タイヤに換えてアタックし、6位をもぎ取った。たった12台しか完走することができなかった大荒れのレースだったとはいえ、マクラーレンは車体側でも空力面やメカニカル重量配分面の改良を加え、2016年の逆襲に向けて少しずつ歩を進めている。

 振り返ってみれば、2013年にハミルトンが名門マクラーレンを蹴ってメルセデスAMGに電撃加入した際、「どうして勝てもしない二流チームに移籍するんだ」という批判の的になった。

 しかしハミルトンは、メルセデスAMGがこのような成功を収めることを確信していた。

「人生は時に運に恵まれたり、そうでなかったり、良いクルマに恵まれたり、そうでなかったりするものだ。全力を尽くし、他の誰よりもうまくやり、その結果タイトルを獲得することは、自分と周囲の人々の偉大さが証明されるということだ。数年前には、自分が(3回目のタイトルを獲って)ここに座っていることなんて考えもしなかった。でも、僕は賭けをしてこのチームにやって来たわけじゃなく、デューデリジェンス(調査)をしっかりとやったうえで、正しい判断だと確信したからこそ決めたんだ」

 ハミルトンのタイトル獲得が決まった後、その健闘を称えるとともにアロンソはこう言った。

「今年のルイスは開幕戦からずっと圧倒的に強かった。彼はチャンピオンにふさわしい。だけど、来年は僕らもルイスとのギャップを縮めて、彼をもっと苦しめてやりたいと思う」

 今は低迷しているマクラーレン・ホンダが近い将来、同じように飛躍し、成功を収めることができるのか――。フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンという、ふたりのチャンピオンドライバーが口を揃えて言う、「未来への自信」を形にできるかどうかは、チームの努力にかかっている。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki