絶望的に仕事が遅い相手とストレスなく働く秘訣は?
震えるほど仕事が遅い人がいる。ちょっとしたメールの返信も、その日のうちに終わらない。「すぐやります」は“数日以内にやる”の意。待ちきれずに催促すると「明日はやれそうです」と、のんびり。彼らの辞書に「至急」という文字はない。そんな相手とスムーズに仕事を進めるにはどうすればいいのか。

 今回は江戸時代を舞台に、薬草にめっぽう詳しい若侍の活躍を描く『柿のへた―御薬園同心 水上草介』(梶よう子/集英社)から、対応策を探りたい。主人公・水上草介は今でいう、草食男子キャラで“水草どの“とあだ名をつけられるほどだが、ずば抜けた薬草の知識と発想でさまざまな事件を解決していく。

◆「根が腐りかけたやつらは何をするかわからん」

 主人公・草介は奉行所に務める高幡から、薬の盗難事件の相談を持ちかけられる。疑われているのは看病人として働く、およし。男に金をせびられる姿を何度も目撃されていた。高幡は「根が腐りかけたやつは何をするかわからん」と気をもむ。

“根腐れ”を起こすと、そうそう元に戻らないのは植物も人間も同じだ。しかし、完全に腐りきっていなければ、回復の見込みはある。例えば、仕事がひどく遅くても連絡がつくなら手の打ちようがある。“腐りかけ”を切り捨てるのは改善のチャンスを自ら放棄することに他ならない。

◆「馬鹿と弱虫につける薬はありませんっ!」

 草介はおだやかな性格で、普段声を荒げることはほぼない。そんな草介を怒らせたのが、博打で身を持ち崩した忠太という男だ。忠太は己の不幸を他人のせいにした揚げ句、犯罪に手を染めようとする。その生きざまはまさに馬鹿で、弱虫だと、草介は憤る。

“馬鹿と弱虫”の合わせ技はタチが悪い。例えば、「叱られるのが怖くてミスを隠し、問い合わせにも対応しない」が好例。この手のタイプのペースにつきあうと、仕事が進まない。頭越しで上司に問い合わせるなど、通常なら禁じ手とされる手段も解禁してしかるべきだ。

◆「食わなきゃ腹より、おれが先にくたばっちまうよ」

 草介はあるとき、腹痛に苦しむ男と遭遇する。「向こう10日間、何も食べるな」と医師に指示されたが、空腹を我慢できなかったという。咎める医師に男は「食わなきゃ腹より、おれが先にくたばっちまうよ」と訴える。

“べき論”は時に、ものごとの優先順位を見失わせる。例えば、チーム内での役割分担。各自が責任を持って役割を果たすのが望ましいが、無理なら柔軟に体制を変えたい。“デキない人”に気をとられ、納期に遅れてはそれこそ、無責任になってしまう。

 仕事が遅い人はどんな現場にもいる。待たされ、いらだつ自分もまた誰かを待たせていることは多々ある。まず実現すべきは”遅延サイクル”からの脱出。仕事が遅すぎると嘆くのは「期限を切る」「意思表示する」「他の人に連絡をとる」などやるべきことをやり尽くしてからでも遅くない。

<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『柿のへた―御薬園同心 水上草介』(梶よう子/集英社)―

<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。