通常とは異なる視点でサッカーを語る。独特の言い回しでサッカーに迫る。すると見えなかったものが、目から鱗が落ちるようにパッと開けてくる。

 何を隠そう、僕には、欧州の名将といわれる監督に話を聞く中で、そうした経験を何度かしている。例えばアリゴ・サッキ。彼は、プレッシングの説明をする中で「人間の本能とは逆の動き。なので、習慣化するまでには時間が掛かる」と述べている。人間の本能とは逆の動きとの言い回しに、従来にはない新鮮な響きを覚えたものだった。サッカーという競技を俯瞰で捉えた、造詣の深いオリジナルな言い回し。サッカーを熟知した者にしかできない達観した言い回しを、直に聞かされると、その人物の本物度が鮮明に浮かび上がる。サッカーの話をサッカーサイドから、使い古しの専門用語を並べることでしか話せない人は、逆に、底の薄さが見えてしまう。

 記者会見が面白い監督。インタビューが面白い監督。接していて面白い監督。目から鱗が落ちるような独得の言い回しを数多く吐いてくれる監督こそが、僕はいい監督に欠かせない条件だと思う。それを毎日聞かされれば、サッカーが違ったものに見えてくるはずで、選手にとってそれが新たなモチベーションに繋がるのだと思う。

 欧州の監督は、就任に際してまず、哲学を語る。理念、主義、モットーを語る。それが半ば慣例になっている。片やJリーグにはそれがない。日本のS級ライセンスはどんなことを教えているのか。このままでは、日本代表監督を任せても大丈夫そうな日本人監督は生まれて来そうもない気がする。心配だ。