舞台「ベイビーさん〜あるいは笑う曲馬団について〜」出演 池田純矢&鈴木勝吾&井澤勇貴インタビュー
ミュージカル『薄桜鬼』で共演していた池田純矢、鈴木勝吾、井澤勇貴の3人が、この秋ふたたび同じ舞台に立つことに。『ベイビーさん〜あるいは笑う曲馬団について〜』というユニークなタイトルを持つその作品は、急逝から10年以上を経た今も多くのファンを持つ鬼才・中島らも氏が脚本を書いたもの。今まで経験したことがない課題が3人3様にあるという物語の魅力と、お互いによく知る仲だからこそ見える、それぞれの素顔を語ってもらいました。

撮影/すずき大すけ 取材・文/大野奈緒美
ヘアメーク/大坪真人、山崎照代

軍人・孤児の少年・猛獣使いが出る芝居って?



――この作品に出演が決まったときは、どんな気持ちでしたか?

鈴木 あ、また純矢と一緒だ!って(笑)。今年だけでもう3回目の共演なので、それが最初に浮かんだ感想でしたね。
池田 同じ役者と一年に3回もやれるって、なかなかないよね。しかも、しょうちゃん(鈴木)とは今まで全部合わせたら、今回が9回目の共演だから。
井澤 僕はふたりとは1月の『薄桜鬼』が初共演だったので、今回が2回目の共演で。
鈴木 そんな感じしないけどなあ。もっと前から知ってるような気がする。
井澤 初共演から楽屋が3人同部屋で、一緒にいる時間が長かったからかな? だから、そのふたりとまた芝居ができるんだ!って素直にうれしかったよ。

――池田さんは出演が決まって、すごく驚いたそうですね。

池田 驚いたというか、信じられなかったんです。僕は昔から中島らもさんのことが大好きで、だから、その方の作品に出られるという喜びと、演出家のG2さんも、役者として「いつか一緒にやらせてもらえたら」と憧れていた方なので、ダブルの喜びで。

――しかも主演ですもんね。

主演なんて夢みたいだなって。こんなに早く願いが叶っていいのか?って意味で「マジか!?」と思ったし、がんばらなきゃと気合いが入りましたね。

――作品の舞台は、戦時中の満州。世の中にピリピリした雰囲気が漂うなか、サーカス団が軍隊を慰問に訪れることになり…という物語ですが、3人はそれぞれ、どんな役柄を演じるんでしょう?

池田 僕は「内海少尉」という軍人で、サーカス団の演目が戦争直前という時局にかなっているかを事前に視察する、現場監督のような役柄です。あの時代の軍人ということで、自分を抑圧して生きている人間ですね。
鈴木 僕の役は名前不詳(笑)。設定的には事故で両親を亡くした孤児で、ひとりで中国大陸をさまよっているところをサーカス団に拾われる11〜12歳の少年です。みんなから「ボーズ」と呼ばれてます。
井澤 そのサーカス団の一員で、象を始めとする猛獣使いの「ゾウさん」というのが僕の役。サーカスの司会も担当していて、ちょっとヌケてるんだけど憎めないキャラになってます。

――軍人役の池田さんと、サーカス団側の鈴木さん、井澤さんが対立する関係ですか?

池田 いや、むしろ内海はサーカス団と触れ合うことで、徐々に本当の自分の心に気づいていくんですよ。最初のうちは「敵の言葉である敵性語を使うなんてけしからん。サーカス団でなく“曲馬団”と言え」みたいな命令を下したりもするんだけど、ね?
井澤 あそこのやりとりは笑えるよね。
池田 軍人であるがゆえに己の感情にフタをして、常に葛藤を抱えている。その表面には現れない内海の心の機微をどう表現するか。難しいけど大事に演じたいです。



とことん役と向き合うのは臆病だから



――鈴木さん、井澤さんも、今回の役で難しさを感じている部分はありますか?

井澤 僕の場合、サーカス部分ですね。傘を使ったり、お手玉を使ったりという曲芸なので、今まで僕がやってきたダンスとは身体の動きが違うんですね。お芝居ももちろんですけど、まずそこをマスターしないとって。
鈴木 僕は現段階で1ミリも役がつかめてないです(苦笑)。26歳にして10代前半の子ども、それもあの厳しい時代の孤児を演じるってことに関して、頭ではわかってるんだけど、体に伝わってこないというか…。
井澤 やりたいこととは違うように体が動いちゃうんだよね? それは僕も経験ある。
池田 ホントに? だって井澤、パーフェクト系の役者じゃない?

――パーフェクト系というのは…?

池田 歌も歌える、踊りもできる、芝居もうまくて、どういう役をやらせても困ったりしないんだろうなっていう、いい意味で器用な役者なので。同じ役者として嫉妬してます。いつか壁にブチ当たって泣け!と密かに思ってるけど(笑)。
井澤 いつもぶち当たってるよ!
鈴木 違う、違う。悩むとかのレベルじゃないよ。それこそ僕と純矢なんて、私生活が崩壊しかけてるぐらいなんだから(笑)。

――それは、演じている役がプライベートにまで影響しちゃうって意味ですか?

池田 僕は、いわゆる憑依型の役者ではないんですよ。ただ、その役のことを考えて頭の中がグルグル回りっぱなしで、「抜けないっ!」って感覚になることがあるんですね。
鈴木 そうそう。僕は自分がどんどん動物に近づいてきてるなって思う(笑)。

――本能のままに生きる、みたいな…?

鈴木 人間って、生きてくうえで環境に適応してかなきゃいけないですよね。たとえば、寝る前に「10年先はどうしてるんだろう?」って考えたり、好きな人がいたら「どうしたらうまくいくかな〜?」ってヤキモキしたり。それってすごく苦しいことだと思うんですよ。

――そうですね。

鈴木 でも、作品を作っているときは役のことだけを考えていればよくて、鈴木勝吾の人生についてあれこれ悩まないで済む。人間としての自分が消せるって意味で、動物に近い状態だなと思うし、僕にとっては仕事をしてるときが一番いい状態だなって思うんですよね。



――なるほど…。では、井澤さんから見て、鈴木さんと池田さんはどういう役者さんに映っていますか?

井澤 今の話からもわかると思うんですけど、ふたりとも作品に対して、すごくストイックなんです。初共演の舞台はキャストがみんな同年代だったので、すごく和気あいあいとしてたんですけど、その仲の良さとは別にふたりには孤独感もあって。

――孤独感…?

井澤 たとえば、本番でも舞台の袖で腕組みして、目をつぶってブツブツブツブツずーっとセリフを言ってたり。
池田 えっ、僕も言ってた?
井澤 言ってたよ(笑)。まぁ、特にスゴいのは勝吾くんだけど。
鈴木 僕の場合は、セリフを忘れたらどうしようって、怖いだけなんだけどね。基本的に、石橋を叩きまくってからでないと渡らないタイプだから(笑)。