2017年4月の消費増税に伴う軽減税率により、国民は得をするのだと政府はアナウンスしているが、経済学者で投資家の小幡績氏は、経済学の見地に立って公平で効率的な税制を考えるとやらないほうがいいという。軽減税率とは、本当はどんなものなのか、そのデメリットについて小幡氏が解説する。

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 第一に、軽減税率は低所得者対策であるどころか、富裕層優遇の政策です。

 食料品は、どの所得層の人でも購入するものです。高所得者層のほうが購入額は大きく、軽減税率による実質減税の恩恵はより多く及ぶことになります。高級品の税率だけ高くしようにも、現実に高級品と廉価品の区別をすることは難しい(丁寧に育てられた何の変哲もない有機栽培の米や野菜は超高級品になります)。

 第二に、軽減税率による実質減税の分をどう補うかという議論が出てきます。他の税収で補うとなると、たとえば、「消費税率のさらなる引き上げ」といった話が出てくるわけですから、そうすると「消費税増税の負担を減らす」という意味がなくなってしまう。

 第三に、これまでは消費税率は一律8%だったわけですが、それでも中小業者には事務作業が複雑で困るとか、8%は端数が出て分かりにくい、といわれてきました。それが、軽減税率を入れるとさらに複雑になります。手間は倍増どころか3倍増、4倍増となります。

 仕入れで食料品を購入したときには軽減税率で、それを加工して販売したときには軽減税率が適用されないことになるなど、どんどん複雑になります。

 第四に、線引きの難しさもあります。これは軽減税率をすでに導入している諸外国でいくつか有名な例がありますが、「ドーナツをテイクアウト(持ち帰り)で買ったときには必需品の『食料品』として軽減税率(または免税)になるけど、店内で食べたときは『外食』となり、贅沢品と判断されてフルに課税される」といったことが起きます。

 食料品以外にも必需品と考えられるものは数多くありますから、「これも軽減すべきだ」という議論がどんどん出てきて、何を軽減すべきかの議論が永遠に続くことになります。すでに軽減税率の導入が既定路線である以上、それぞれの業界が適用を求めるのは理解できますが、それではエネルギーのロスが多くなると私は考えています。

 そうした結果、諸外国でも大きな問題が起きています。軽減税率やゼロ税率品目が広がったために、消費税率が20%であっても、税収の観点からいうと12%程度の効果しか持たないといったケースが生まれています。それなら軽減税率をすべて廃止して、20%から12%まで税率を下げた方が効率的であり、経済に大きなプラスではないか、という議論も出てきているのです。

 さらに、日本特有の事情としては、欧州のようにインボイス方式(仕入れの際に品目ごとに適用される税率・税額が記された書面を交付する仕組み)が採られていないことがあります。中小事業者を中心に(インボイスではなく)帳簿方式の継続を望む声が一部にあるため、消費税をどの事業者がどれだけ払うかがわかりにくい、という状況があります。

 軽減税率など複数の税率を適用する制度に移行する場合、インボイスなしにそれを行なうのは非常に難しいです。公正な制度にならない恐れがあり、実務的には問題が大きいとされています。

 このように、軽減税率を実施することは誰の得にもならないのです。

※週刊ポスト2015年11月6日号