次は肥満だ。太り過ぎると胃が圧迫され、胃の圧力(腹圧)が高くなる。そのために逆流が起こりやすくなるので、食生活で太らない努力が肝要となる。
 日本消化器内視鏡学会専門医の井野威氏は言う。
 「食べ過ぎや脂っこい物を食べた後は、胃と食道の間にある噴門が開きやすくなるので、症状が出やすい。特に夜遅くまで飲み食いして、帰宅後、すぐに寝るような生活が一番悪い。宴会シーズンは要注意です。体が横になっている睡眠中は、胃酸が喉の方まで上がりやすく、朝起きたときに、咳が出る、声がかれる、喉のイガイガ感が出るなど、逆流性食道炎の特徴的な症状が表れます」

 胃の内容物と一緒に胃酸が頻繁に逆流すると、その強力な酸で食道粘膜がダメージを受ける。炎症が起きて粘膜がただれ、「びらん」が出来た状態が逆流性食道炎といえる。
 「びらん」の有無は内視鏡検査ですぐ分かるが、病変がなくても粘膜の過敏な反応で症状が表れる“非びらん性”のケースも多い。大切なのは他の病気との判別である。
 「食道がんや胃がんでも似たような症状を伴う場合があるので、内視鏡検査は重要です。胃酸の逆流を繰り返すと、食道粘膜に置き換わる“バレット食道”を合併し、そこにがんが発生する可能性が出てくる。しっかりと検査で確認することが大事です」(同)

 罹患者である自営業Bさん(48)の例を見てみよう。
 Bさんは毎晩350mlの缶ビールを2本飲んでから、ウイスキーの水割りに移行。ウイスキーは少なくとも720mlボトルの4分の1、多いときは半分近くを飲んでいた。朝起きて胸焼けしているのは、酒のせいと軽く見て放置していた。
 だが、1年ほど前から症状が悪化。ビールなど冷たいものをグビグビ飲もうとすると、喉が焼けるように痛む。不安になったBさんは近くの消化器内科を受診し、内視鏡検査の結果、逆流性食道炎と診断された。しかし、処方薬を飲んでも症状が改善しなかった。

 逆流性食道炎で処方される薬は胃の分泌を強く抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が第1選択。
 この薬で胸焼けなどの症状が十分に良くなる人は、ほぼ7割で、残りの3割は、あまり良くならないというデータがある。
 逆流性食道炎の第1選択薬がPPIであることは“世界標準”だが、日本の薬の処方実態は、必ずしもそうなっていない。逆流性食道炎はじめ胃酸関連疾患での薬のシェアは、PPIが33%、胃の粘膜を保護する薬が31%と拮抗。PPIと同じように胃酸分泌を抑制するH2ブロッカーが22%、胃の運動機能を改善する薬が12%と続く。
 「Bさんが処方されて飲んでいたのは、H2ブロッカーでした。PPIとH2ブロッカーを比べると、PPIの方が胃酸分泌を抑える力が強い。ですからH2ブロッカーを処方されて思うように良くならない方は、主治医に相談した上でPPIに変更してもらうか、分量を増やす相談をしてください」(前出・専門家)

 逆流性食道炎は胸焼けや喉の痛みの他、胸の痛みや咳の症状を伴う。しかし、患者の多くは逆流性食道炎の症状と胸痛や咳が結びつかず、受診のミスマッチが生じて、適切な治療が受けられないケースもある。
 見逃されている症状のうち、胸痛を訴えた人の診断結果を調べると、狭心症は10%ほどで、逆流性食道炎が13%と上回っていた。食道の痙攣や消化管の潰瘍も合計で5%近かった。
 「狭心症は重篤な病気なので決して見逃してはいけません。胸痛があるのに狭心症を否定された場合、消化器科で逆流性食道炎を調べてもらいましょう」(同)

 逆流性食道炎は致死的な病気ではないが、食道がんの発症を助長する恐れがある。まず消化器科を受診し、病名を特定する必要がある。