食べた物が胃酸と共に食道へと逆流する「胃食道逆流症」(GERD)は、治療を怠って放置していると、食道潰瘍や食道がんの要因となる怖い病気だ。
 胃と食道の間には下部食道括約帯(筋)があり、胃酸などが胃から食道へと逆流するのを防いでいる。しかし、加齢をはじめ何らかの理由で下部食道括約帯の働きが鈍くなると、GERDを発症する。胃壁(胃の粘膜)は酸に強いが、食道壁はそれほど強くない。そのために胃の内容物が逆流すると、胸焼けや胃もたれ、逆流感の自覚症状が起こり、胸からノドにかけて不快感が表れる。

 GERDは食道の内壁がただれるもので、一般的には「逆流性食道炎」とも呼ばれる。昭和大学付属烏山病院総合内科(循環器科)の担当医はこう説明する。
 「逆流性食道炎に悩む人がどれだけいるか、正確な統計はないのですが、胸焼けや胃もたれによる不快感を訴えて、医療機関を訪れる人は年々増えています」
 そして、同医師は逆流性食道炎が増え続ける理由をいくつか挙げてくれた。

 第一にヘリコバクター・ピロリ、通称「ピロリ菌」の保有率が減ったことである。ピロリ菌は胃の中に生息する細菌で、胃潰瘍や胃がんの要因になる“悪玉菌”として知られる。
 放っておくと胃潰瘍や胃がんなどの発症につながるため、昨今はピロリ菌検査が奨励され、ピロリ菌を除去する治療を受ける機会も増えた。また、ピロリ菌は公衆衛生や生活環境面と関係しており、上下水道が普及した現代社会では減少しつつあるとされる。
 日本では、50歳代以上の中高年者にピロリ菌の保有者が多く、その保有率は60〜80%。これに対して、30歳代以下の保有率は10〜20%で、この違いは何かといえば、専門家は生活環境の変化を挙げる。

 しかし、こうも言う。
 「一見、矛盾しているように思えますが、ピロリ菌が減るのも善し悪しがあります。ピロリ菌が少なくなると、相対的に胃酸が増えてしまい、逆流性食道炎が起こりやすくなる」
 明らかに逆転現象と言わざるを得ないのだが…。

 また、戦後に食生活の欧米化が進んだことも、逆流性食道炎が増加した理由に挙げられる。脂肪分の多い食品が溢れ、そうした食事を続けると胃の働きが悪くなり、消化のために胃酸の分泌が増え、食道への逆流が起こりやすくなる。