写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●今年が初開催となる「ジャパン・バーチャル・ロボティクス・チャレンジ」
シミュレータ上の仮想空間で災害対応ロボットが技術を競い合う……それが「ジャパン・バーチャル・ロボティクス・チャレンジ」(JVRC)である。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催するこの競技会は、今年が初開催。10月7日〜10日、CEATEC JAPAN 2015の会場内で実施され、国内の10チームが出場した。

災害対応ロボットの競技会というと、今年6月に米国で開催された「DARPA Robotics Challenge」(DRC)を思い出す人も多いだろうが、JVRCはその"日本版"と言えるかもしれない。ただ大きく異なるのは、完全にバーチャルな競技であるということだ。実機のロボットが動くことは無く、PCの画面内で静かに競技が進んでいく。

○なぜバーチャル?

ロボットは、メカ、エレキ、ソフトウェアなど、様々な分野の技術が必要になる総合的なシステムだ。そのため災害対応ロボットのように、ミッション内容が高度で機体サイズが大きいものになると、予算的にも人員的にも、開発できる組織は限定されがちだ。

しかしJVRCであれば、ロボットのハードウェア開発は不要。PCと開発環境を用意すれば良いだけなので、出場への敷居はかなり下がる。今回、JVRCには12チームがエントリーし、当日の競技にはそのうちの10チームが出場したが、中には個人での参加もあった。DRCでは、Atlasのような標準プラットフォームを用意することで、ソフトウェア開発に専念することもできたが、シミュレータならばロボットを動かすための広い部屋も要らない。

シミュレータとしては、産業技術総合研究所(産総研)の中岡慎一郎氏が中心となって開発しているロボット用統合GUIソフトウェア「Choreonoid」(コレオノイド)を使用。Choreonoidは多機能なソフトウェアで、JVRC専用というわけではないのだが、動力学シミュレーション機能を持っており、これに競技タスクのモデルをインストールして、今回のシナリオであるトンネル災害を模擬する。

このほか動かすロボットのモデルデータも必要となるが、JVRC用に開発された「JVRC-1」のデータが配布されており、無償で利用できる。JVRC-1は仮想のヒューマノイドロボットなのだが、実機が開発されている「JAXON」「Hydra」「HRP-2改」のモデルも用意されており、たとえ実機を持っていなくても、これらのデータでJVRCに参加することが可能だ。もちろん、完全にオリジナルのロボットを作っても構わない。

DRCでは、高価なヒューマノイドロボットがあちこちで転倒するのが衝撃的であったが、シミュレーションであれば、転倒による故障の心配は無い。シミュレータ上とは言え、ヒューマノイドの転倒は心が痛むものではあるが、リスクが高いミッションにも気軽に何度でも試すことができるのは大きなメリットだろう。実際に産総研では、Choreonoidを日常的に研究開発に利用しているそうだ。

筆者は日頃からロボット業界を取材しているが、日本はハードウェアなどモノづくりは得意なものの、ソフトウェアや、社会への適用などの部分が、少し後手に回っているような印象を受ける。競技をソフト部分に特化することで、より人口が多いIT業界など、異業種からの人材やアイデアの流入も期待できるだろう。

●競技内容はロボットの本質にフォーカス
○トンネル災害に挑め!

では次に、競技の内容について説明しよう。

今回の競技のテーマはトンネル災害である。「地震によりトンネル壁面が崩落し、走行中の車両に落下。後続車を巻き込んでの多重衝突事故が発生した」と想定し、以下の5つのタスクを用意した(R1〜R5)。

R1:車両調査
R2:障害走破
R3:道具を使用した車両調査
R4:経路確保
R5:消火活動の補助

また昨今、日本では高度成長期に建設されたトンネルや橋など、社会インフラの老朽化が大きな社会問題になりつつある。放置すれば、中央自動車道・笹子トンネルの天井板落下事故のような大惨事を引き起こしかねない。そのため、災害対応ロボットの平時での活用方法として、インフラ点検が考えられており、これを反映させたタスクも2つ用意された(O1〜O2)。

O1:目視検査
O2:打音検査

各タスクの詳細な内容については、公式WEBサイトでの説明を参照して欲しいのだが、JVRCでは打音検査など、シミュレータで模擬するのが難しい作業などは、ロボットのカメラでQRコードを読み取ることで代用している。打音検査すべき場所にQRコードが貼られているので、そこまでロボットを移動させ、アームを動かして内容を読み取ることができれば、打音検査ができたと見なすわけだ。

QRコードの幅は最小7mm。これを読み取れる技術があれば、あとは打音検査用の装置など、個別要素の開発で対応できる。JVRCではそうした枝葉の部分は省略し、「ロボットを移動させる」「状況を確認する」「モノを動かす」という、より本質的な部分にフォーカスしていると言えるだろう。

なお、ロボットの制御は、自律でも操縦でも構わない。完全自律のチームは無いように見えたが、自律の度合いはチームによって様々。ただDRCと違い、「通信環境の悪さ」までは模擬されていないので、純粋に「競技」としてみれば、遠隔操縦の方が有利なルールだったかもしれない。

○ガンタンク風のロボットが優勝

競技の結果は以下の通り。2日間の合計点で順位が決定され、「MID」(MIDアカデミックプロモーションズ)が優勝。続いて「TEAMNADO」(大阪府立大学工業高等専門学校)が2位、「ODENS-B」(大阪電気通信大学)が3位となった。なお「AIST-NEDO」(産総研)、「NEDO-JSK」(東京大学)、「NEDO-Hydra」(東京大学、千葉工大、大阪大学、神戸大学)の3チームは、プロジェクトの当事者でもあることから、順位付けの対象からは除外されている。

優勝したMIDは企業チームという体裁になってはいるものの、事実上、元産総研で同社役員である松坂要佐氏ただ一人による個人チームだという。使用したロボット「MIDJAXON」は、上半身がヒューマノイド、下半身がクローラというオリジナル仕様で、上半身にはJAXONのモデルを利用。得点は270.6と、2位以下を大きく離した圧勝だった。

5つの災害時タスクのうち、最後のR5は「消火設備の扉を開ける」「ホースを引き出す」「ノズルを取り出す」「ノズルとホースを接続する」「バルブを開ける」という難易度の高い作業。難しすぎるということで評価対象からは外され、エキシビション的な「チャレンジ」として別の時間枠で実施されていたのだが、ここでも「あと一歩でクリア」というところまで到達するほどの活躍だった。

このロボットの形態は、「クローラの安定性」と「ヒューマノイドの自由度の高さ」の"いいとこ取り"を狙ったものだ。ただ、松坂氏は「普通のクローラ型ロボットに比べると重心が高いので、不整地では面白いように転ぶ」「JAXONの体重を支えるため長いクローラにしたが、旋回しにくい」とも述べ、「2足歩行vsクローラの論争が起きるかもしれないが、安直にクローラを選ぶと痛い目を見る」と注意を促した。

ちなみに上半身にJAXONモデルを選択したのは、元々は「クリエイティブ・コモンズで公開されていて安心して使えるから」というだけの動機だったが、実際に扱いだしてみると、「ものすごいポテンシャルがある」ことに気付いたという。「自由度の配置が絶妙」とのことで、これも好成績に繋がった大きな要因と言えそうだ。

一方、順位対象外ではあるが、得点の上で2番目だったのはAIST-NEDOチーム。このチームはDRC出場チームであり、ロボットはもちろん、DRCでも利用したHRP-2改だ。ほとんど実機通りのモデルとのことだが、JVRC用に2mくらい伸びる装置(通称「如意棒」)を腕先に追加した。これは、横転したトラックにかけられたハシゴを上り、車内を確認するR3タスクなどでどうしても必要であったため、追加したものだという。

JVRCの競技の様子は、YouTubeで動画が公開されている。ちょっと時間は長いが、興味があればそちらも参照して欲しい。

○次回以降の予定は…

このJVRC、名称に「第1回」とか「2015」とかの数字が入っていないのだが、気になるのは次回があるのかどうかだ。今後の予定について、JVRCのプロジェクトマネージャであるNEDOの河内山聡氏に聞いたところ、「続けるように議論はしているが、具体的な時期については未定」とのこと。参加者からは継続を期待する声も多かったので、ぜひロボカップのように根付いて欲しいところだ。

ロボカップは1997年の第1回大会以来、20年近い開催のノウハウを持つ。ロボカップには、実機のほかシミュレーションによる競技もあるのだが、閉会式で挨拶したロボカップ国際委員会会長の野田五十樹氏は、「最初はロボットが全く動いていなかった。フィールドにいるロボットの半分くらいが動いていなくて、たまにボールに触っただけでみんなが大騒ぎしていた」というエピソードを披露。 ところが、ソースコードを公開して共有することで、年々技術が向上。「すごい速度で進化していった」という。「こういう大会は続けることが重要。単独での継続が難しいようなら、ロボカップに提案してもらえれば、共同で実施するという選択もある。一発モノで終わっては残念。各チームとも得た物が多かったと思うので、来年、再来年と、どんどん発展していって欲しい」とエールを送った。 JVRCは海外チームの参加も可能。今回、英語サイトも用意していたのだが、国内チームのみの参加だったのはやや残念である。もし次回があるようなら、海外チームとの熱戦や技術交流も期待したいところだ。

なお今年12月に開催される「国際ロボット展」では、JVRCの一部をリアル化したデモンストレーションを実施する予定とのこと。バーチャルなJVRCの成果が実機にどう反映されたのか、こちらにも注目してみたい。

(大塚実)